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「ここ」で暮らし、「そと」の愉しみをつくるひとたち(前編)


青空の下で食べるごはんは、いつもにも増して美味しい! それが、自然の中だとなおさらです。皆さんもそう感じたことはありませんか?


そんな場を自分たちでつくろうと、愛媛県内子町の里山に暮らし、美味しいものには目がない人たちがはじめたイベントが「そとで、ここで」(そとここ)。自然の中で、食を味わい、手仕事などの体験を愉しむひとときをつくり出しています。


記念すべき第1回目は、2020年8月。まさに、コロナ禍の中での誕生でした。どこか窮屈な日々を送る中、開放感のある自然の中で、互いに距離をとりつつも、同じ空の下、空間で、「食」を楽しんでほしい––。そんな願いが込められたスタートでした。

5回開催され、キャンプ場や廃校となった小学校の校庭、原っぱなど、これまでのイベントでは使われてこなかったような「そと」に目を向け、地域の魅力を掘り起こしています。

インタビューシリーズ「ここで過ごす日々」の第一弾は、第1回からそとここに関わっているメンバーの小山田麻衣さん(以下、まいちゃん)、亀岡一彦さんと理恵さん夫妻(以下、かずくんスギちゃん)、黒岩健介さん(以下、健ちゃん)に集まってもらいました。まいちゃんが進行役となり、そとここができるまでを振り返りながら、みんながここで大切にしていることを聞いていきます。

持ち寄ったマイカップに、まいちゃんがどくだみ茶を淹れていきます。内子町小田地区の古民家で、これから活用がはじまろうとしている「旧二宮邸」の縁側に腰掛けて、お茶を飲み、庭を眺めながら、トークがはじまりました。

左から、まいちゃん、かずくん、スギちゃん、健ちゃん(自作)のマイカップ。そとここでは、ゴミを減らすためのマイカップ持参を推奨している


どんな時でも、楽しむことをじぶんたちでつくる


――コロナ禍の中で生まれた「そとここ」。携わるみなさんにも、コロナ禍による影響があったのでしょうか。

健ちゃん:そうですね。働いていた所が、人員削減みたいなことになりまして。それはしょうがないことなんですけど、どうせならやっぱり好きなことをやって食っていきたいなっていうのがあったので、いい機会ではありました。仕事を辞めて、それから住む場所を古民家に。

コロナで変わったけど、まあ転機で、良いきっかけになったと思うところです。


まいちゃん:
結構、人生が変わったということですね。そして、2021年9月に「ぽたり珈琲」の実店舗がオープンしましたね。

健ちゃん:内子町の御祓(みそぎ)地区にある、旧御祓小学校で、地域おこし協力隊の方が、「コミュニティスペースみそぎの里」を立ち上げて、地域の女性部の方とカフェを開いていたんです。そこの空き教室を借りられるようになったので、そこで自家賠煎の珈琲と古道具のお店をはじめました。

まあ、いずれは古道具屋と喫茶店というか、そういうのはやりたいなと思っていたんだけど、たまたま移り住んだところにそういう場所ができて、いいチャンスだなと思ってはじめた感じです。


生の豆を仕入れて、手回しの焙煎機で焙煎している。店内では、健ちゃんが淹れた珈琲を飲むことも、豆を購入することもできる。


まいちゃん:
ずっと前からやりたかったの?

健ちゃん:そうですね。ただぶっちゃけると、焼き物をやっていた時期があるんですけど、ちょっといろいろあって途中で挫けたというか、やらなくなっちゃって。本当は何かの道を一つ極めるじゃないけど、そうなってから、味わい深い人間になってから、カフェとかやれたらなあ、とは思ってたんだけど……。

まいちゃん:もう十分味わい深い気がするんだけど(笑)

健ちゃん:まあ、そういうちょっと挫折じゃないけど、ちょっと諦め。でも、やっぱり好きで、なんかやりきれてない部分があったりして。でも道具はあるし、はじめようと思えばまたいつでもやれるから、陶芸はやれる時が来たらやったらいいかなって。


