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知れば知るほど奥深い商標実務

実際の使用商標と登録商標との同一性の重要性については、先の記事で触れましたが、今回は、指定商品・役務選択の重要性についても触れたいと思います。

以下は、2024年4月30日付けで審決が確定した、取消2022-300838(登録3329623)での判断の概要です。


1.背景

取消審判の対象となったのは、商標「スターフィルド」です。
指定商品のうち、
 第25類 作業服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,スカーフ,
     足袋,足袋カバー,手袋,マフラー,耳覆い,腕カバー,
     ヘルメット
について不使用取消審判が請求されました。
そして、商標権者が使用証拠を提出したものの、「該当期間に登録商標が使用されていることが立証されていない」として、上記範囲の登録が取り消されました。

2.争点

本取消審判での争点は、以下の2つです。

(1)使用商標と登録商標との同一性

商標権者が提出した証拠に記載されていたのは、「スターフィルド」ではなく、「Star Field」でした。
特許庁は、「「スターフィルド」と「Star Field」とは、外観も称呼(後者の称呼は「スターフィルド」)も観念も異なるものであり、社会通念上同一の商標には該当しない、と判断しました。

(2)指定商品と商標使用商品との同一性

商標権者が販売していた手袋(こどものすべりどめてぶくろ)は、ここでももわかるように、
・本体がポリエステル・ポリウレタン・その他の素材でできており指先から手のひら部分に天然ゴムですべり止め加工が施されている
・商品説明に「三輪車や自転車の運転に」、「砂遊びやアウトドアに」、「ガーデニングに」及び「お芋掘りに」の記載がある
というような、作業用手袋としての性質が強いものでした。

一方、商標権者が指定した区分と商品は、第25類「手袋」であり、実務上、これは、主として防寒又はファッション等を目的とする手袋が該当するものでした。

そのため、特許庁は、「商標権者の販売する手袋は、主として防寒又はファッション等を目的とする手袋には該当しない」として、指定商品と商標使用商品との同一性を否定しました。

3.教訓

大前提として、商品・役務は、その性質や用途、使用場所等によって、45つの区分(カテゴリー)に分類されます。
そして、今回問題となった手袋のように、性質、原材料、用途等によって該当するカテゴリーが異なる商品は珍しくありません。

同じ手袋でも・・・
第9類  :事故防護用手袋
第10類:医療用手袋
第21類:家事用手袋、作業用手袋、園芸用手袋
第24類:浴用手袋
第25類:手袋(ファッション・防寒用)
第28類:釣り用手袋、サッカー用手袋
用途が異なると、該当する区分が全く異なる。

更にタチの悪いことに、運動用の手袋であっても、自転車用手袋、スノーボード用手袋、スキー用手袋、乗馬用手袋は第25類に該当し、ゴルフ用手袋、サッカー用手袋、格闘技用手袋は第28類に該当します。

このように、指定商品・役務を選択する際には、『自身の取り扱う商品・役務は果たしてどの区分に該当するのか?』を慎重に見極める必要があり、誤った区分で商標登録してしまうと、商標を継続して使用していても登録取り消しとなってしまう可能性があります。

このような悲しい結果を回避するためにも、ぜひ、事前に専門家である弁理士にご相談下さい。


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