自分の行動に誇りを持とう
いきなりですが、こちら↓
ちょっと待て何年前の話だよ、という内容です。
時代にそぐわない要素もあるでしょうから、さらっといくね!
家庭の事情
私は大学三年生のときから週六日ほど働いています。
そうなることは、あらかじめわかっていました。
『ハタチまでは面倒を見る。親が保護者と法律でも決められている』
みたいなことを父が言っていましたが、そんなことはどうでもよいのです。
できることなら大学入学と同時に、一人暮らしを始めたかった。
それが本音。
でも。
ハタチになったら出て行きなさい。
望む望まぬ関係なく。
私が知っている範囲で、同じような状況のひとはいませんでした。
けれども。
私の親戚という「狭いながらもひとつの世界」で見ると、ごくありふれた展開だったのです。
制服に憧れ、主従の「従」がいいなと感じていた私はベルボーイになりました。
ほんとうは、そのまま正式に就職したかったのですよ。
個人の事情
当時、まとまった休みを取ることは禁止されていました。
たしか、連続二週間の休みで自動的に退職だったかな。
ちょっとね、いろいろあってね。
地中海を見たくなったんです。
エーゲ海を旅したくなってしまって、もうどうしようもなくなりました。
ありがたいことに自分で稼いだお金で行けそうです。なら行きます。
「いて欲しいけどルールだからさ。でも、帰ってきたらまた戻ってきなよ」
と上司に言われましたが。
帰国したときの私は、なんというかもう、それまでの私とは別人になっていて、あんなに憧れていて念願かなってなれて好きで好きでしかたなくて戻ろうって思っていた…のに、まったく。もう別人の心境。
帰国した私は自己流で就職活動をスタートしました。
大学四年生の、六月のことです。
社会の事情
なんだかピンときたんです。いいな、これ。
という安直きわまりない発想というか即行動で電話をかけると、
「それではあらためてご案内さしあげますのでお名前と連絡先を」
数日後、第一回会社説明会のハガキが届きました。
その数日間の間にも、毎日どこかしらに、
「はい! 御社の事業に興味があります」
「はい! 通信は生活に必要不可欠なもの、私も一翼を担いたいです」
「はい! 私、住まいを快適にすることに関心があります」
いま思い出しながら簡潔に並べていても恥ずかしくなります。
敬語、丁寧語、社会規範、一般的なルール、とにかくすべてまるでなっていない感じありありだったと思います。
そんな勢いまかせが許されていた時代…というわけでもないのですが。
断られるときは断られるし、怒鳴られるのは慣れてるし。
会話がかみあわないとかも、自分の家族との関係で鍛えられています。
あと、ギリシャ帰りの私には、日本の慣習も数十年くらいの歴史的事実も、どこか遠い目で見てしまうところがあって、
「千年後の人たちに胸をはって語れるか」
とか自問自答と自己陶酔を繰り返し、ついに第一志望とした会社の説明会へ。
不動産を中心に多角経営している会社でした。
会社の事情
電車で会場へ。
公共交通機関は遅れることもあるので、ちょい早め。
いや。
初めての場所だし、むしろすごく早めに行って、
「近所を散歩してみるか」
いつも始発電車で勤務先に向かっていた私には、なんの苦にもなりません。
その日は雨でした。
雨か。傘。濡れるな。傘、いつだったか他人のと間違えそうになったりしたことあったよな。
いつ、どこで忘れても盗まれてもいいようになんて安いビニール傘でしたが、
「なんかめんどくさい」
と、
「カバン持ち歩くし、あんまり濡らしたくないなあ」
と、
「スーツびしょ濡れになるんじゃ…うわあ」
というのが混ざり合って、
ふと、決めました。
かっぱにしよう。
いつになく冷静沈着な決断でした。
都会でスーツで、かっぱ。あんまり見かけたことないけど。そんな私が出かけます。
当時からたまに言われました。「かわってるよねー」
まあね、かもね、けどね?
自分で考えて合理的かつ効率的なおかつ『イケテルおれ』ってなると、そうなっちゃうのですよ。
自分の行動には誇りを持ちましょう。たとえ満員の会場で、ひとりきり孤独なセンスだとしてもです。yeah!
