小説『人間きょうふ症』15

 中学生のときの運動会でもらった藍色の鉢巻を頭に巻き、私にもできることを証明するためのモチベーションを上げた。
 「なんだ、これ解けるじゃん。さっきの消極的な言動はなんだったんだろう。」
 好きなモーツァルトの曲を蓄音機で流しながら、鉛筆をスラスラ動かし、問題を解く。
 「終盤に突入!…って、なにこれ。なんか見覚えが…。」
 背筋に冷たいものがスッと走るような感覚を憶えた。前にもこのような状態があった気がする。
 「"…して、肉眼で物事を直接に見たり、各々の感覚で事物に触れようとしたとしたりすれば"…。あ…。先生、あの本から離れさせてって言ったとき、離してくれたのに…。」
 ある種の絶望感を感じた。
 ”あなたの今の実力はそんなもんなんだね。ハードルが変わる時だけ気持ちがすぐに変わる。"この言葉がふと、頭の中から思い浮かんできた。
 「いや、先生は私に試練を与えてるんだ。今はきちんと解いてかないと。」
 今までになかったようなやる気と勇気が湧き上がってきた。自分自身でも理解し難かった。
 最終的にはやっとの思いで書き終わらせることができた。
 「先生、終わらせたよ。明日学校行って、80%以上取れてるといいなあ」
 今晩は心臓から生じる鼓動を頑張って抑えて寝た。

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