3月THE GREATEST SHOW-NEN Aぇ!group×幻灯劇場 『鬱憤』
朝日放送で放送されたTV番組「THE GREATEST SHOW-NEN」の Aぇ!group×幻灯劇場『鬱憤』回について振り返るnoteです。ひとまず『鬱憤』という作品の成り立ちまで遡ります。
十六人と『鬱憤』を作る。
音楽劇『鬱憤』は16人の俳優とディスカッションを重ねながら作っていきました。台本が何も無い状態で稽古初日を迎え「コロナ禍で感じた鬱憤」をテーマに、お互いの話を聞いていく。コロナ禍によって関係が良くない家族と離れることが出来ない/バイトしたくてもシフトに安定して入れない/日常的に職を失う恐怖がある(俳優は発熱したら職を失う)等々、普段思ってても話しづらいことも含めて、少しずつ話していった。
話を聞く内に「コロナと距離が近かった人/遠かった人」「コロナで損した人/得した人」の間に生じる“ギャップ”こそが、鬱憤を生み出しているのかもしれないと思い始めた。僕は、感染者数を“数字”として捉え「だいぶ減ったね!」と喜んでしまう日常を繰り返す内に、ギャップが大きくなっていくことに鈍感になっていたんじゃないだろうか。そんな話し合いを重ねるうちに音楽劇『鬱憤』は、感染症にまつわる様々な立場の人間のギャップに焦点を置いて展開されていく物語になっていった。
六人と『鬱憤』を作る。
初演『鬱憤』が終演して数週間後、ABCテレビのプロデューサーさんからメールが届いた。「THE GREATEST SHOW-NEN」という番組で一緒に『鬱憤』を作らないかというものだった。
ABCテレビの番組「THE GREATEST SHOW-NEN」は、関西ジャニーズJr.のAぇ! groupが一流の演出家&脚本家とコラボし、一本の舞台を表裏同時に並行して数ヶ月に渡り放送する、非常にユニークな番組。
正直、受けるかどうか少し迷った。僕はアイドルに疎く、まだ「Aぇ! group」をみたことも聞いたこともなかった。どんなグループなんだろうと調べたら『PRIDE』の動画が出てきた。
「もう、これ以上動画は見ないようにしよう」と決めた。ただただファンになってしまって、稽古場でフラットに話せなくなりそうだった(実際、終演後までこの動画以外、全く見ないという自分だけのルールを徹底した)。かっこよかった。
かっこよかったので受けることにした。
受けることにしたは良いものの、十六人芝居を六人でどう上演すればいいのか全く分からない。更に110分作品を60分作品に短縮するという課題もある。
普通に考えるならば、1人2〜3役を演じ分ける演出が最もスムーズかもしれない。だが、半分程の尺に収めようとすると、ダイジェストのようになってしまう危険があった。それだけは最も避けたい。
そこで、分類すると5つあったエピソードの内2つを完全にカットし、9人の登場人物を無くしてしまうことにした。演じ分けはせず、6人が演じる6人のキャラクターを愛してもらえるよう丁寧に描くことを目指した。ダイジェストに見えるのも、カットした痕跡が残ってしまうのも絶対に避ける。
稽古場で初対面
いよいよ稽古初日がやってきた。初日からメンバー全員が揃うのは珍しいらしい。(結局稽古場での全員集合はこの日と、もう一日のみだった)
「番組スタッフさんが現れて劇団側紹介、Aぇ側紹介みたいな流れになるのかなぁ」とか思いながらのんきにお弁当食べてたら、Aぇのみんながやってきて元気に挨拶してくれて、そのまま収録が始まってしまった。意表をつかれ、メチャクチャ緊張したまま「インチキ商品開発会議エチュード」の進行をしたりする。
休憩時間、僕の緊張を察したのかこじけん(小島健)が水切りの素振りを始めて「僕、水切りでオリンピック目指してるんすよ〜」みたいなことを言い出して。それをきっかけに少しずつ皆と休憩時間にも話せるようになって。こじけんにはマジで感謝してる。ありがとう。
信頼してもらえるかな?
