Web3企業、チームへの「トークンインセンティブ」どうすべき? アスターネットワークの設計事例
こんにちは、アスターネットワークの渡辺創太です。
今回のnoteでは、Web3企業におけるチームスタッフへの「トークンインセンティブ」設計について、アスターネットワークの内部の設計事例を公開させていただこうと思っています。
Web3企業がそこで働くスタッフへ報酬としてどのようにトークンを配布しているのかという情報は、実はほとんど公開されていません。しかしその設計はプロジェクトの存続を左右するほど大切なものです。このnoteが、少しでもWeb3で挑戦する起業家の皆さんの参考になればと思っています。
ストックオプションにない、トークンインセインティブの魅力
まずスタートアップ企業におけるスタッフへのインセンティブとして、一般的なのがストックオプション(SO)であることは皆さんもご存知だと思います。上場前の株式が付与されることが、給料や環境面が大手企業に比べて整っていないスタートアップで働く方々の、大きなモティベーションの一つになっています。
しかし現在のストックオプションの仕組みは、まずは付与時点では流動性がないこと(自由に売り買いできない)、また企業にもよりますが上場までに通常5年から10年ぐらい長い時間がかかること、さらに日本企業では上場前に退職すると株を所持できないなどなどがあります。
一方、Web3企業で働くスタッフへのインセンティブは主にトークンです。Web3企業はストックオプションの代わりとして、自社プロダクトのトークンをスタッフに付与するのが一般的です。どのプロジェクトも、発行したトークンのうち、あらかじめチーム運営に使うトークンを何割かアロケーションしています。そこからスタッフへのインセンティブとしてトークンを付与していきます。
それがストックオプションではなく、トークンであるメリットは多数あります。まずトークンの上場までの時間が短いこと。現在web3企業のプロジェクトのトークンは、DEXでの上場も含めると早いもので数ヶ月などという例もあります。我々は2年半でした。またストックオプションのような売買に関する縛りも、基本的に付与されたトークンに関してはありません。
現在Web3領域に世界的な注目が集まっていますが、そもそも企業としてトークンを活用し資金調達のスムーズであることや、トークンインセンティブで人材がWeb3に流れているというのも、盛り上がりに影響していると考えられます。
ベストプラクティスがないトークンインセインティブ
しかしWeb3企業のスタッフへのトークン配布に関して、まだまだ課題も多いです。
プロジェクトが独自でそのルールを決めるため、場合によっては創業者のトークン量が多く、途中からジョインするメンバーのトークン量が少なくなってしまい、十分なインセンティブとして機能しないこともあります。
また創業メンバーが前述のように短期間で大きな金銭的報酬を得られてしまうため、そもそもの事業に対してコミットする意思が薄れてしまうケースや、創業メンバー同士の結束が失われてしまうことなども多々あります。
さらに初期のトークン付与を目当てにWeb3スタートアップを渡り歩く、ジョブホッパーのような人も増えてきています。
僕もこれまで、このトークン配布の仕組みが上手く機能せず、プロジェクトの推進力がどんどんと無くなっていく事例を沢たくさん見てきました。トークンインセインティブは、ストックオプションに比べ魅力が多いものの、まだまだベストプラクティスがない状況です。ちなみにAstarの場合は3年以上やっている僕でも保有率が0.1%以下なので過去よりも将来に対してトークンのアロケーションを取っています。これは上場前よりも明らかに数十倍上場後の方が精神的にも稼働時間的にも辛いためです。
アスターがトークンインセンティブを公開する理由
前置きは長くなりましたが、そこでアスターのプロジェクトチーム内のトークンインセンティブを今回公開させていただきます。前述のような課題を考慮し、メンバーの石川駿を中心に僕たちは独自のトークンインセンティブを設計しました。その過程で僕たちも多くを学びましたので、それを皆さんにもシェアできればと考えています。
アスターは様々な意味合いで、業界のスタンダードとなるケースを作っていくという自負があります。少しでも参考にしていただけると嬉しいです。アスターはこの仕組みを実践し、とても良いチームで現在活動ができています。前述の通り、トークンインセンティブ設計を誤ると、プロジェクト自体の存続に影響します。ぜひとも参考にしていただければ嬉しいです。
トークインセンティブ設計の前提
まず大前提として、アスターでは通常業務の給料は法定通貨で定期的に各メンバーとの契約に準じて支払いをしています。その上で、トークンをどのように配布してるかについてを今回ご説明します。
まずアスターは、ネイティブトークンである「ASTR」の総発行数うち約5%を運営チーム分としてアロケーションしています。このトークンを段階的にスタッフに配布していくのですが、当然全員が同じ比率ではないです。プロジェクトへの貢献度を評価し、その評価に応じて支払いを設計していきます。
まずアスターでは「モチベーションがブレず、やり続けられる人」を評価するという基準を設け、チーム全員で合意しています。クリプトマーケットはボラティリティが高く、短期間でブルとベアマーケットが繰り返すことも多いものです。そのような状況でも、長期的モチベーションを保てる人が、プロジェクトにとって重要と考えた評価軸になっています。
