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スティーヴ・アルビニからニルヴァーナへのメッセージ('92-11-17 06:01)

スティーヴ・アルビニが亡くなってしまいました。ニルヴァーナの公式アカウントが、『イン・ユーテロ』の録音のオファーをした際に、アルビニから届いたファックスを掲示していました。

アルビニが自身の録音哲学を明快に説明した内容で、真摯な人柄もしのばれる素晴らしい内容なのですが、日本のWebメディアでは機械翻訳そのまんまみたいな抜け漏れの多い訳文がしれっと掲載されているだけだったりして、なんだかムカついてしまった。だから自分が読むついでに、日本語としてそれなりに読めるレベルの翻訳を作っておこうと思いました。

内容はとにかくお読みになってほしいです。そして『イン・ユーテロ』をめぐる物語としては、高橋健太郎さんの「ニルヴァーナ『イン・ユーテロ』20周年」という記事を併読されることを強くおすすめします。

スティーヴ・アルビニ、安らかに。

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'92-11-17 06:01

スティーヴ・アルビニ
郵便私書箱 442
イリノイ州エヴァンストン
USA 60204
電話 USA (312) 539-2555
FAX USA (312) 539-4495

カート様、デイヴ様、クリス様

最初に、この概要をまとめるのに2、3日かかったことをお詫びします。カートと話したとき、私はフガジのアルバム制作の真っ最中で、レコーディングの間に1日くらい、いろいろと整理する時間があると思っていた。予定が突然変更になり、今やっと全部片づけることができました。すみませんすみません。

この時点で君たちができる最善のことは、まさに君たちがやろうと話していることだと思う。つまり高品質だけど最小限の「プロダクション」で、営業部門の頑固者たちから干渉を受けずに、2、3日でレコードを作ること。それが本当に君たちがやりたいことなら、私はぜひ参加したい。

そうではなく、レコード会社に一時的に甘やかされ、ある時点では鎖を引っ張られる(曲/シーケンス/プロダクションの手直しをせがまれ、レコードを「甘く」するために雇われ人を呼んだり、リミックス・ジョッキーにすべてを委ねたりなんだり……)という立場にいることに気づいているなら、厄介事に遭いそうだから、私は関わりたくない。

私は、自分たちの音楽と存在に対するバンド自身の認識を正当に反映したレコードを作ることにしか興味がない。レコーディングの方法論の信条として、君たちがそれにコミットしてくれるなら、私はがむしゃらにやる。君たちよりはるかにうまくこなすと思う。君たちに発破もかけるだろう……。

私は何百枚ものレコードに携わってきたけれど(傑作もあれば、良作もあり、酷いのもあり、中間のもたくさんあった)、最終的な結果のクオリティと、プロセス全体を通してのバンドのムードには、直接的な相関関係があるのを目の当たりにしてきた。もしレコードづくりに長い時間がかかり、皆が気落ちし、一歩ごと念入りにやるようだと、レコーディングはライブ・バンドとは似ても似つかないものになり、最終的な結果はお世辞にも良いとは言えないものになる。パンクのレコード制作は、「仕事」が多ければ多いほど最終的な結果が良くなるというものではないのだ。君たちは明らかにこのことを知っているし、その論理を理解しているだろう。

私の方法論と哲学について:

#1:現代のエンジニアやプロデューサーの多くは、レコードを「プロジェクト」とみなし、バンドはプロジェクトの一要素に過ぎないと考えている。さらに、彼らはレコーディングを特定の音をコントロールしながら重ねていくものだと考えており、それぞれの音は、音が思い浮かんだ瞬間から最後の6音〔final six〕まで完全にコントロールされている。レコードを作る過程でバンドが振り回されても、それはそれでかまわない。「プロジェクト」がそれをコントロールする仲間の承認さえ得られるならば。

