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自転車で、そとを駆け抜け、日常に小さな冒険を


自転車を単なる移動手段だと思っていませんか? だとしたら、もったいない。
そとを愉しみ、新たな発見や地域の人と出会うツールともなるのです。

そんなサイクリングの魅力を伝えている、大川民恵さん、ウィリアム ターナーさん夫妻。ニュージーランドから愛媛県内子町に移住し、マウンテンバイクのトレイル(山野の舗装されていない道)をつくったり、自転車のツアーを企画したりしています。二人が自転車で颯爽と駆け抜ける姿は、見ているだけでも気持ち良さそう。自転車に乗ることで見えた世界や、その魅力を語っていただきました。

大洲和紙に書いてもらったのは、自身のそとの楽しみ方。もちろん、サイクリングは欠かせない


――なぜ、ここ(愛媛県内子町)に移住を決めたのでしょうか?

たみえさん:私もウィルもアウトドアがすごく好きで、ニュージーランドに住んでいた時に、自転車はもちろん、トレッキングやキャンプなど、そとで楽しめることをいろいろ経験してきました。将来的には、その経験や情熱を生かして、日本で自転車振興とか、何かアウトドアアクティビティに携わることができたらいいなって、日本に帰る何年か前からぼんやり考えるようになっていたんです。

私は定期的に日本に帰っていたので、その時に気になる場所を訪ねていました。何かやるんだったら、私の故郷である愛媛に拠点を置きたい気持ちが強かったので、愛媛県内の気になるところを。その一つが内子町で、移住先に決めたんです。

それは、自然がすごく豊かだし、山に囲まれているのが、私たちにとって大きくて。人がよかったというのもあります。移住して何かをはじめるという時に、挑戦していいんだなっていう気持ちにさせられたというか、背中を押してもらえる存在の人たちにたくさん出会えたというのがすごく大きかったと思います。


内子町にあるコワーキングスペース南予サインにて


自転車がNo Choiceだったウィルさんと、自転車旅で魅力にはまった民恵(たみえ)さん


――応援してくれる人たちとの出会いもあり、今は内子町で自転車を楽しむ機会をつくっている二人ですが、子どもの頃から自転車が身近だったのでしょうか?

ウィルさん:何して遊んでたかなあ。やっぱり自転車かな(笑)。まあ、スポーツが好きで、フットボール、テニス、サイクリング……、アウトドアが多かったね。アウトドアファミリーだったから、夏休みとか、いつもどこかでキャンプや自転車旅行をしていた。クラスメイトはスペインやトルコとか、あたたかいところでビーチホリデーっていう感じなのに、僕は雨の中で自転車に乗ったりキャンプをして、「なんで、こんな夏休みなの!」って、その時は思った。けれど、今はすごいよかったと思ってる。思い出がいっぱいあるからね。

たみえさん:No choiceだね。

ウィルさん:そう、No choice(笑)。僕のお父さんは自転車屋さんをしていて、だから、自転車がNo choiceだった。でも、good for your characterって言われてた。

たみえさん:雨の中でも強くなるよ! これくらい大丈夫よねって感じよね。ウィルの両親だったら。一番最初に自転車旅行をしたのは何歳だった?

ウィルさん:2歳。フランス1周の旅。写真はいっぱいあるけど、だいたい寝てたね(笑)

たみえさん:はじめたのは両親がきっかけでも、続けられたのは、なんでだろう?

ウィルさん: 14歳くらいの時、マウンテンバイクのレースをはじめて、それがすごい面白くて好きになったから続けられたのかな。ただただサイクリングが楽しかった。

たみえさん:今は、本当に生活の一部みたいになっていて、乗ってないと、なんか落ち着かなかったり、機嫌が悪くなったり。なんだろうなあ、乗ることで生活のリズムを整えているところはあるかもしれないね。



――たみえさんにとってのきっかけは何だったのでしょうか?

たみえさん:ウィルとの出会いですね。それまでは、ママチャリにしか乗ったことがなくて、自転車が趣味というレベルではなかったのだけど。最初のデートはまだママチャリで、松山市から砥部町まで、たぶん10キロくらいあると思うんですけど、ヒーヒー言いながらついて行ってたんです。

自転車が楽しいと思った大きなきっかけは、イギリスに行った時の自転車旅行。それが楽しすぎて。

ウィルがイギリスに帰った時に、私がワーキングホリデーでイギリスに行って、1年くらい彼の家族と一緒に生活をしたんです。自転車一家なので、ことあるごとに、みんなで自転車に乗ったりとか、自転車のイベントに参加したりとかしてました。