ハガキに指定された場所につくと、おおきいけれど少し古い感じの雑居ビルっぽさがありました。
都会っぽくないな、と思いました。と同時に、
「それは東京やニューヨークの夜景が似合う都会、そんな都会っぽくないってことであって、なんなら何百年も前の建物がそのまんま使い続けられているヨーロッパっぽくていいんじゃないか」
と、個人の偏見と妄想が過ぎるだろおい、と自問自答的ひとりごとが脳内で始まってしまったのを、いまでも覚えています。
会場へのエレベーター。
とまってる。
ボタン、反応なし。
まわり、誰もいない。
受付とかありません。
「さすがに早かったかな」
と、
かっぱを脱いで、カバンから取り出した吸水タオルで拭き、ばっさばっさと空気にバタつかせてから、いつになく丁寧にたたみました。
たたんだかっぱはカバンの中へ。
いちおう用意しておいたビニールに入れて。
よし。これで手持ちはカバンひとつ。
えらいスッキリできたぞー。
外に出なければ、雨も晴れも関係ないですし。
ヨーロッパ帰りの私には ← スマートさが似合うのですよ。
ばかみたいに自己賛美でご満悦でした。
さと、あと1時間ある。
「ん? 散歩するんじゃなかったっけ」
と思ったけれど、まあいいか。
そのあたりは柔軟な性格です。
時間待ちのあいだ、ずうっと空想と妄想の世界にひたり、ときどき屈伸とかやってました。
待ち時間に本を読むと「気づいたらあっというま」が怖いので、いちおう持ち歩いていた文庫本もあるにはあったけど、やたらと脳ばかり働かせていました。
さすがに「あれ? ほんとに誰も来ないよ来ませんけど?」と不安になったのが、予定15分くらい前。
応募者が来ないのは、まあ、いいです。
人気とかも関係するだろうし、もしかすると人数制限つけて何回かに分けてるかもしれないし。
ただ、エレベーターがまったく不動なのは。
「これ、停電とかじゃ?」
いや、電気は点灯してます。
うーん。
そこからは時間すごく長く感じて、でも、さっき自分が通ってきたガラスの回転扉に向かって歩いてくるひと。近寄ってくる。来るね来るね、こっち来るね。傘さしてる。雨、降ってるよね。
あらわれたのはスーツ女子。
こちらに来ます。
目を合わせないようにしてるのかな。
この状況で他にひとはいないし、確実に同じエレベーター前に来るだろうし。来る、ほら来た、で、どうします、離れていたほうがいいでしょうか?
とか激しく脳内で饒舌になっていると、
「…」
あ。目が合いました、
思わず「あはようございます」と私が挨拶します、
すると「あ。おはようございます…」と挨拶が返されました。
ちなみに誤字ではなく「あはよう」と私は発音していたのですよ。
訂正する余地はなく、そのまま無言です。
しかし、広い空間ではないけれど、どうしようもなく狭い空間というわけでもないのに、彼女は私と「ひとひとりぶん」をあけて立っています。近い。
じろじろ見てるつもりはないのですが、私の視線の範囲内にいつも彼女がいます。
というのも、エレベーターの扉まんまえに立っていて、他に誰か来るかな来るかなと入り口を見ているわけですから。
すると、またスーツ姿。女性、その向こうに男性、さらに…
腕時計を確認すると、七分前くらいです。
なんとなく「おはようございます」と私は声をかけます。
でも、そこまで。つまり、その3人だけ。
あとは───
5分前、ほぼきっかり。どっと寄せてきました。
ほんとうに、どっと。
そして一列。
エレベーターの前、なんとなく立っていた私、次の女性、女性、男性。それが『線』のようになって見えたのか、とくに誰も指示していないですが列になって。列になった。
増えてきて、そこそこ詰めないと入りきらないくらい。
私が入り口の回転扉を見ていて「あ。あのひとは入れないんじゃ」と思ったとき、回転扉の前で立ち止まった女性が、こちらのほうを観察しています。
ピーン。
「ん?」
なにかいまエレベーターが音をたてたような。
と、
みるみるうちになにかが降りてくる気配。
数字も点滅。
うわ。はやっ。
ピーンだかチーンだか鳴って、エレベータが着いたらしい状況になって。
数秒間。
あかない。
あれ。
空箱が降りてきて着いただけ?
