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60. 川島博之『日本人が誤解している東南アジア近現代史』前篇

 ベトナムを訪れたのは、2014年。もう7年以上前だ。
 当時、中国に住んでいたぼくは、中国から比較的近いから、あと、フォーや生春巻きといったベトナム料理が好きだから、その程度のモチベーションでホーチミンに向かった。
 ところが、ベトナム料理以外も実に印象的だった。ホーチミン市内の小綺麗な街並みと、治安のよさ。そこからちょっと外れると急に田園風景が広がるところや、バイクの群れ。そして、人懐っこさ。
 一気にベトナムに惚れたが、その後の数年間、結局、ベトナムを再訪はしなかった。深い意味はなく、近いからいつでも行ける的な距離感。中国国内や、台湾、韓国など、より近いところにちょくちょく足を伸ばすうちに、気がつけば帰任が近づき、そして、コロナ禍。7年後のいまも、2014年のあのときが唯一の訪越だ。

 前置きはここまでにして、アジアの農業を主戦場とする開発経済学者である川島博之氏による本書を手にとったのは、中国からの帰国後、次に学ぶのはどの国か、と考えたときに浮かんだのが、ベトナムだったからだ。

 日本人から見たベトナムの「強み」もとい「魅力」は、第一に、東南アジアでインドネシアとフィリピンに次ぐ人口と、若年層を多く抱えるという潜在的な成長可能性。そして、日本と同じ中国文化圏に属するといった共通項だろう。
 一方で、明治から昭和にかけての歴史にまつわる日本への複雑な感情から目を背けてはいけない。ベトナムは親日国とされるが、日本とベトナムのあいだの過去の歴史は、中国や韓国のそれとは異なり、日本の学校では教えられないし、知る機会もない。だからこそ、積極的に知ろうとする努力をしなければならない。

 著者がベトナムを拠点としているからか、ややベトナム贔屓のきらいはあるが、いまはベトナムの魅力をどんどん発見していきたい段階だから、思いっきりその贔屓っぷりに乗っかっていこう。後半が楽しみだ。

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