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私の中の柔らかい場所 3

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リアドを出ると細い道を抜けて、車が通る大通りに出た。横断歩道で無い所を、車が途切れた瞬間を狙って道路を渡った。

一瞬のタイミングを失うと車がまた来るので渡れなくなってしまう。
モハメドの後ろを遅れない様に必死に付いていった。


小さな公園の様な広場があった。
ベンチに座ってお喋りする人達。


高い煙突の天辺に大きな鳥が二羽いた。
きっとつがいなのだろう。
卵を温めているのかな?


何だか胸がキュッとなった。
陽介と浮気して妊娠した彼女を思い出した。

私には一生縁が無いかもしれない世界。


途端にふてくされて、行きずりの男と寝る人生だっていいじゃないか?とも思えてくる。

しかしこれからそんなセックスに奔放なる女になったとして、四十過ぎの女を何人の男が相手してくれるのか?

勝手に自虐的で絶望的な気持ちになった。

そんな心の中での葛藤を秘めながら、必死にモハメドの後を追って歩きながらジャマ・エル・フナ広場に到着した。


夕陽に照らされた、喧騒の中のジャマ・エル・フナ広場に着いた。

日本よりも太陽が大きく見えて光が強く感じる。


すごく力強い夕陽に照らされた
ミナレットに向けてカメラのシャッターを押した。


ヨーロッパ、中国からの観光客か

様々な国の人達の話し声とアラブ系の確かビーンというコブラ笛の音


鉄製カスタネットのカルカバの賑やかな音に自分というちっぽけな存在が飲み込まれそうになりながら


ただモハメドの背中を追いかけていくと、フレッシュジュースの屋台の前で止まった


オレンジジュースを買って、渡してくれた

Its very delicious , please try it.

一口飲むととても美味しくジューシーで
まさしく疲れてカラカラに乾いた身体に染み込む様なフレッシュさであった。

日本円の値段にしたら、200円程度か

まるで高級ホテルで出される様な、ジュースだった。


とても瑞々しく、このフレッシュジュースでまるで自分も若返るようだった。


これは美容にとてもいいです。
モハメドが英語で言ってきた。

いや、でも私もう歳とってるから
苦笑いしながら
英語でモハメドに返答した。

モハメドは目を見開き驚いてじっと私を見つめた。

「ソノコサン、キレイデス」

そんな事はもうしばらくぶりに聞いた言葉だ。

ノーノー!!

私はせっかくのモハメドの褒め言葉を必死で否定した。

モハメドは少し悲しそうな顔をして、
ユーアービューティフル
ホントニ!!

と言った。

あぁ、そりゃ私はお客様だから
私に対して気を使ってお世辞を言ってくれてるんだろう。

それ位しか思わなかったけど、そのお世辞でも褒め言葉も受け取れない自分が悲しくなった。

もう私は若くは無い

若い時の様に、社会的に見ても当たり前の自信は無いけど

誰かに選ばれて愛されて、大切に扱われたい

もう自分はそんな事思ってはいけないと
思っていたんだ。


ふとこの件から自分について色々考えてしまい、気持ちが暗くなってしまった。


リヤドに戻ると、モハメドは明日の朝8時に迎えに来る旨を告げた。


Have a good rest.

チャーミングに大きい目を細めて去って行った。


すぐに夕食の支度がされ、モロッコインテリアの可愛い部屋に、お決まりのタジン鍋とモロッコ風サラダが用意されていた。

タジン鍋の蓋を開けたら、牛肉とプルーンがよく煮込まれているものであった。

一人では食べきれないかなぁ
モハメドも一緒に食べたらいいのに、とふと思った。

堅めのパンを手でちぎって、タジン鍋の煮込み汁をすくって口に運んだ。

日本の牛肉とは何だか違う、ワイルドな牛肉の味がした。

オリーブオイルとスパイスがかかったサラダを口に運んだ。

これはとてもさっぱりとしていて、食べやすかった。

新鮮なオリーブオイルと軽いスパイスがシンプルに野菜の美味しさを引き出している。

あぁモロッコに来たんだなぁ
本場でモロッコ料理を食べている。


牛肉は柔らかく煮込んであるがワイルドな味で、中年の女一人では食べきれない感じだ。

日本で食べたタジン鍋は、日本人の口に合わせてあるんだな

肉の種類も違うのかもしれないけど。

モハメドは今頃何を食べているのかな。
さっきから私はモハメドの事ばかり気になっているのだ。

その気持ちを打ち消す様に、黙々と口に食べ物を運んだ。


何であんなに若い青年が気になっているんだろう。

どうせ私なんて、相手にされやしないのに。

そう思ったらこんな自分がとても恥ずかしくてバカバカしく思えてきた。

マラケシュは夜になると少し肌寒かった。

陽介とはひどい別れ方をした。
それで人恋しいだけだ。

頑張って三分の二程の料理を平らげて、満腹になって重くなった身体で自分の部屋までの階段を登った。

古い邸宅をホテルにしたリヤドは、エレベーターが無い。

部屋に入り服をベッドに脱ぎ捨てシャワーを浴びようと蛇口をひねった。

案の定すぐにお湯が出てこないので少しの間、冷水がお湯に変わるまで待っていた。

早めに服を脱いだのを後悔する位にお湯が出るまでの時間を長く感じた。

やっとお湯が出始め、髪を濡らし素早く髪を洗った。

こういうパターンのシャワーを使う時は、スピーディーさが肝である。

またいつお湯が出なくなり冷水に変わるかもしれないから。

シャワーを浴び終わり、ベッドに腰をかけた。

ボディローションを身体に馴染ませながら、何だかとてももどかしく身体の芯が疼くのを感じた。


ああ疲れてるのに、何でこんなに身体の内側が何だか熱い


空気の冷たさと相反して、身体の内部がとても熱くうずいているのだ。


自分の中に、何か埋められるものが欲しいのだ。

髪の毛を乾かしながら、ボンヤリと自分の中のフワフワと熱い感覚を持て余していた。

心が寂しいの?
それとも身体が人恋しいの?

髪の毛を乾かし終わると急いでベッドに潜り込んだ。


足元はひんやりとしていた。
無性に人肌恋しくなった。
何でこんなに一人で寝るのは寂しいのだろう。


セックスは無くてもいいから、誰か一緒に寝て欲しい。

もしかして、あのガイドのモハメドを誘ったら応じてくれるんじゃないか?

一緒に寝る位なら

そんなよこしまな考えが頭に浮かんだ。

疲れがピークに達していて、頭で考えてセーブするよりも、自分の感覚が優位になってしまう。

実際、行動にうつしていないけども。

自分のやり場の無い身体の疼きに泣きそうになりながら、布団に潜り込んだ。


結局身体の芯の熱さと疼きを感じながらも、疲れていたのですぐに眠ってしまった。



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