珈琲豆を挽くというシンプルな道具「ミル」。さまざまな形や素材があり、奥深い。メーカーや使い勝手など、健ちゃんと交わす道具談義もここで味わえる楽しみの一つ


スギちゃん:
私の活動は、料理をつくることと、栗農家がメイン。コロナ禍前は、たくさんの人とお酒と食事を囲むような会とかもあったし、そういう仕事が多かったけど、コロナをきっかけに料理はテイクアウト系の仕事が多くなった。

「そとここ」がきっかけで、食のアクティビティみたいなやつは増えたかな。ワークショップもするようになったし、そとで料理教室みたいなこともしてるしね。 コロナの前は県外に行けていたけど、今は県内とか町内が多いかな。私はお店がないから人を待ったりすることはないし、自分が出て行って提供できるのはいいね。


収穫を終えた栗の園地の前で


かずくん:
松山市から地元の内子町に帰ってきたのが、平成18年。それからずっと親父と一緒に栗農家をやってきて、親父が亡くなってからもずっと栗農家。今、やってることは、栗栽培と、理恵(スギちゃん)がやってる料理の手伝いみたいな感じかな? 

去年からネット販売をはじめて、それで小料理屋さんとかケーキ屋さんに栗を販売したり、インターネットで一般販売をしたり。

まいちゃん:お客さんとどうやってつながっているのか知りたいですね。

スギちゃん:自分が好きな料理家さんに会いに行ったら、その方が使ってくれるようになったりとか、あとはもう本当に口コミ。知ってもらう機会が増えたから、愛媛とか栗というワードで思い出してもらえて、つないでもらったりとか。

ネットで販売している野菜のおすそわけBOXの方は、インスタとかを見て買ってくれる人が多いです。そういう出会いというか、コミュニティの中でどんどん広がってます。


かずくん:
コロナ禍で家にいてとなった時、都会の人たちに田舎の新鮮な野菜を、それも蕨や筍とかを届けたら、家で料理してくれるんじゃないかなって、生を送ったんですよ。下ごしらえの下茹でやアク抜きとかも全部やってくれたら、家で楽しんでもらえるんじゃないかなっていう。

スギちゃん:おうち時間ね。手間暇かかるものをわざと送って時間を楽しんでもらおうって。

かずくん:うん。で、送りはじめた。冬場は栗の枝でつくったリースとか、稲藁でつくったお飾りを。装飾品もつけて、自分たちで飾れるように。



――コロナ禍でもそれを転機としたり、その状況の中で知恵を絞ってきたみなさん。一方、まいちゃんは、地域おこし協力隊として内子町に来て、イベントや体験プランの企画をはじめようとしていた矢先のコロナ禍でした。



スギちゃん:
そうそう。その頃、まいちゃんは、協力隊に着任してすぐぐらいだったんだよ。それでなんか、すごい好きな感じのタイプの子だったから、仲良くなりたいなと思って、2人で近づいていったのね。

かずくん:いや、近づいていったっていうか、多分あの人についていったらなんかいいことがあるかも、みたいな。

スギちゃん:話が合いそう! ちょっと仲間に入れるしかないみたいな。それでatochi(内子町の量り売りのスパイス店)で相談したんです。コロナ禍のせいで、イベントとかできなくなったけど、なんか料理を振る舞う機会が欲しいなあって。そとで何かできませんかねって。

まいちゃん:そうそう。私ももともとPUBLICK HUCKという考え方に共感していて、もっと公共空間やそと空間を活用するようなことを提案したいなと思っていたところだったんです。

スギちゃん:そう、内子町内には、良いロケーションがいっぱいあるから、そこを使って、何か一緒にできないかねって言っていて、それで「そとここ」が生まれたみたいな。まあ仲間が増えた方が面白いから、「健ちゃんの珈琲とかいいんじゃない?」って紹介したんだよね。

まいちゃん:つないでいただいて、ワークショップをできませんかってお願いしたんです。で、人数を限定して、ワークショップ形式にしたんですよね。

スギちゃん:1人1人で個々でやったら別にシェアしないから密ではない。だけど、その空間はシェアできていいよねって、 いう感じ。

健ちゃん:あれも、雨で「なかで、ここで」になったけど(笑)、結局、よかったのかも。



そとだから、自然に左右されるからこそ、おもしろい! 


