茶化さない言葉

20代のある時期、深夜スーパーのバイトをしていた。同僚には同じような年代の野郎たちが数人。オレたちは何者にも成れない若い時間を、深夜時給と引き換えに浪費していた。

夜に店に入って、会社帰りの買い物客たちのピークを捌けば、あとはのんびりとした時間が訪れた。ひとり1時間交代でレジに立ち、残りの連中は控室でダラダラと何をするわけでもなく時間を過ごすのが日常だった。

控室には外からの入り口がひとつ、反対側にはドアが2つあり、男子更衣室と女子更衣室に繋がっていた。そう、こんな泥沼の底みたいな場所にも女子がいたのだ。しかも若い女の子がふたり。

ひとりは目がくりくりとした可愛い感じの女の子。髪型はポニーテール。スリムな体型で、明るい感じの子だった。

もうひとりは、まつ毛が長く、唇も厚めのセクシー系の女の子。髪型はストレートの長髪で、体型も女性らしい感じ。落ち着きのある子だった。

もちろん女子は深夜帯には入らず、夜遅めの電車で帰れる時間までの勤務だ。それでも入れ替えの時には控室で顔を合わせ、いろいろと軽い話をするくらいの仲だった。

ある日オレが控室に入ると、既に今日の仕事仲間の野郎ふたりが居た。何気ない会話の流れで、ふとセクシー系の女の子の話になった。そこでオレは、男子校部室的なノリでよくある、露悪的な調子でこう言った。

「〇〇さん(セクシー系女子)、エッロイよな~w」

そして、着替えを終え、野郎たちとその日の仕事を開始したのだった。

……その日以降、なんとなく〇〇さんから距離を置かれているような感じになった。冷たいような気がする。なんでだろう?と考え、ある可能性、しかもおそらく当たっている可能性に思い至った。

あの時、〇〇さんは女子更衣室にいたのだ。そして、男子校部室的露悪的表現のあの言葉を聞いてしまったのだ。

そして、そのまま挽回するチャンスは得られること無く、〇〇さんとバイトで会うことはなくなってしまった……。

ずいぶん昔のことだが、このことはたまに思い出す。もしかしたら、〇〇さんのことを酷く傷つけてしまったのではないか。そうだったとしたら、申し訳ないことをしてしまった。

男子校的露悪的空間では、素直で率直な言葉は言えないものだ。どうしても茶化したような言葉遣いになってしまう。それでも言葉を発したのはオレなので、責任はオレにある。

このことを思い出すたびに、言葉は茶化さず誠意を持って話すべきだと思い直す。守れてないこともあるのだが、何度でも思い直す。謝れなかった、せめてもの贖罪として。

〇〇さん、あの時聞いていたなら、ごめんなさい。あなたはとても麗しく、魅力的な女性でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?