見出し画像

久しぶりに転生ものを読んでみたら面白かった話④

『これからいろんな経験をし、年月を重ね、肉を貫き、血を浴び、戦と血風に酔いしれていれば、必要なことくらいは思い出すだろう。』

これは物語の序盤、主人公が自分の記憶を思い出せないということに気づいた時のモノローグである。色々とおかしいが、前世が『英雄』らしい彼女ならそういうこともあるかも知れない。

『良心の痛まない拳とは気持ちいいものだ。
 それをふるえる相手が、あと四人もいるわけだ。
 時間はないけど、機嫌がいいから死ぬほど手加減していっぱい楽しもかな!』

これはチンピラに絡まれた友人を助けようと、路地裏に単身駆けつけた時のモノローグである。

うん。誰がどう見ても暴力を振るえる機会がやってきたことを喜んでいるようにしか見えない。これもう目的が『暴力>助ける』になっているだろ。

ちなみにこの時のことは、『ニアになってから初めてワクワクする状況』と本人が語っている。ちなみに作中のニアは精神年齢はともかく、肉体年齢は5歳である。将来が不安でしかない。

ニアにとって暴力は『手段ではなく目的』である。何かを達成するために『暴力をふるう』のではなく、暴力をふるうために『そのチャンスを常に探している』のがニアである。

現代で言うと当たり屋みたいなものかもしれない。しかも金銭目的ではない当たり屋である。反抗はできるが、すると喜ぶのでしないほうがいいだろう。『骨へし折ったり折られたりする死闘感は欲しい』と公言してるので間違いない。なんなんだほんと。

ターゲットにされたら逃げようがないので、周囲の人間が彼女に対してとれる対策は『暴力をふるえる状況』にしないことになる。

流石のニアもなにも悪いことをしていない人をボコボコにはしない。暴力をふるう理由がないなら『意味のないことはしない』としっかり自制できる人間なのである。シュミレートはするけど。心の中で『こいつなら指一本でやれるかな?』とかボコる算段はたてるけど。

だからとにかく、彼女の前で悪いことはしてはならない。隙を見せると、彼女はニンマリと笑いながらあなたの元にやってくる。

想像してほしい。誰もいない路地裏の夜、ちょっと後ろを振り返ると、白髪の幼女がすっごい笑顔であなたのもとにやってくる。服と拳が血で汚れていて、彼女の後ろには何人もの犠牲者が倒れ伏している。彼女は言う。

『逃げないでね?逃げてもいいけど、追いかけるのが面倒だから』

その言葉を聞いた瞬間、あなたの意識は刈り取られる。何が起こったかもわからないまま、地面に倒れていく……。

この本はタイトルに、『病弱令嬢に転生した神殺しの武人の華麗なる無双録』と小さく描かれている。私はこのタイトル、間違っているのではないかと思う。これは無双系ではない。

ホラーだ。『この娘、何かがおかしい』みたいなキャッチコピーで売り出されているホラー映画。


③でも言ったが、この物語は前半から後半までとてもほのぼのとしている。だが、ラストで一気に無双要素、私見的にはホラー要素が押し出される。そのラストにこそ、作者が書きたかった物が込められていると私は感じた。
ぜひ読んで、私が感じた恐怖をみんなも味わってほしい。

感想はここまで。『凶乱令嬢 ニア・リストン』は電子書籍でも読めるので、興味がある人は概要欄だけでも読んでみるといいかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?