そうしてちょっとずつ自転車が自分の中で身近な存在になってきた時に、ウィルが「民恵と一緒に自転車旅行してみたいなあ」って言ってくれて。いろんなことが新鮮だったから、「えっ、自転車旅行って何? やるやる!」みたいな(笑)。


自転車で世界旅行


で、自転車に、キャンプ道具やテント、お鍋、着替え、食料品とかを全部積み込んで、スコットランドを2週間、旅をしました

その経験のすべてが、今でもものすごく輝いて思い出せるっていうか、もう1個1個のことが本当に新鮮で楽しくて。自転車のスピードだから見える景色とか出会いっていうのがあったり。わあ、自転車旅行って無茶苦茶楽しいなってその時に感じて、それからさらに自転車が私にとってなくてはならないものになっていったかなって思います。



――ひとつひとつに感動する大川さんのリアクションを見て、ウィルさんも楽しかったのではないでしょうか?

ウィルさん:そうだね。でも、結構心配してた。山、いっぱいあるし、大変なのは大変だから。

たみえさん:最初の日が、ものすごい向かい風だったのね。

ウィルさん:最初の登り。僕は先に山の上で待っていたけど、たみ(大川さん)が結構遅かった。それはいいんだけど、もしかして、すごく怒っているかなって。でも、たみがトップに来た時に、まだ全然楽しそうだったから、すごい感動した。それが嬉しかった。

たみえさん:今だったら怒ってるかもしれないね(笑)。
いやでも、本当に楽しかったんですよ。一個一個できること、達成することも、全部が楽しくて。それって、今だと、もしかしたら味わえないかもしれない。その時の私だから、特別で、めちゃ楽しめたのかなって思うから、私が自転車のツアーをやりたいなって思うのはそこもあるかもしれないですね。その瞬間って、本当になんか特別で限られた時間だから、それを共有したり、こういう楽しみがあるよっていうのを伝えられたらいいなっていうのはあるかも。



想定外の出会いや発見を楽しめるのが自転車旅


――旅の選択肢が広がる中、何かを見つけて帰れるような体験ができる旅と自転車はすごくあうのではないでしょうか?

たみえさん:自転車旅行していた時に楽しかったのは、どのまちに行っても、その地域のビールを飲んで、「今日、終わった! はーっ!」って、一杯やっていたこと。

で、大体の行き先は決まっていたけど、具体的な道順とか微調整とかはその日その日で決めていたから、ごはんを食べた後に地図を広げて、明日の予定を考えたり、今日はどこを走ったなとかっていう話をして、明日のことを考えてっていうのは、なんかすごく楽しかったですね。

あと、自転車が地域の人とかその土地の人たちと話すきっかけになったり。自転車に乗ると、結構、みんな珍しがって声かけてくれたりもするから、コミュニケーションツールになっていたりするかもしれないですね。

ウィルさん:そうだね。「今、何してるの? 自転車で。この場所で」って話しかけてくれる。自転車で行ったら、みんながすごく優しい


紅葉ライド


――友だちとトレイルライドをする時に、ウィルさんも一緒に草刈りをして、道をつくったという話を聞いて、すごくいいなって思いました。

ウィルさん:マウンテンバイクトレイルが松山市にもいくつかあって、時々、友だちと一緒に行っているんだけど、ノコギリやレーキ(熊手)を持って行って、山の中をちょっと整備して楽しんでる。

たみえさん:そうね。ウィルが友だちと一緒によく行っているトレイルが東温市にあって。いつも通らせてくれている家のおばあちゃんがいるんだけど、ご高齢で体もしんどいから川の掃除がなかなかできないっていう話を、その友だちがひとりで走ってるときにおばあちゃんとしたのかな。じゃあ、いつも通らせてもらっているし、掃除を手伝いますっていう話になって、ウィルも一緒に掃除に来ない?って誘ってもらったんだよね。

ウィルさん:そうそう。

たみえさん:どこでもそうなんだと思うんだけど、一つのトレイルをいろんな土地の所有者の人が共有していることが多いから、誰かの土地を使わせてもらって、マウンテンバイクトレイルが成立しているんですよね。だから、その地域の人たちの役に立つような清掃活動にも参加するのって素晴らしいと思うし、機会があればどんどん参加していこうっていう話をしています。


小田深山〜千年の森を有志で整備


――二人に出会って、単なる移動手段ではない自転車の乗り方を知ったのですが、改めて自転車の魅力って何だと思いますか。

ウィルさん:僕は子どもの時、一番好きだったのは、自転車でちょっと遠くまで行くことだった。行ったことのない場所、そんなに行ったことがない場所に行って、また家に帰ってくる。それが、なんかアドベンチャーな感じで、すごい楽しくて。どんどんもっと遠くまで行くようになって。それが、Somethingfeeling of freedom(なんか自由な感じ)。車ではなく 、自分の力でどこかに行けるというのは魅力だと思う。

