水滸伝120回本を読んで
・水滸伝(上)
FGOのイベントは基本、原作を知ってるとより深く楽しめる。今回のハロウィンが水滸伝がらみと知り、それならばと原作の水滸伝に触れてみることした。中身は百二十回本である。
最初に108の魔王が世に解き放たれるくだりで、この世界の『お偉方』がどんな輩かだいたい察し。これはさぞ血湧き肉踊る物語だろうと思い、ワクワクしながらページをめくった。
読了。この本やばい。一部を除いて無頼漢と悪代官と任侠者と普通のカスしかいない。
最初のあらすじを読んだ時点では、『悪い権力者たちを正義の豪傑たちがやっつける物語』と思っていたが違った。
読み終わった後の感想はこうだ。『悪い奴と悪い奴らが各々の思惑で殴り合い騙し合う、酒と血が常に寄り添っているバトルロワイヤル』。
描かれているのは主人公側といえばいいか、最終的にはおそらく梁山泊側になる人間たちなのだろうけど、林冲くらいしか善い人と呼べる人間がいない。もうびっくりするくらい悪漢しかいないから後半は『次はどんな荒くれ者がやってくるんだー?』って言う感じで読んでた(まあ後半に出てきたのは割と普通の人たちだったけど……最初らへんに出てきた魯智深がアレすぎて他の悪漢たちがマシに見えるの詐欺だと思う)
素面でも『酔ってんの?』って言いたくなるくらい荒い奴らしかいないからバンバン人が死ぬし、酔ってるともう絶対碌なことにならない。世紀末でももうちょっと倫理感あると思うレベル。
ただ、『悪い物語』ではないのは間違いないと思う。読んでて感じるのは悪人に対しての嫌悪ではないからだ。むしろ逆、普段はろくでなしの彼らが時折見せる人情と義侠心に対して感じるのは、賞賛である。
『かっこいい!』『それでこそ男だ!』『やっちまえー!』
心の中でこういう声が自然に出てくる。それがこの作品を歴史に残した魅力なのだと思う。酒にだらしない男たちが、弱者や仲間を傷つけられた時に見せる義侠心。どんな時代でもそれに心を惹かれない人はいないということだろう。
・水滸伝(中)
人肉まんじゅう!酒酒酒!カモがきたぞ!とりあえずひん剥いて縛ってからが本番!暴れるぞ酒をだせ!梁山泊入りさせるためなら村も焼くし家族も人質だー!!!
……。
水滸伝(中)はこういう感じの内容だ。『いきなり何?』と思った方がほとんどだと思う。申し訳ない。とりあえず一変全部吐き出さないと、冷静に感想は書けないと思ったのです。
上もわりと荒れててたが、中はより酷かった。主に宋江が各所で追いかけまわされたり殺されかけたり人肉まんじゅうにされそうになったりしたのが原因だと思う。あと李逵かなー、一般人もやってますよね彼……魚全部逃したりしてるし……あれはいいんですか晁天皇。ニワトリは通さないのに人はいいのか晁天皇。
色々倫理感がぶっ飛んでいたが、今回も好漢たちは気持ちのいい暴れっぷりをしてくれた。自分的には特に武松による、兄の敵討ちが痛快だった。家族を侮辱されて涙ながらに奮起する男はいいものである。やり方が脅しにつぐ脅しからのカチコミって言うのがアレだが、復讐譚と考えるとわりと自然だろう。セーフセーフ。
梁山泊入りした好漢もついに50に近く、大人数になるほど暴れ方も派手になり、より面白くなってきた。好漢たちによる大暴れが加速しているであろう下が今から楽しみである。
・水滸伝(下)
読んでいるうちに燕青、史進、呼延灼が出てくることがわかり、中盤までとても楽しく読むことができた。
特に燕青が活躍するシーンはとても良かった。とある山で行われた相撲の試合で、自分より遥かに大きな相手にほんの少しも臆せず、取っ組み合いのあとあっという間にひっくり返してしまうシーンはまさに『好漢』と呼ぶに相応しいものだった。
燕青は強いし顔も良いし頭も良い。だが主である盧俊義には信頼されずにぼろぼろに文句を言われ、けたおされてしまう。
梁山泊の首領である宋江もそうだが、水滸伝は全体を通して『忠義者』に対する扱いがどこまでも冷たいように感じる。頑張った人が報われない物語は、救いがないような気がして私は読んでいて悲しくなってくる。
水滸伝の下はそういう内容だった。108の好漢が荒々しく悪党どもをやっつける、読んでいてスカッとする話から一転、下の後半はその108の星たちが徐々に数を減らしていき、最後には完全にバラバラになってしまうまでを描いている。
正直、中を読み終わった時の感想としては、最後まで酒を飲んで戦っての大騒ぎを繰り返して最後にちょこっとだけ高俅たちを懲らしめる。良く言えば気持ちよく、悪く言えばあっさり終わるものだと思っていた。
だからこういう結末になるとは思っていなくて本当に驚いた。仲間が失われていくこと、忠義を尽くしているのに毒酒を飲まされたことに対する宋江の悲しみ。『死んで亡魂になっても一緒だ』と怒りもせずに死ぬことを受け入れた李逵の忠義。奸計にかかって死ぬくらいならと宋江が眠る地で首を吊った呉用と花栄の悲痛。
水滸伝の最後はどこまでも悲壮に満ちていて、あの好漢たちの面白くて荒々しくて楽しかった日々は全て夢だったのではないかと錯覚しそうになる程だった。
彼らを死に追いやった高俅たちに激しい叱責がくだったことは、死んだ宋江たちにとって慰めとなっただろうか。彼らの魂がどうか、安らかに眠れるように。
もしくは。梁山泊にいた頃のようにみんなが集まって、お酒を飲みながら楽しくすごせるようにと、私は願いたい。
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