見出し画像

ショートショート「ダシが効いてる町」

「ひと味違う町」

一度訪れた人は皆口揃えて、趣があり、味わい深い街だと評するK市。
その評判を聞きつけ、今日もK市にはたくさんの観光客が訪れていた。

町を行き交う人々も一様に、K市の味わい深さに酔っていた。
私もK市を歩きながら、その味わいを楽しんでいる。
町のどこを訪れても一味違うK市に興味が湧き、町の人に声をかけてみた。
「どうしてここはこんなにも趣があり、味わい深いんでしょうか?」
「あぁ、それはこの町はダシが効いてるからだよ。」
「ダシ、ですか?」
「あぁ、ダシさ。」
要領を得ない答えだったが、これもまた味わい深いと思えてくるあたり
K市は隅々にまでダシが行き渡っているのだろう。

K市で一泊する予定だった私は、夜の散策に出かけていた。
すると先程の町の人が、たくさんの他の町の人に囲まれ祝われている。
「あんた!他の町の人にダシの話ができたんだって!」
「はい。これで、この町から離れられます。」
「あんた、この町にだいぶダシを取られたからねぇ。」
「みなさん、すみません。自分だけ外に出られる様になってしまって。」
「いやいや、こればっかりは仕方ないよ。外の人にこの町のことを
 聞かれない限り、こっちからはダシの話はできないんだから。」
「そう言うことさ。だからあんた、外に出たらこの町の良さを広めてくれよ?」
「はい、任せてください。この町は一味違うって広めてきます。」
町にダシを取られるとは何のことだ、と話が気になり近づこうとすると
ガサっと物音を立ててしまった。
「あ!あなたは昼間の。悪いですね。あなた、しばらくこの町から
 出られなくなっちゃいましたから。」
どういうことですか!?
「この"町"は、そこに住む人から"ダシ"をとって"趣"にして"一味"違う
 町を作っているんですよ。」
人からダシ?
「気力とかやる気とかそう言うものですかね。」
そんな。どうすればここから出られるんですか!?
「さっきまで話していたでしょう?
 町の人以外にこの話をするんですよ。」
ダシの話を?
「ええ。けれど、相手に聞かれてからしか話してはいけない決まりでして。」
それを破ると?
「さぁ、どうなるんでしょうねぇ。何人かは試してみたらしいのですが
 次の日の朝には消えてしまうんですよね。
 この町に、搾り取られるのかな。全て。」

この町は素晴らしいところだ。
もし興味がある方は、ぜひK市を訪れてほしい。
その時は私が一日中ガイドに着くのでお任せください。

bow


ショートショートをまとめたマガジンはこちら。


あなたの「スキ」が何よりのサポートです。 ここまで読んでいただきありがとうございます。