――みんなの「あったらいいな」が形になった「そとここ」。地元・小田高校の学生の協力を得たり、出店者の輪も広がりをみせています。運営し、出店する側として、印象に残っていることは何なのでしょうか。

健ちゃん:印象に残ってるのは、やっぱり僕は小田深山(おだみやま)。標高が高く、気圧が低くなるので火がつかないとか、火力が弱かったりとか、発電機の容量が足りなくてお湯が沸かないとか。急な何かがあるんだけれども、それをまあ何回か味わったんで、だいぶ鍛えられた。こんな環境が悪いところでも出店ができるというか……。

まいちゃん:雨にも打たれたりとかしながら(笑)

健ちゃん:風がすごかった。特に寒さとか。やっぱりここが1番厳しい環境の中での出店(笑)

まいちゃん:これからもっと厳しいところを選んでいこうかな(笑)

かずくん:「そとで、ここで」だから、自然の厳しい環境の中でやった方がいいんじゃないの?

スギちゃん:本当にそうだよね。天気相手だから、自然相手。臨機応変に毎回しているのが印象的かな。

まいちゃん:いや、本当そうね。ありがたいです。

かずくん:あの小田で開催した時のワークショップ。草木染めとか、木工やプールとかが印象に残ってる。みんなが楽しそうな顔していて。 だからもう、やってる人もお客様も、笑顔で楽しく、雨だろうが風だろうがやってくれてるのがいいんじゃない?


――悪天候も振り返ると笑い話。来てくれるお客さんに感謝いっぱいのみなさんですが、そとここの魅力とは?

健ちゃん:一言で言うと楽しむ 。まあ、出店者も、来る人も楽しい!そとで楽しむじゃない? 僕らも毎回なんかワークショップをしたりとか、「そとここブレンド」をつくってドリップバッグにしたり。自分も楽しむために何かやって、それが結構、喜ばれたというか、可愛いって言ってもらえてしめしめと思ったところはある。まあ楽しんでお互いやれたらいいのかなって。

スギちゃん:そうだね。毎回、本当に楽しいもんね。ゆるさがいいんだろうね。

まいちゃん:お客さんからのフィードバックでもやってる人が楽しそうっていうのが多くて、本当、毎回言われて、1番嬉しい言葉。忙しいばっかりで、楽しめないとちょっともったいないなって。

スギちゃん:私はそとここを一言で表すと創造かな。



まいちゃん:
いつもすごく考えてもらって、ブレーンなんですよ。

健ちゃん:アイデアマンだからね。

スギちゃん:クリエイティブ でいたいとは常々思ってるかな。そとここだからやることみたいなのは、やっぱ意識的に住み分けにはしている。

まいちゃん:ああすごい、ありがたい。それこそ、最初のワークショップは、どういう形式だったらいいんだろうってなんか一緒にいろいろ話したね。結局、盛り付けワークショップになったんですけど、なんかあの時間、すごいクリエイティブでしたよね。


スギちゃん:
そうだよね。みんながすごい集中して。そういう時間が提供できるようにワークショップを考えてる。

まいちゃん:藍の葉っぱを使って水餃子をつくったりね!

スギちゃん:御祓地区のハランを使ってちまきをつくったり、できればその場所のものや人とコラボしたりね。そういう創造、工夫は意識的にしてる。

かずくん:一言にはできんけど、自然とお客さんと触れ合うことを大切にしているなあ。お客さんが自然の中で楽しくあそんでくれて、みんなの楽しそうな表情が見られていいなって。

まいちゃん:本当にそうよね。かずくんは、いつも周りを見てくれていて、助けてくれるんで、めちゃくちゃ頼りにしてるんですよ。



「そとここ」誕生のストーリーやその魅力を語っていただきました。 後編では、みなさんのお気に入りのそとアイテムが登場。そとごはんは美味しいのはなぜだろう、里山暮らしの魅力とは何かなどを語ります。

後編につづく