ちなみに成果を上げることは、僕たちのチームに所属することの大前提です。それを達成した上で、長く貢献してくれる人をどう評価/サポートするかという観点で設計しています。
トークン配布の仕組み
まず、前提として、誰がいくらいつもらえるのかはチーム内でパブリックになっています。なので、誰でも僕がどのアドレスでいくらもらっているかを見ることができます。これはパブリックブロックチェーンを作る組織として大事なことだと思っています。実際にはほとんどのプロジェクトが創業者がプライベートに割り当てを決める方式が多いですが、長期的に公開していたほうがうまく行くと思います。アスターでは「トークンオプションコントラクト」という、トークンをいくらもらえるかという契約が半年に1回ずつあります。これは人事評価のようなものであり、結果にコミットしている人のティアが高くなっています。
そして実際にその時点ではスタッフにトークンは配布されず、6ヶ月後から分割して配布するという設計になっています。
具体的にはコントラクトサインから6ヶ月後から、3ヶ月ごとに1/4ずつ4回に分けて支払っていく設計です。
つまりこれは仮の数字ですが、1月に1人のスタッフに20万ASTRを配布することを契約した場合、その年の7月に5万ASTR、10月に5万ASTR、翌年1月に5万ASTR、翌年4月に5万ASTRが分割して支払われる仕組みです。コントラクト締結から6ヶ月間がベスティング、それ以降クリフがある設計です。
そしてこの「トークンオプションコントラクト」は半年に1回、契約します。それぞれのトークンオプションは独立したもので、総配布数やそれぞれのスタッフへの評価も異なります。前述の1月の契約が「1」だとすると、次の7月にトークンオプションコントラクト「2」を契約します。
上記の図を見ていただく分かる通り、この設計によって長くいれば長くいるだけ、多くのトークンを指数関数的に取得できる仕組みになっています。長くいればいるだけ、先々にもらえるトークン数が累積して大きくなっていきます。ちなみに契約しても、取得できるタイミングを待たず途中でチームを離れた人に、トークンは配られないルールになっています。
このような「トークンオプションコントラクト」をアスターでは3年間で何度も走らせて、初期のアロケーショントークンを配布していく予定になっています。
評価はどう決める?
ちなみにそれぞれのコントラクトにおける各スタッフの評価は、フルタイムのメンバー全員で合意して決めています。具体的にはコアメンバーで草案を作り、その後全スタッフで議論しながら僕も含めた各メンバーのティアーを決定します。つまり、なぜこの人がこのティアでこの人よりも多い/少ないのかを常に説明できる準備がないとおかしなことになります。なので我々が何を評価しているのかということを伝え続けることが大事だと思います。我々の場合は数字へのコミットと主体的な取り組みです。
またアスターとして、前述の評価や、実際に各スタッフがどのアドレスで、どの程度トークンインセンティブをもらっているかという情報も全てのフルタイムメンバーに公開しています。
色々な他のチームを見ていると、揉め事はトークンに関わることが多いです。アスターではパブロックブロックチェーンらしく、そんな余計な議論や揉め事を避けるために社内をできる限りガラス張りにしています。
またチーム内で全て公開することで、結果としてチームで何を「Value」して何をしないかが共通認識できるというメリットがあります。
このnoteを参考に設計する際に重要なこと
最後に、今回のnoteを参考にトークンインセンティブを設計しようとする起業家の方々に、重要なポイントお伝えします。
まず1つは、配布方法や評価軸をあらかじめチーム内で合意することです。アスターでは長くプロジェクトに貢献したメンバーに多くのトークンを付与するという仕組みを構築しました。皆さんのチームがどんな仕組みとルールで行うか、これはあらかじめチームメンバーでで同意する方が、後々のトラブルを回避できるでしょう。
またトークン配布の仕組みは、性悪説の観点で設計すべきです。心苦しいかもしれませんが、トークン配布には魔物が棲んでいます。前述の通り、大きな金銭的なインセンティブは人を狂わせます。気の合う、同じ志を持った仲間同士でも、トラブルは避けられません。今回紹介した設計も、それを念頭に作ったものです。皆さんも心を鬼にして設計してみてください。
また大前提として、同様の観点からトークンの配布はメインネットにローンチし発行が完了してから配布するべきです。発行前から配布してしまって、そのメンバーがチームを離れるといったケースは少なくありません。
おわりに
今回、アスターのトークンインセンティブ設計を公開させていただきました。私たちがWeb3企業としてしっかりと長期でサービスを世の中に提供できるための組織づくりを念頭に設計した仕組みです。ぜひとも皆さんのWeb3への挑戦の参考になれば嬉しいです。我々の仕組みは「完璧」だとは思ってないです。前例がないなかで取り組んでいるのでまだ正解がない領域だと思います。だからこそ、いろいろな仕組みがあっていいと思いますしよりよいスタンダードを見つけていければいいと思います。
また僕のnoteでは今回のように、皆さんの参考になるようなアスターの内部の仕組みなども可能な範囲でどんどん公開していきたいと考えています。ぜひ何かリクエストありましたら、この記事を引用ツイートなどしてコメントいただけますと幸いです。
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