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"ドイツ"はすごいですね、の違和感。

パンデミック禍の文化支援は本当にすごかったのか?

「ドイツはすごい」と何度言われただろう。
2020年、3月。
新型コロナウイルスの流行が始まると、刻一刻と変わる状況の中で世界各国のトップは時間のない中で様々な決断を迫られた。
この時ドイツ首相だったアンゲラ・メルケルの演説は全文日本語に訳され、次々と決定していく支援について大きく報道された。

私自身も2020年4月に「ドイツの市民が「コロナ対策」に、こんなに満足しているワケ」と言う記事で、"ドイツすごい"と言われるきっかけとなったベルリン州政府のフリーランスを対象とした即時支援金について書いた。
そして日本とドイツの文化芸術支援の違いや、その背景も考えた。もちろんドイツ全体で特に現代の、コンテンポラリーな芸術に対するサポートはあると思う。社会の中での芸術の地位も高い(気がする)。それでも、ドイツがすごいと言われると、なんだか居心地の悪さを感じていた。
確かに大量の支援金は出ている。
でも。

文化やアーティストへの支援金とは違うが、ベルリン州政府のフリーランスを対象とした即時支援金5000ユーロ。アレについての報道はすごかったが、あの支援金は2020年終わってみてそこまで売上の減少がなければ返却するように言われていたこと(私の周りも結構返金した人が多かった)また、即日返金した2000人が詐欺罪で検察庁に訴えられ、罰金まで払わされたことはあまり知られてないように思う。

1億ユーロの行方

ドイツのアート(視覚芸術)界に流れ込んだ1億ユーロ(約145億円)いわゆる、文化10億Kulturmilliarde。本当に困窮しているアーティストへ支援が行われたのだろうか?
その行方について、2022年11月、ドイツの公共ラジオ局Deutschlandfunkが独自に行ったリサーチが公表された。そこに炙り出されたのは、パンデミックで売り上げに大きな影響を受けなかったアートフェアや、売り上げ減少すらしていなかったコマーシャルギャラリーが(不要な)支援金を大量に受け取っていたという事実であった。

支援プログラム「文化の新たなスタート」 ロビー活動の芸術 Die Kunst des Lobbyierens

2020年6月17日。
時の文化大臣、モニカ・グリュッタース(CDU)は、ドイツ史上最大の芸術文化助成プログラム「Neustart Kultur(文化の新たなスタート)」を決定した。その数日後、ドイツ連邦ギャラリーと画商団体(Bundesverband Deutscher Galerien und Kunsthaendler e.V. BVDG)が大臣と会った。ここで、彼らが助成金を誰にどれくらい分配するかを決める審査員となることが決まったのだ。
「使いきれないほどの資金があるのはすぐわかった」と審査員の一人は言っている。
例えば2020年に前年度比で1,4倍の売り上げを記録しているEigen + Artも国の支援金を8万ユーロ受けている。ギャラリーはそれぞれ最大7万ユーロ(約1千万円)の支援金を受けることができ、しかもその用途は審査されることはなかった。損失補填に充てなくても全く構わない。そもそも損失がなくたって、支援金を使ってトイレを新しくしたり、新しいラップトップを大量に買ったりしてもいい。そもそも調べられることなどないのだ。
(上記の記事内ではでどこのギャラリーがどこからどれくらいの支援を受けたかのトップ20を見ることができる)

記事内ではさらに、この支援金に加えアートフェアを通じて、多くのギャラリーが補助金の二重支給を受けていることも指摘している。
特にドイツ連邦ギャラリーと画商団体トップのクリスティアン・ヤムシェクはいくつかのアートフェアにも関わっており、約140万ユーロ(約2億円)の支援を受け取っている。

それに対してアーティスト個人はどうだろうか。
今回アーティストたちも史上最大級の支援を受けている。恩恵を受けているアーティストは多いだろう。しかし申請したところがほぼ全て支援を受けられたギャラリーに比べ、そのハードルは圧倒的に高かった。そしてここでも多くの奨学生の重複支給が指摘されている。ここでの問題は、誰がどれくらいの支援を受けるかという判断において、困窮の度合いはほとんど考慮されていないということだ。奨学金システムへの支援は一見良いように見えるが、アーティストが困っているかどうかには配慮はなされない。社会的な基準と結びついて配布された金額は3%未満だという。

すごいところもある。でもその中で生きていると、いろんなアラも見える。隣の芝生はいつも青々として見える。でも多分、この文化芸術支援においてはかなり不公平だ。スゴイですね・・と言われるたびにモヤモヤが広がる。

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