以前、石畳(いしだたみ)まで行って、スギちゃん(前回のインタビュー登場)の家で、みんなで竹を使って栗の炊き込みごはんをつくった。もちろん車で行っても全然楽しいと思うけど、自転車で、自分でちょっと頑張って行くことで、その体験がもっと楽しくなると思う


たみえさん:そうね。なんか全部がちょっと特別になるっていうか、そんな感覚はあるかな。自転車で、自分の足で、自分の力で行ったから、その先の景色が特別だったりとか、その後、地図を見返した時に地図のことをよく覚えていたりするんですよ。この道、通ったなとか、ここ大変だったなとか。なんかいろんなことがすべて特別になるのかな、自転車は。

ウィルさん:うん。車で通った時は何もないところと思っていたけど、歩いたり自転車に乗って見ていたら、何かを見つけたりしてね。それが、すごく楽しい。

たみえさん:そうね。何かあるよね。遠くまで行けるけど、車よりゆっくりで、ちょうどいいスピードなのかな。いろんな景色を楽しんだり、車だと見落としそうな何かに気がついたりとか。



自転車で走り、感じる、自然とまち


――二人のオススメのそとスポットを教えてください。

たみえさん:いろいろあるけど、やっぱり小田深山(おだみやま)。すごく好きで、何回行っても、どの天気でも、はじめて行った感じになるくらい、なんか表情が違うのが、毎回楽しいです。あと、石畳もいいよね。弓削神社まで自転車で上って、隣の湧き水で水分補給して帰るのが楽しいよね。

ウィルさん:うん。内子のまちの中でも、いい場所はいっぱいある。

たみえさん:うん。あと、内子町発で、大洲市や下灘(伊予市)とかを通って帰ってくるっていうのも結構楽しいよね。

ウィルさん:小田もすごく好き。景色もいいし、いい感じ。まち並みと自然のコンビネーションがすごく好きだね。内子、大瀬、小田のまち並みがナイススタイルで、山とか森、川とのコンビネーションがすごくいい! 川や山遊び、キャンプが楽しめて、まちに帰ったらホッとする。We can feel “気持ちいい”、そういう感じかな。


――ここに来るきっかけにもなった千年の森とはどんなところですか?

たみえさん:マウンテンバイクトレイルの活動という意味でいうと、車が通れたり、気軽に歩けたり、いろんなトレイルがある柔軟さがすごくいいです。林道とか整備道とか比較的大きめのトレイルがあるんですけど、でも、そこから更に枝分かれした遊歩道というか狭めのトレイルも結構あって。もう草で埋まっているところとか、崩れちゃっているところが多いんですけど。歩く人もマウンテンバイクに乗る人も楽しめたり、マウンテンバイクとまでいかなくても、森の中で自転車に乗ってみたいなっていう人も楽しめたりする、その間口の広さがいいですね。

森そのものでいうと、原生林がまだ残っているところがあって、いろんな木々の表情が楽しめたり、その保護活動をしている方が出入りしているのも素敵ですし、山の恵みを楽しむことができる場所というのも、すごくいいなと思います。

あと、渓谷と近いのはいい組み合わせですね。千年の森で作業したり、マウンテンバイクに乗って、めっちゃ汗かいた後に渓谷に行くっていうのは、もうほぼワンセットになっています。あの距離感、あそこに渓谷があるとないとでは結構違うなと思います。

ウィルさん:標高1000メートルあるので、夏も涼しい

たみえさん:確かにここと千年の森がある小田深山で、夏場は5〜6℃違うらしいのですよ。だから快適だし、森の中だから木陰が多くて、夏場でも全然涼しいよね。森の中はね。

ウィルさん:千年の森は広くていい場所なのに、誰も使ってないのがもったいないね。森の中で自転車に乗れるところって、実はあんまりないけれど、森の中で自転車に乗るのは楽しいよ。車道だったらやっぱり車があるから、いつも気になるけど、それがないと、リラックスできてめっちゃ楽しい。

たみえさん:車を気にしなくていいからね。それと、木や根っこ、岩だったり障害物を避けながら走るから、気づいた時にはもう乗り終わっていることも。運転中は頭が空っぽになっていたりするんですよ。ハードなスポーツだけど、結構、瞑想みたいな要素があるなっていつも思う。私が初心者だからかもしれないけど、走り終えて我に帰る瞬間が気持ちいいですね。

ウィルさん:コンセントレーション(集中)だね。



自転車を通して、地域コミュニティに触れるかけがえのない体験を、わたしたちと一緒に


――自転車を切り口に、今、どんなことを考えていますか?

