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ーーおはよう

無造作に溢れ出した広告達の一番奥の上から2番目、銀色に恐らく前の住人かと思われる私ではない名字がうっすら見えなくもない、ぽろぽろとはがれてきているシールが貼り付けてあるそれが私のポスト、410だ。

ここと、あといくつかはキレイに整理されていて、残りはと言うと向かいの地面に斜めにおいてあるゴミ箱からもカラフルが溢れてきている始末だ。

まあ私も別に几帳面という訳ではなく(母の血を以てA型ではあるらしいが恐らく父のO型の影響が少なからずあるに違いない)、ただ、越したてにせっかくなのでキレイに保っておこうという考えなので、そのうちノートの2ページ目みたく気を遣う事もなくなるんだろう。

ックッ。ココロが動く。違う。そうだ。本当はいつまでもキレイにしたいし、自炊もする。朝晩にはきちんとルーティンがあって、シンクはいつもすっきりしているし洗濯物は溜めない。トイレと風呂はカビが湧かないよう定期的に掃除もする。読書も音楽も、勉強、スポーツなんだってやりたいことだらけで、多趣味に磨いていけたらいいな。なんて、思っている。思っていた。

「ッフ。無理やろ。絶対続かんってお前。」「一ヶ月も経たん内にゴミ屋敷になってそう。」

「アッハそうやなあ。」盛大に笑う私自身の声に掻き消された無邪気達は、まるで母が家に職場の友人共を招いて、愚痴しかこぼさなかったあの日の私みたいに引き籠もってしまっていた。それでも家出じゃないだけこうして発作的に思い出すものだからよかったのかもしれない。

、、いややはり思い出すべきではなかったのか。私は彫刻を手がけたことは小学校の図画工作ぐらいしかないものだから、この「本当に私が願っている本当の自分」と「本当に今起こっている本当の自分」との歪みを直すことはできない。

狭いシンクに、これでもかと詰まるどころかIHの上に置き放したフライパンのそのまた上に積まれた皿とタッパーを横目に、洗濯かごにすら入れて貰えないステテコを見る。18年間寄り添ってきた私より私をよく知っている彼らを想い、自分が経験した訳でもこれからする訳でも無いのに、自分ではない生に指図するだけのことはある。流石だなあ、なんて思ってみている。