作家/演出家として信頼してもらえるか、と言うのもとても大きな懸念点だった。僕は今まで彼らが仕事をしてきた演出家に比べ、キャリアも浅い同世代の演出家だ。
ひとまず台本を最後まで読んでもらう。大晴とリチャと晶哉がよく笑ってくれたのが印象に残ってる。「台本読んでみてどうだった?」と聞くと大晴が「面白いっすね。めっちゃ楽しみです」って言ってくれて、晶哉も「楽屋でみんなと「この台本、面白いな!」って話しました」と言ってくれて(あ〜一緒に作れるかも〜)と少し安心したのを覚えている。
まっさんは初日から緊張せず話せた。二回しか稽古に参加できないまっさん(正門くん)には、皆より先に演出プランを話した。まっさんが次に現地の稽古参加出来るのは、衣装つきの通し(最初から最後まで止めずに行う)稽古という凄まじいスケジュールだった。
普通、そんな多忙な中での出演であれば、振付家や演出家に言われるまま動く人形のような演技になってもおかしく無いんだけれど、まっさんは違った。振付や演出を受け取った後、自分の言葉や仕草として消化できるように向き合い「村上くんと父親はどんな関係だったんだろ?」等々、台本に無いことまで話し合えた。まっさんの、作品を組み立てていく俳優としての地力の強さと、なにより根底に“創作に対する敬意”を感じた。
周りのサポートも厚かった。まっさんのいない現地稽古ではアンダー(代役)を立てて進めるが、こじけんや大晴が「あ、こういう動きまっさんちょっと苦手かも」「これ大丈夫かな。いけるか」とまっさんについて教えてくれてメチャクチャ助かった。
最後まで緊張したのはやっぱ誠也だった。事前に不労社の西田君から「誠也はちょっとヤンキーだけど、めっちゃいいやつだから!」と聞いてたお陰でヤンキーに向き合う心構えはできていた。し、実際話してみると本当に作品に対して真摯で素敵な俳優だとわかってきた。
稽古中盤ぐらいには「さっきんとこ、ちょっとオーバー目にやってみたんですけど、どうでした?!」と聞きに来てくれたりして「ちょっと面白くなりすぎちゃうから八割くらいに落としたいね。クスクスに留まらせて」って返事したら、ニコニコしながら帰っていって、本人には言えないんですけど、あのー、ほんと超可愛かった。
演劇の世界には「小さな役などない。小さな俳優がいるだけだ」という言葉がある。ちょい役なんてこの世にはなくて、ちょい役にしてしまう俳優に問題があるという意味なんだけど、末澤誠也という俳優はそういう意味で、とても大きな俳優だった。一緒に相談しながら膨らまして行った工藤さん、僕はとても好きなんですよねぇ。
M1『糸電話』
幻灯版『鬱憤』で僕が歌っていた「糸電話」は、誠也が歌ってくれることになった。「OP(オープニング)とED(エンディング)で全く違う意味合いに聞こえてたい。OPは言い訳がましく、EDでは現実を受け入れ、前へ進むために歌って欲しい」ってお願いしたら、一瞬で歌い方を変えてくれて。いつもオーダー以上のことをやってくれるから、稽古の時間が楽しくて仕方がなかった。
演出席に座ってると、二番のサビのところでリチャがセンターに立って歌声を至近距離で浴びせかけてくれるのも、稽古のたんび楽しみにしてた。リチャの歌もっと聞きたい。
歌に入る前のリチャの長いセリフも好きだった。リチャの素朴な部分や負けん気が強い部分が古崎さんという役に良い影響を与えてて、リチャに主人公の古崎さんを託して、本当に良かったと、何度も思った。
M2『立つ野は一人』
六人ともフル稼働で活躍してくれたお気に入りの曲。リチャのサックスに合わせ、晶哉と誠也のデュオが入ってきて、さらに大晴、まっさん、こじけんがメチャクチャ早いダンス踊ってて。大晴とこじけんがこの振付を自分のものにしているのもすごいし、まっさんが20分くらいで完全に覚えたのもめちゃくちゃすごかった。
テレビだと視点が一つに絞らざるえないので、是非生の舞台で観てほしいシーンでしたね。峠くんを演じた大晴の良い所が出てるシーンでもありました。晶哉と誠也の声がとにかく最高で、稽古中も歌い終わるたび拍手してました。
M3『ひまになっちゃった』