と油断した次の瞬間、ドアが開き始めます。
「おはようございます」と私が中に向かって声をかけると、
「おはようございます」と中の男性が即反応しました。
ドアが完全に開いて、その男性が出てきます。
年配の男性です。
シャキッとしたスーツです。
「それでは順番に、そうだね六人づつ乗ってもらおうか。じゃあ、並んでいるみなさん。みなさん会社説明会に参加…だよね?
六人づつ乗ってあがってきてください。四階だよ」
四階、会議室。ほんとうに会議室という空気感。
「前から座ってくれるかな。奥からじゃなくて、まんなか通路はさんで。まずは右へ。通路側からね。うん、そっち。
で、あなたからは左だ。やはり通路側から」
私たち最初の六人が席に着くと、壁の時計は予定時刻ちょっと前。
私の腕時計では、カウントダウン59秒、58、57、というタイミングでした。
なにか、積まれている。パンフレットかな。
興味ありげに見ていたら、
「先に見ていていいよ?」
と、エレベーター到着を待ちながら対応中の男性が言うので、
「ありがとうございます。では失礼します」
と言って、私が勝手にパンフレットを手にとり、
「どうぞ」
と流していきます。
「なんだか雑用係みたいだな」と思ったのは一瞬で、
「うわ。写真すごいキレー」
ってなってしまいました。
どこかの農園の写真が載っていたのですよ。
そのとき、あらためて実感できたというか、
「あ。こういう会社。そういう会社だよね」
って理解したんだと思います。
広大な敷地というより、どこか自然なまま、でも確実に人の手がはいって整備されている、そんな農園。
コーヒー農園かな。
それとも紅茶?
ハーブか。
ぱらぱらぱらーってページをめくっていくと、建売住宅、工具の販売店、木材の集積場、出荷待ちのような整えられた花花花、花、花。化粧品、香水、レストラン、コンビニエンスストアー。いろいろやってるんだな。
そしてグラフ。売上かな、と思ったあたりで、
「それでは説明会をはじめます」
と、さきほどの男性が言いました。
…あれ? おれなに書いてんだっけ
なんか意味もなくのってきて、書いてしまっているけれど、なんなんだろうねこれ。
そもそもこの記憶。思い出すことさえ、数十年ぶり…なんじゃなかろうか。
えっと、会社説明会は。淡々と進みました。
あいさつ、説明、それから各部門の担当者が具体的な仕事内容や勤務ぶりを説明。
「それでは以上で説明を終わります。質問があれば挙手をどうぞ」
質問を思いつかなかった私は静かにしていました。
「まあ、いちおうね。説明ちゃんとしたよね? わからないことはわからないと思うけど、まあ、こういう場所での説明だけじゃ十分じゃないのは承知してる。詳しくはおいおい個別に話す機会にでも。家に帰ってパンフレット持ち帰って見ながら質問を考えてくれてもいいしね。じゃ」
と解散…するところでした。
そのとき、
「いや、ちょっと待って。さすがにそれ、あっさりしすぎでしょう?」
と、住宅部門の担当者が笑って、
「じゃあ、こちらから質問させてください。えっと、長くならないよ。簡単に。じゃあ、代表して一列目のみなさんに。まずは、きみ。やってみたいことってある?」
帰るときは最後だった
一列目の数人が質問に答えていきました。私も質問されて答えました。
なんだっけっかなー。
思い出そうとすれば思い出せるけど、いいや。ここでは飛ばします。
最後になって、じゃあ本当に本日の会社説明会はおひらきです解散しまーすごくろうさま、で。
「じゃあ入ったときとは逆に後ろのほうから。順番にエレベーターで」
と、穏やかながらも適切かつ流れるように美しい仕切りで、最初の男性がテキパキと動いています。
帰るときは、最後でした。
それまでずっと座ったまま。
じっと。
パンフレットを、また眺めたり。閉じたり。覚悟を決めてなにも見なくして。それとなく手帳に、ちょっとメモを加えたりして。
すると。
いよいよ、私たちの列。
「いちばん最初に来てたのが、きみ? だよね」
「はい」
と返事をする。
まあ、いちおう。なんだか恥ずかしい。監視カメラで監視されてたのなら気恥ずかしいけど、まあ別にいいや。
「じゃあ、ここに名前と連絡先と、それとこっちは希望部署。あればまるして。次に来たのは、きみ?」
