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ORCのソフトシェルジャケット

 好きな古着屋を聞かれたら、僕は迷わず「学芸大学のISSUE」と答える。渋谷や原宿を一通り歩いて、ときめくアイテムにめぐり逢えなかった時(それでも何かしら服を買いたい気分の時)、ここに来れば間違いなく良いアイテムに出会える、"駆け込み寺"的な存在だからだ。シーズン毎に膨大な量の更新があるInstagramもフォローしているが、そこまで予習せずにフラッと立ち寄ったとしても、目をひく"強い"洋服たちがたくさん並んでいる。

 古着屋特有の雑多な陳列は皆無で、店内はゆっくり時間が流れているので、お客は集中して品定めができる。それでいて、試着の際の会話で分かる、バイヤーたちの、ひとつひとつのアイテムに対する情熱。蘊蓄だけがファッションの楽しみではないが、彼らの解説を聞くと感心してしまう。古着屋とは思えないくらいの、こだわりが詰まっている。

 そもそも僕がこのお店に出会ったのは、pen magazineの「光石研の東京古着日和」。「ISSUE」が紹介されたのはVOL.2だが、どの回も、登場する古着屋やアイテム、光石さんの買い物ルーティーン等すべての要素が最高で、雑誌の特集もあわせて、オススメのコンテンツだ。店員さんに聞けば、この動画が公開されてから客足は伸びたらしい。僕もミーハーの一人である。

 購入したのは、3月21日。すでに人気の少なかった渋谷PARCOで、何着か買った帰り道だった。長仕事が明けた後の散財とは恐ろしいもので、帰宅するには降りる必要のない学芸大学で、途中下車してみたくなったのだ。
 ただ、これは偶然ではなく、必然だったのかもしれない。というのも、実はこのアイテムは、2月にここを訪れた際に買おうか迷って、一度手放していたものだったからである。今思えば、一目惚れだったと思う。出戻りの形をとった僕はまるで、購入前に一度お店を出る光石さんのようだった。

アートボード 1

 その服を初めて手に取った時のように、おもむろに体に合わせてみる。すると、店員さんに「それ、めちゃくちゃ良いですよ」と声をかけられた。米軍部隊のために製造された機能性抜群のアウターで、長く大切に愛せる丈夫さも兼ね備えている上に、日本ではほとんど出回らないレア型だという。

 あれから暫く経った今、改めてこのジャケットのプロフィールを調べてみた。「Protective Combat Uniform」という戦闘服システム(規格)において「LEVEL5」をマークするくらい防寒性能に優れていて、米国ではpatagoniaと同程度の人気を集める、ORC社製造の「ソフトシェルジャケット」だそうだ。なるほど、機能性の高さは米軍のお墨付きということは分かった。そして、ヴィンテージ入門として、"良いルート"を辿っていることも分かった。

 と書きつつも、僕が一番好きなのは、この見た目であり、色である。カーキよりも少し淡い、オリーブの色合いが、ミリタリーのゴツい印象を和らげてくれているような気がする。店員さんは、蘊蓄を語った後に「でも、シンプルにかっこいいですよね」と付け加えてくれた。他のモスグリーンのコート類とも迷ったが、試着した僕の姿を見て断然こっちです、と後押しをしてくれた。(この、最終的な判断を、委ね過ぎない感じが僕は好きだ。笑)

 購入当初は、右の写真のように、アースカラーとの組み合わせがバッチリだと思っていたけれど、一転、昨年末はウレタンマスクまで緑に揃えて、左の写真の「全身緑」をやってみた。弱々しく着崩してみるのも、戦闘服たるコーディネートで着るのも、どちらも正解だと思う。

 素敵な服を購入させていただいたと思う。そして何より、ストーリーが先行しない、シンプルにかっこいい服を選ぶ体験。それを味わえたのは、なんとなく、今後の僕にとって"デカい"気がする。多忙な仕事とひどい感染症のせいで、少し間が空いてしまったけれど、この時の感謝を胸に刻んで、また通いたい。

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