この楽曲だけは『鬱憤』に当てて書かれたものではありませんでした。少し前の話です。24歳の藤井はかなりノリに乗っていて、2カ国5都市で10作品が上演されてたり、戯曲が出版されて全国の書店に並んでいたり、これから作家としてどんどん大きい仕事していくぜ! というタイミングでパンデミックが始まりました。一年半以上先の仕事まで全てがキャンセルになり、結局僕は25歳の内に一作品たりとも、人前で上演することが出来ませんでした。
「不要不急」という言葉がそこら中に溢れていた頃です。劇団初の東京公演を含むツアーの中止が確定し、スケジュールを押さえていた俳優達は暇になってしまいました。この空虚な時間を使って、どうせなら思いっきり不要不急な作品を作ろう! と製作したのがこの「ひまな幻灯劇場」です。作中に
OPとEDの歌「ひまになっちゃった」の作詞が、パンデミック以来初めての創作だったのです。
『鬱憤』を製作していく中で、当時のリアルな自分の言葉を劇中に持ち込みたいと思い、この曲を物語の終盤に持ってきました。
※因みに「ひまな幻灯劇場」自体の内容はマジ本当にどうでもいいので、すごく暇な人か、逆にすごく忙しい人だけ見てください。
こじけんにピアノ指導したんですけど、空き時間が出来たらすぐ練習してくれるから「いやぁ〜出来るかなぁ〜」とか言いながらもするする弾けるようになって、息をするように努力出来る人間なんだな。晶哉とこじけんの演奏で、僕個人的に注目して欲しいポイントがあるんです。「ひまになっちゃった」の曲はじまりの部分。合図がある訳でもなく前奏が入る訳でもなく、二人が呼吸を合わせて自然に歌いはじめるのがメチャクチャ凄いんですよ。よくあんなに合うな。注目して見てみてください。
カットされたシーン(余談)
もっとカットされるかなと思っていましたが、カット箇所は一箇所のみでした。カットされたのは場面転換のシーンで「清水君が 〈転換!〉と叫び音楽に合わせて好き勝手踊りながら、工藤さんにエプロンを着させて貰う」というシーンです。僕は好きなシーンですが、テレビでは絶対にいらないシーンなのでカットして正解です。幻灯版にもそんなシーンはないんです。ただ単にこじけんが好き勝手に踊っている姿を見たいという欲望がそんなシーンを生み出してしまったのです。
グレショーはやっぱ面白い
撮影は数ヶ月前ですから、すごく新鮮な気持ちで放送を見ました。自分達との回ながら面白かったです。皆さんも面白がって頂けたなら幸いです。
「あんまり演劇観たこと無かったけど、生で舞台を観てみたくなりました」って感想がいくつもあってメチャクチャ嬉しかった。「自分も演劇やってみたくなった」という感想も沢山見かけました。是非やってみてください! 演劇はみるのもやるのも楽しいんです。俳優だけでなく、台本を書いてみるのも楽しいかもしれません。
この番組が演劇の面白さを知る入り口の一つになってくれればいいなと思うのと同時に、演劇ファンがAぇの皆んなの面白さに気づいてしまうきっかけになればいいなと思います。グレショー、面白いから永遠に続いてくれ。
最後に
Aぇの六人は面白くて、創作に敬意があって、本当に気持ちええ人らでした。いつかまたAぇのみんなと一緒に作品作りたい。実現できるよう、日々を楽しく積み重ねていこうと思います。この機会を与えて下さった関係者のみなさまに深く感謝します。
『鬱憤』は僕にとっても大切な作品で、また上演できたらいいなぁって思ってます。ここだけの話、グレショーからお声がけ頂いた同時期に「再演しませんか?」というお誘いをして下さった劇場があり、もしかしたら再演出来るかもしれません(確定じゃないけど)。もし、実現したら是非、観に来てくれよな!
優弥の留守電の言葉は最後まで悩みながら書きました。この数年でいなくなってしまった(かのように見える)僕達の大好きだったものが、何年も遅れて意味を伝えてくれることがあるのだとしたら、それに気付ける未来の僕になるまで、ご飯食べて元気でいようと思います! みなさんも、ご飯食べて元気でね!
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