【読書】椰月美智子『しずかな日々』


大人になった「ぼく」が小学5年生のころを振り返って語る一人称小説です。



母親と2人で暮らす「ぼく」は勉強も運動もからっきし。クラスでも目立たない存在で、友達もおらず、ひっそりとした学校生活を送っていた。「ぼく」にとって母親との生活が世界の全てだったが、そんな「ぼく」を変える出会いがあった。

それは小学5年生でクラスメイトになった「押野」という男の子との出会いだ。彼は「ぼく」とは正反対の明るく社交的な性格で、「ぼく」とも当たり前のように友達になった。押野と出会ったことで「ぼく」は人とともに生きることの楽しさを知った。学校が楽しくなった。

しかし、その年の夏休みを前にして、母親が怪しげな仕事を立ち上げて引っ越しすると言い出した。引っ越しすれば押野とは違う学校に通うことになる。せっかくできた友達を、この楽しい毎日を手放すことは考えられない。「ぼく」は引っ越しに猛反対した。

困った母親は、これまで関係を断ってきたおじいさん(母親の父親)に「ぼく」を預けることにした。こうして「ぼく」は母親と離れ、おじいさんの家で暮らすことになった。ぶっきらぼうだけど心優しいおじいさんとの暮らしは、「ぼく」をたくましく成長させ、「ぼく」が生きていく上での心の拠り所となった。



大人になった後も、目を閉じて土の匂いを吸い込めば、いつでもあの頃に戻れる。ぼくの拠り所。ぼくのホーム。

地に足ついた生活が、自分はここにいて良いのだという自信をもたらしてくれる。

人は土から離れては生きてはいけないのよ

とはシータの台詞であると同時に『天空の城ラピュタ』の主題だと僕は思っている。




この小説では、劇的なことは起こらない。

描かれているのは、主に小学生の日常だ。

おじいさんの家の掃除、公園での野球、グッピーの世話、朝のラジオ体操、自転車での遠乗り、友達が出場する水泳大会の応援…

穏やかな日常を描きながらも、読者をひっぱっていく筆の力がある。

設定の魔力に頼らないディテールの描き方がある。

心穏やかにジンワリとくる小説を読みたい人にオススメです。



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