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日本映画制作適正化認定制度に関する協約

■映適とは

令和5年3月29日「日本映画制作適正化認定制度に関する協約」の調印式が行われました。
これで正式に日本映画制作適正機構(以下映適)が発足したことになります。
映適とはどんなものなのか、私はこの制度が立ち上がる前から時々話を聞いていましたが、それでもよくわからない事は多かったです。
という事で細かい話は一旦置いておいて大きな枠の話から進めたいと思います。

映適は映倫(映画倫理機構)のように映画作品に対して審査をします。審査に適合していれば、認定され、映適マークを映画につけることができます。
審査するポイントは作品の内容ではなく、製作する体制や、スタッフの労働環境についてです。

審査するポイントは、大きな枠としては以下二点です。
1、 製作者と制作者、もしくは制作会社とスタッフの間で、公正な取引が行われた上で製作された作品なのか?
2、 制作現場にて適正なスケジュール、環境で制作された作品か?

 基本的にはスタッフの生活と権利の保護及び地位向上、映画制作に携わる人材の就業や取引の環境改善を目的にしています。
 少なくとも映適マークのある作品は一定のスタッフへのリスペクトの下、製作された作品であると言えると思います。
 ではマークのない作品はリスペクトなく制作された作品か?というとそんな事は決して無く、あくまで一定の審査をされてるか否かという目安でしかありません。
このマークがどこまで、お客さんである観賞者に響くか未知数ではありますが、その文化形成はまだまだこれからだと思います。

日本映画制作適正化機構ホームページ

基本的にはホームページに書いてありますが、重要なポイントは会社と会社、人と会社が契約書で結ばれる点。
実際に映画撮影に関わる時間の制約と休日の確保。
のこの二点です。
 これまでは契約に関して口約束が多かったと思いますが、その事によって立場上弱い方が不利益を被る場面というのが、少なからず存在しました。
この部分を整理した形になります。
 それと現在国内の労働者が守られてる労働基準とかけ離れた作業環境と徹夜撮影や休日なしでの撮影の部分にもメスを入れてました。
もちろん様々なハラスメントなどの労働環境を整える事も求めています。
結果今までより撮影、作業期間は長期化するので、相対的に予算、ギャランティーは上昇します。

■スタッフセンター

映適は事前に審査を行います。その審査に必要な計画書には必ずスタッフリストの提出が求められます。
そしてこのスタッフは、映適が掲げるガイドラインに対応した契約書で契約したスタッフである事が求められます。
 このスタッフリストを管理するのが、スタッフセンターです。
将来的には人材育成や、保険の窓口、ハラスメント対策の部分も計画はあるようですが、この辺りはまだ道半ばといった印象です。
契約書を取り交わした際に1%の手数料が発生して、ギャランティーから天引きされます。これがスタッフセンター及び映適の活動原資になります。
スタッフの登録自体は無料です

■3者とは

 映適に参加し協議している3者とは、
映連(一般社団法人日本映画製作者連盟)
日映協(協同組合 日本映画製作者協会
映職連(日本映像職能連合
の3団体です。
映連は松竹、東宝、東映、KADOKAWAの配給4社。
日映協は(株)オフィス・シロウズ、(株)ザフール、アスミックエース(株)、(株)アルタミラピクチャーズを初めとした映画製作会社が約30社所属している団体。
映職連は、(協)日本映画監督協会、(協)日本映画撮影監督協会、(協)日本映画・テレビ照明協会、(協)日本映画・テレビ録音協会、(協)日本映画・テレビ美術監督協会、(協)日本映画・テレビ編集協会、(協)日本映画・テレビスクリプター協会、(協)日本シナリオ作家協会の映画スタッフが所属している8団体です。

 映適の基準自体はこの3者を中心に話し合いが行われていますが、映適の取り組み自体は、各団体の所属の如何、フリーランス、会社員の区別なく批准しなくてはいけない審査基準です。

■問題点


 確かに機構は立ち上がりました、しかしながら数多くの問題を抱えつつのスタートとなった事は間違いないと思います。
 何よりも認知度の低さです。実際に恩恵を受けるはずのスタッフでさえ、理解していない人が大部分である事。
実際に運用のキーになる制作会社でも同様です。

 また、基準となった時間に関して、あくまでもこの時間は最大限を示すものであって、毎日11時間の撮影を促すものではありません。
 しかしながら、毎週6日間13時間拘束される可能性を内包しています。この時間は果たして文化的な就業環境と言えるでしょうか?
 撮休が週一という決まりですが、現在の撮休は現実的には、買い出しや、翌日の準備といった。「単に撮影がないだけの日」という事が多くあると思います、一般社会が週休2日を多く取り入れる情勢。さらには配給会社の働き方改革によって、土曜日封切りの映画が金曜日封切りに変化した情勢と、かけ離れたものではないでしょうか?

 また、現在の仕組みだと時間的な就業環境の監視が、現場の制作部に委ねられると言うのは実情と乖離する可能性が残ります。必然的に制作部の仕事も増えますが、その為の人員を簡単に確保できる現状ではない感じもします。

 さらには、私自身が今回情報収集して驚いたのが、アニメーションを枠外とした事です。もちろん、今回の一番の肝の部分は撮影現場の労働環境の改善をスタートとしている事は明白ですが、邦画の興行収入の多くを握っているアニメーションをこの取り組みから外した事は、観賞者の興味を少なからず失わせたことになるのではないでしょうか?

 今回の仕組みはあくまで「映画館で公開される映画」に限っていますが、映像スタッフの仕事はそこだけにあるわけではなく、TVやストリーミング配信、など他にも媒体は存在します、映画だけではなく、その他のメディアと同時進行した場合の事は特に明文化されていません。

 ハラスメント対策の部分が他の項目に比べてやや具体性の欠ける物になっています。
 2005年に施行された男女雇等機会均等法、2020年6月に施行された、改正労働施策総合推進法と労働者についてはセクハラ、パワハラに対してさまざまな取り組みが始まっていますが、映像制作の現場ではこちらもまだまだ十分な対策が進んでないという印象を受けます。
これに関しては「スタッフの労働環境の改善」という映適の目的のためにも具体的な対策を進める必要を感じますが、全体の文脈の中ではやや不足感が否めません。

■総括

 今までは「お金を出す側」、「製作する側」、「スタッフ」が同じテーブルを囲んでの話し合いの機会は極端に少なかったと思います。

その意味でこの映適は大きな一歩だと考えます。

映適のビジョンにはこうあります。
この認定制度は将来にわたって我が国の映画産業を永続化させるために必須な活動として、望ましい映画制作現場について認定を与える制度となっています。日本の映画制作が持続的、永続的なものとなるよう、多くの作品が本ガイドラインに基づき制作されることを望みます。

「適正化」とは、「適法」であることに加えて、就業環境等が「適正」であり、かつサステナブル(持続可能)なもの。

映適HPから一部引用

https://www.eiteki.org/about_us/vision/
映適のビジョン

持続的、永続的に産業、文化を繋いでいくには、何よりも不断の努力を持って改善を続ける事が、重要であると思います。

機構ができても、仕組みができても、何も変わりません。
 契約書やスタッフセンターなど、煩わしさが増すかもしれませんが、自分のため、業界のため、将来この仕事を目指す後輩たちの為に、少しだけ力を貸していければと、私は思いました。

日本映画・テレビ録音協会協会誌「録音」No.235内の私が書いた記事を一部加筆修正したものです。




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