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熟成された早産達

生の概念か、魂とでも言うべきか、物の怪のような輩も集まっている。
つまりはおおよそヒトとは呼び難い何かしら達が広いような狭いような、まぁ、普通の建造物(ヘヤ)──恐らく人間が造ったものだろう、に集っている。
所狭しと表現したかったがそうもいかない、この何か達は互いに等しい座標に存在してしても干渉しあっていない。そもそもこれらはそれぞれを認識しているのだろうか。

恐らくこの場で認識されているのは彼ぐらいか、とヘヤの前方の少し地面が高くなった所に立っている男を見る。黒い。白と赤も混じってるな。

「ではジカンになりましたのでそろそろ始めたいと思います。」男が口を開く。
「まず最初に、このクラスは聴覚と視覚ありの方達向けとなっていますので、お間違えの無いように。自分はよく分からないな、と感じてる方は一旦このヘヤを出て頂いて適切なクラスを確認してきて下さい。」
耳じゃ無い、自分の中に直接そういった認識が流れ込んで来た。
数人、数匹..?いや数個の何かたちが出て行った。

「よろしいですか、ではここからはコエとガゾウなどで進めさせていきます。」


「皆さんコトバとイロの概念は予習してきて頂いてると思いますが、ここでもう一つ始めに、私のナマエを知って頂こうかなと思います。」
「ナマエとはなんだ、と思いますね。これは後々学んで頂くので今はそんなに分からなくても良いんですけど、取りあえずムラカミと覚えておいて下さい。何か困った事があればコエの出せる方はもちろんコエで構いませんし、コエの出せない方もいらっしゃると思います。そういった方達はこれまで通り、私の中に意識を持ってきて下さい。」
そうか、コエを持たない物の怪達もいるからか、バリアフリーと言うやつなのかな、流石人間らしい。
ムラカミが続ける。
「コエが出せないのは悪い事じゃありませんし、皆さんそれが出来るようになるためにここに入学して今日からお勉強して頂くんです。コエが出せる方、出せない方、テアシがある方無い方、多い方、先ほど数名が出て行かれましたけど、ミミやメの無い方もみーーんなここでは一緒です。何かが足りなくて、それでも"あの"人間になりたくてここに来ています。ハズカシイ事ではありません。..!すみません、ハズカシイってのはカンジョウの一つですね、皆さんも5回か6回目だったかな?また教わると思いますので。私も昔はねぇそうでしたが今ではほら、人間免許の白です。皆さんもこれを取れるよう、ガンバッテ下さい。」

流暢にクチを動かしてコエを発している彼の姿に早くなりたいものだ。

「まずはですねぇ、、どこから話せば良いのかな。」聞き取りにくい大きさでムラカミは言ってから、その身の黒い皮をツカンで話した。
「はい、まぁ今日はアイサツだけと言うことで、新しく覚える事はないんでこれは余談として聞いて欲しいんですが、私が今モッテいるこれ、この皮ですが"フク"と言います"服"です。」
目の前に”服(スーツ)”という字が見える。確かこの曲線は文字では無かったな、と考えがまとまる前に話が進む。
「はいこれはこの字一つでフクと読みます。この丸みは文字ではなくてここに挟まれている文字のみを読みます。"スーツ"です。」
「このクラスの皆さんは聴覚があると言うことで、コトバもそれなりに予習されているとは思いますがこれからもどんどん予習しちゃって下さい。もうね、コトバは人間の基本ですから、それであって量が非常に多いので授業だけではきっと補いきれませんのでね、。」

これは大変だ、聞くことは難なく出来ても読むのにこんなに時間がかかっていてはこれからついていけない。このあとから練習しようと感じた。

「はい。でまあ人間は生活している間、特別な場合を除き服を身につけた状態でいるのが原則です。人間のガクシャの中には'服を着ないのはもはや人間でないのと同じだ'なんていう方もいらっしゃいますからね。」

...? 何か変な気がした。

「私は今、この黒いスーツに白いシャツ、今日はトクベツに赤いネクタイもしています。毛皮を着込んでいる方、そうそうあなたからすると恐らく頼りなくカンジルし、普段何も纏わない方達からすると少し違和感をカンジルと思います。流動性も無くなるし、可動域も制限されるため不便にカンジル時が来るでしょうが、皆さんの形を一つに統一すると言う意味でもこれにナレていきましょう。」

「こんなもんかな、、今日はこれだけですね」
皆が一斉に帰ろうとする。消えるも者、ふわふわ浮いてゆく者、人間さながらそのテアシでアルイテ帰る者、、

「あっ!ゴメンまって!!」
皆戻ってくる。自己の概念を消すことで事実的にいなかったことにしようとしていた者の存在が私の中に蘇る。

「ゴメンゴメン、一番ダイジな事忘れてた。」

「皆さんはそれぞれ思い描くカッコイイ人間になりたくてここに来ました。どうかアキラメないで、最後までガンバッテ下さい。皆さんもカッコイイ人間も見てきた分カッコワルイ人間もいたはずです。アブナイ人間、ミットモナイ人間、、彼らはそのほとんどが無免許です。どうかそんな人間にならないで、ここで学んだ事をしっかり生かせるようにして下さい。」

「この世には、無免許人間が多すぎるからね。」