八十八ヶ所巡礼 近頃どうしてる？ レビュー
新卒で就職して5年目、1年前からマレーシアに駐在し2024年で29歳独身異常成人男性になるカナイシです。
（kuching, VeryNice restaurant)
29歳にもなると、日本の同僚は結婚や子育てといったライフステージを前進させている。
駐在先の業務課題や人間関係に頭を悩ませている間に、そんな様子を目の当たりにしてクラっと来てしまうのがなんとも辛い。
自分の人生の幸福感を測るものさしが、他者と比較することしかないことがなんとも苦しく思えてくる。典型的なクォーターライフ・クライシス（QLC）である。
そんなQLC真っ只中の自分が最近聴いて良かった曲を紹介します。
親孝行バンドとして知られる八十八ヶ所巡礼の、近頃どうしてる？です。
以下、歌詞を記載。
デジタル配信のみでCD未収録のため、歌詞は間違いあるかも。
燦然と消えた夏祭り
幽玄の夜が懐かしい
近頃どうしてる? 娑婆は暗くないかな?
近頃どうしてる? お腹すいてないかな?
乾麺を茹でて夏が過ぎ
偶然の夜が懐かしい
近頃どうしてる? 娑婆は辛くないかな？
近頃どうしてる?顔は死んでないかな?
遠くなってゆく ずっとそばにある物さえ忘れて
近頃、 近頃、 近頃どうしてる?
踊らされてないかな?
近頃どうしてる? 楽しくやれてるかな?
近頃どうしてる? 余計なお世話かな?
遠くなってゆくそっと頬を撫でる 風にさえ怯えて
遠くなっているもっとそばにある 奈落と踊ろう
2024年7月時点でアルバム収録ないため、間違いあるかも。
歌い出しは、夏に関連したワードから始まる。
燦然と消えた夏祭り
幽玄の夜が懐かしい
（中略）
乾麺を茹でて夏が過ぎ
偶然の夜が懐かしい
夏というワードを聞くと、マレーシア在住の私は日々感じている熱帯特有の直射日光の強さや湿度といった過ごしにくさを感じる。
同時に”夏祭り”は四季がある日本の概念であることに気づく。マレーシアは暑くても四季がないので夏はない。そんなことを考えていると、日本特有の季節の移ろいや日本の夏そのものが恋しくなる。「夜のローソンでアイスを買って食べたいなぁ」と懐かしさを想起させられる。このように無いものを数える一方で、乾麺ならマレーシアでと茹でているなぁと変わらないものを見つける。
そんな気持ちになっているところに「近頃どうしてる？」が突き刺さるのだ。
昔と対比して今の自分はどうか？といった問いかけが生じる。
この曲は非常に優しい。優しさに溢れている。
孤独に生活を過ごす中で、「娑婆は辛くないかな？」なんて言われたら日本から自分を気にかけてくれる両親を思い出してしまう。
加えて、この曲の素晴らしさは優しさだけでは無い。
ずっとそばにあるものでさえ忘れて
（中略）
踊らされてないかな？
今の自分が持つものを忘れてないか？
実は恵まれているのではないか？
他者との比較をするばかり忘れてしまったものがあることに気付かされる。
また、インフルエンサーが発信するような「かくあるべき」といった幸せ像に目が眩んで今の自分の中にある幸せを見落としてしまっていることに気づく。
ワンピースのジンベイのセリフがふとよぎる。
無いものは無い！お前にまだ残っているものは何じゃ！（ワンピース60巻）
最後の「近頃どうしてる？」の問いかけの後は、余計なお世話かな？で締められる。
これが非常に良い。
近頃どうしてる? 楽しくやれてるかな?
近頃どうしてる? 余計なお世話かな?
まさに独り立ちした我が子を気にかける両親の思考回路である。1人の大人として認めつつ、「それでも心配だよ」、「苦しくないかい？」といった承認と愛のバランスが取れている。
だからこそ、この曲最後の「奈落と踊ろう」もすんなりと腹落ちする。
苦しいことを遠ざけず、楽しんでしまおう！といった強い前向きさを、やわらかく受け取ることができる。
遠くなってゆくそっと頬を撫でる 風にさえ怯えて
遠くなっているもっとそばにある 奈落と踊ろう
2013年のアルバム0088の「苦苦⭐︎念仏」の頃から、この点で八十八ヶ所巡礼は変わっていない。苦しさを楽しむ姿勢を提示し続けている。
しかし、「近頃どうしてる？」ではさらに優しさが加わっている。
「近頃どうしてる？」を聴いて私は今の駐在生活を前向きにさせてもらえた。
他者と比べるのではなく、また社会的に良いとされていることで価値判断を下すのではなく、今置かれた環境を楽しむ心を持ちたい。
そして、これからの私は自分の親しい友人や家族に「近頃どうしてる？」と問いかけできるようになりたいと強く思う。
ところで、ここまで読んでいただいた方、
近頃どうしてる？
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？