と、私の次に来ていたスーツ女子に声をかける。
「それじゃ彼の次に書いてね。で、ひとりひとり順番に書いていってくれるかな」
書き終えた私が「ありがとうございました」と言うと、
「うん。それじゃ、こちらへどうぞ」
と、案内されます。
エレベータではなく階段で、ひとつ上の階へ。
そこで面接が始まったのです。
初夏の輝き
「一緒に働けるのを楽しみにしています」
と言われて、その日はラストのラスト、会社説明会から面接の終わりです。
結論から言うと、それが「内定、のようなもの」だったのでしょう。が、私には勝手がよくわからなくて、もちろん内定書みたいな書類もないですし、契約云々の書類もないです。
まあ、いいか。
しばら尾をひいた質問があります。
「男兄弟はいますか」
「いえ。男は私ひとりです」
「そうですか。それだと親御さんは手放したくないでしょう」
「?」
「いえ、さきほど林業に興味があるようだったので。そういう勤務だと、赴任先は山の奥なんですよ実際。いままでもいたんです、いざ勤務となったとき、遠すぎるので地元にしてほしい、とか。転勤したくない、あるいは、うちの息子娘を転勤させてくない。そういう声がね」
「大丈夫です。私は長男ですから将来は家を引き継ぐ立場です」
「うん? だから、だからそのそれゆえの話なんだけどね」
「いまは未熟でも家を背負う立場です。親には親の考えがあるでしょうが、私の決断は私のモノ。実際、私の父と祖父もそうでした。いずれ私が全責任を持って家の決断をしていきます」
「ほう」
なんとなく「あれ? とおまわしに断られるのかな」と思ったら、そうではなさそうな笑みを浮かべられて、
「しっかりした考え方だ。きっとご両親も立派なかたなのですね」
そう言われて、言われて、言われたわけですが、帰りの電車のなか、
「まさかアレ嫌味とかじゃないよね? ね? ね!」
と自分で自分に脳内でしつこく迫ってしまいました。
地下鉄を降りて地上へ出る、するとそこには初夏の陽射しがあふれています。きれいだなー、なんか。
もう時刻は夕方です、が、またまだ太陽は高くに感じられました。
転機
社会人になる。
それは、ひとつの転機です。
社会人になってからも、いろいろあります。
私が社会人になった頃は、「転職」が稀有なことでした。考えることも稀だったような空気感がありつつ、しかし現実には20代で転職をしたひとも少なくないでしょうから、社会的にも転換期だったのかなーって感じています。
関係ないけど週休1日な ←
からの、隔週2日休みの流れ。完全週休2日とか、いつからなったんだっけ。
注)当時から完全週休2日の会社もありました
私は私。一般的とは、ちょっと違うかもしれません。しれませんが、超個性的でもないのは確かです。多数派ではないかもだけど、ものすごい少数派とも限らないんじゃないか。
いろいろあって、でも、それほどのことでもないかなとか思えたりもするし、大変だったことも含めて「いま、こうして生きている」ことに、ちょっと不思議な感覚がしますし、なんだかんだながらもいろいろ乗り越えてこれたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
私は不動産関連の会社との縁を得られました。
たずさわってきた業務は、おもに営業。
具体的に少し並べると、広告営業、小売店販売、飲食接客、製造、という感じ。ぜんぜん具体的じゃないか。
現在は個人事業主という立場で余暇を楽しんでいます。
ん?
そうだっけ。
まとめ
縁があれば、その縁を大切にしてきました。
あたふたしたり、あわてたり、わたわたしてしまったことも多数あるけれど、縁に恵まれ縁で生かされています。
そんな感じでーす。
超余談・蛇足級
縁を大切にしている私が書いている小説の主人公に「ゆかり」という女性がいるのですが、名前は「縁」とかいて「ゆかり」です。
まだまだ未熟でお恥ずかしいかぎりですが、これからも書いていきます。
スペシャルサンクス
今回の記事も、前回に続きまして、どんむさんの作品をタイトル画像に使用させていただきました。ありがとうございます。
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