たみえさん:ウィルと一緒に、自転車を共通項に、内子町でいろんなことをやっているのですが、そこに関わる人たちが増えていくといいなと思っています。

例えば、自転車に乗ってみたいなという人には、グループライドに。マウンテンバイクに興味があるとか森の中で過ごしてみたい、整備活動に参加したい人には、千年の森のマウンテンバイクトレイルの活動に。自転車旅行が気になる人はツアーに。いろんな方法で自転車の楽しさを共有できたらいいなと思っています。コミュニティライドについては、SNSでも情報発信しているので、見てもらえると嬉しいです。

千年の森はこれからdig and rideっていうイベントをやっていこうと思っています。「dig」は「掘る」だけど、整備しながら。簡単にいうと、マウンテンバイクに乗りたい人たちで自分たちのトレイルを一緒につくろうよということです。自分たちで育てるトレイルみたいな感じで、まずは愛好者の人たちが集まる場所にしていかないといけないなと思っていて。ここは俺が整備した!とか、みんなでこれをしたとか、愛着もわくし、楽しいですよね。なかなかそんな場所もないから、ありがたいなって思います。


たみえさん:あと、これはまだ構想中ですが、小さなお子さんがいるご家庭にとって、アクティビティを取り入れた旅行を計画するのはなかなか大変ですよね。親子で気軽に参加できるような取り組みを、松山市を拠点としたNPO法人と一緒にはじめていきたいと考えています。

このNPO法人は、松山市の中心地で、親御さんとお子さん目線に立った託児所を運営しているのですが、小さなお子さんがいるご家族に、県内のあちこちでリラックスできる、そと時間の過ごし方を提案していきたいと考えているそうです。そんな中、日々自然の中で過ごすことが多い私たちに興味を持ち、声を掛けていただきました。これから何か面白いことができるのではないかとワクワクしています。

ウィルさん:特に今の子どもたちは、ずっとテレビゲームとかをしているから、外でのアクティブティを体験することはとても大事だと思う。

たみえさん:そうね。なんか、ニュージーランドに住んでいて感じたのが、みんな子どもの時から自然が近くにある環境っていうか、文化に近いのかもしれないけど、そんな人たちがすごく多くて。うまく言葉にできないんですけど、自然に触れていることで、いろんなことを前向きに捉えたり、解決していたりしているような気がする時がありました



――ニュージーランドで感じた自然に触れる体験をここで新たにつくっていこうとしているのですね。「そとで、ここで」のイベントでも体験を大切にしていて、プログラムに取り入れるようにしています。

たみえさん:そうですね。私たちも、内子町を拠点としたサイクリングツアー“Stay and Ride”の展開をゴールのひとつと考えています。

“Stay and Ride”とは、その地域の宿に宿泊し、食を楽しみ、ガイドとゲストが一緒にユニークな体験や時間を過ごすことができる旅。もちろん観光客だけでも、その地域を旅したり、食を楽しむことはできます。でも、その地域や人に精通したガイドとともに巡る、体験・共有に特化したツアーならば、観光の価値をさらに高めることができるのではないでしょうか。


たみえさん:
“Stay and Ride” を通して、ただ観光に訪れるのではなく、まるで地域コミュニティの一員になったような素晴らしい時間を過ごし、新しい出会いや特別な体験へとつなげることができれば、参加者がその地域をまた訪れてくれるかもしれません。これから少しずつデイツアーにも取り組んでいきたいと思いますが、“Stay and Ride”が内子町を訪れるみなさんの満足度や滞在時間向上の理由のひとつになれば嬉しいですね。


Coordinator Mai Oyamada
Writer Mami Niida
Photo Ko-ki Karasudani


たみえさんとウィルさんのお話には、そとを愉しむヒントが溢れていました。 いつもと違う道を通ってみたり、ちょっと遠回りをしてみたり。それが自転車ならば、歩くよりも遠くの世界に自分の力で行くことができて、車よりもその景色をじっくりと味わうことができます。 予定を決めすぎず、はじめて見る風景や、人との出会いを面白がりながら、進んでいく––。そんな冒険を小さなところからはじめてみませんか。 たみえさんとウィルさんが準備しているさまざまなプログラムは、あなたにとってのもう一つの居場所「ここ」をつくるきっかけになるかもしれません。私たちは、本当は自由なんだと心から思える自転車体験によって、あなたの世界が広がりますように。


【情報】ここに会いに行こう!

Uchiko Cycling

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