精神病院ビジネス | 収容主義批判の精神病棟ルポ映画を観て感じたこと
精神病院における収容主義の問題を批判するドキュメンタリー映画の鑑賞会に行ってきました。
精神病院における収容主義とは、精神病患者をとにかく「収容」し、牢獄のような環境で人間として扱わないことを指します。ある時代では精神病院のことを「牧畜所」などと表現していたことすらありました。
今回はその精神病院の問題を批判するために、自身が実際に患者として精神病院に潜入したこともあるジャーナリスト大熊一夫氏の作った映画「脱・精神病院への道」を鑑賞してきました。
映画の概要
この映画は精神病患者をただ「収容」するだけの制度に対する鋭い批判を投げかけており、とても考えさせられる内容でした。
映画では収容主義の発生した歴史や、日本だけなぜ問題が肥大化してしまったかに対する考察、地域医療の理想的事例としてのイタリア、日本における幾つかの取り組みが描かれていました。
制度の問題とビジネス化への批判
精神病院の問題は、単に精神科医の問題ではないのではないか、という点が個人的に大きな発見でした。むしろ、制度そのものに大きな問題があるのではないかと。
20世紀後半に作られた法律により、正式な精神障害治療に関する教育課程を受けていない医師が精神病棟を作れるようになり、かつ補助金が多く支払われ、精神病院が「ビジネス」となったことが大きな変化です。この法律により、日本の精神病院は世界でも類を見ないほど病床数を増やし、患者の入院期間の長期化を加速させる原因が生まれました。
浦河ぺてるの事例
映画の中で紹介されていた浦河ぺてるの事例も特に印象的でした。
浦河ぺてるは、精神障害等を抱えた当事者の地域活動拠点であり、彼らを異端な存在として切り離さず、一緒に暮らすことを実践している場所です。
院長は支離滅裂な当事者たちの意見に向き合うことをやめず、むしろおもしろがって自然に話を聞いていました。このようなアプローチが、普通ではないとされる人々も紛れもなく人間であることを実感させてくれました。
イタリアの事例
イタリアでは20世紀の終わりに精神病院を文字通りゼロにしたそうです。精神病院を撤廃した代わりに、ほんの60床ほどのベッドがある精神保健センターとデイケアを設立したとのこと。
精神病患者をバッサリと世間と切り離し、拘束や向精神薬の強制、長期入院に向かわせる日本の態度とは全く異なり、
本当に深刻な方は入院させるけど、それ以外はデイケアや24時間体制のアパート(あくまで閉じ込めず、地域に開いている)に入居させることで軽微な段階からケアをする、というイタリアの事例は一つの希望であるように感じます。
ビジネスとしてケアをする
日本の精神病院が「ビジネス」として成立する法律が生まれ、収容主義が膨れ上がった事実がある一方、
監督である大熊は、「劣悪な精神病院を潰すためには、その病院が持っているスキルやアセットを超えた病院を作り、ビジネスとして流れを変えるしかない」と言い切っていた点が非常に印象的でした。
知識も想いもない人間がビジネスをすれば簡単に悪に染まる。
一方で、知識と想いがある人間がビジネスをすることでしか悪きレガシーは変えることができないと。同じビジネスでも、視野と想いの違いで雲泥の差が生まれること、ビジネスは必ずしも悪ではなく、むしろ資本主義において自分の想いを押し通す唯一の力なのだと改めて実感しました。
大熊一夫の視点とネガティブケイパビリティ
映画を通して、精神障害のある方々の姿も多く登場していました。
彼彼女らには周りのケアを行う人々も多少困惑しているようにも見えるシーンもありました。幻覚をみる、支離滅裂な発言をする、自分のプライベートゾーンに介入してくるなど、一見関わりたくないなどと本能的に思われてしまいそうな場面もありました。
しかしここで重要なのは「たしかに一見おかしい「が」」という視点です。これこそが、ネガティブケイパビリティ(曖昧さや不確実さを受け入れる能力)の重要性を示しています。直感的には「おかしい」と感じることでも、よく観察するとその中に暖かさや人間性が見えることがある。これは、ナチスのような断定的な分類とは対照的な、エンパシー(共感)を促す視点であり、大熊が示唆していたメッセージなのではないかとも感じました。
まとめ
精神病棟の収容主義を批判するルポ映画を通じて、
・精神病院の問題は単なる医療の問題ではなく、制度の問題であること
・善意と知識を持ったビジネスが必要であること
・精神病院における収容主義は確かに存在し、今もなお不当な扱いは続いていること
・「確かにおかしいが」というネガティブケイパビリティとエンパシーが問題を紐解く重要な視点であること
を学びました。
次回以降の記事では大熊の書籍や「当事者研究」と呼ばれる概念についても学んでいきたいです。
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