私のアプローチは正反対だ。

私はバンドを最も重要なものだと考えている。バンドの個性とスタイルを生み出す創造的な存在として、また毎日24時間存在する社会的な存在として。何をすべきか、どうプレイすべきかを指示するのが私の立場だとは考えていない。私の意見を聞いてもらうことにやぶさかでないが(バンドが美しく進歩していると思ったり、へまな間違いを犯していると思ったりしたら、それを伝えることも私の仕事の一部だと思っている)、バンドが何かを追求すると決めたら、私はそれが成し遂げられるのを見届ける。

私はアクシデントやカオスの余地を残しておきたい。すべての音符と音節が揃い、すべてのバスドラが同一であるような、欠点のないレコードを作るのは、芸当ではない。そんなバカなことを許す忍耐力と予算があれば、どんなバカでもできる。私は、オリジナリティや個性、熱意といった、より大きなものを目指すレコードに携わりたい。もしバンドの音楽とダイナミクスのあらゆる要素が、クリックトラック、コンピューター、自動ミックス、ゲート、サンプラー、シーケンサーによってコントロールされているとしたら、そのレコードは無能ではないかもしれないが、並外れたものにはならないだろう。またそれはライブ・バンドとの関係もほとんどないだろう。それこそがこの戯言の目的であるところのものなのだけど。

#2:私は、レコーディングとミキシングとを、専門家が継続的に関与することなく行える無関係な作業だとは考えていない。レコードの音の99%は、基本的なテイクを録音している間に確立されているはずだ。君たちの経験は君たちのレコードに固有のものだ。しかし私の経験では、リミックスによって現に存在する問題が解決されたことは一度もなく、想像上の問題が解決されるだけだ。私は他のエンジニアの録音をリミックスするのが好きではないし、誰かにリミックスしてもらうために録音するのも好きではない。どちらの方法論にも満足したことはない。リミックスはドラムのチューニングもマイクの向け方も知らない、才能のない臆病者のためのものだ。

#3:私は、あらゆる状況においてあらゆるバンドにやみくもに適用できるような、ストック・サウンドやレコーディング・テクニックの決まった福音書を持っていない。君たちは他のバンドとは異なる存在であり、少なくとも君たち自身の好みや関心事を尊重してもらう権利がある。例えば、私は大きな部屋でブーミーなドラムキット(例えばグレッチやカムコ)をワイドオープンにした、特にボーナム的なダブルヘッドのバスドラムと本当に耳に痛いスネアドラムの音が大好きだ。また、古いフェンダー・ベースマンやアンペグのギターアンプから出る吐き気を催すようなローエンドや、真空管が壊れたSVTの完全にぶっ飛んだサウンドも大好きだ。そういうサウンドが曲によっては不適切なことも知っているし、無理に使おうとしても時間の無駄だ。私の好みでレコーディングを決めるのは、内装を中心に車をデザインするのと同じくらい愚かなことだ。私たちが違う方向からレコーディングに臨むことがないように、君たちがどんなサウンドにしたいかを決め、私に明確に伝えてもらう必要がある。

#4:どこでレコーディングするかは、どのようにレコーディングするかほど重要ではない。使いたいスタジオがあるなら、そのスタジオを使う。そうでなければ、提案もできる。私の家には24トラックの立派なスタジオがあるし(フガジがちょうどそこにいたので、彼らの評価を聞いてみるといい)、中西部、東海岸、イギリスの10数カ所のスタジオのほとんどに私は精通している。

レコーディングとミキシングの全工程を私の家で行うのは、君たちが有名人だからというだけの理由で、近所に噂が広まったり、君たちがファンの戯言に耐えなければならなくなったりするのが嫌なので、少し心配ではある。でも、レコードをミックスするにはいい場所だし、食事も美味しいだろう。

スタジオの選定や宿の手配など、細かいことは私に任せてほしい。君たちがそれを選びたいなら、ただルールを決めてくれ。

外部のレコーディング・スタジオの第一候補は、ミネソタ州キャノンフォールズにあるパキダム(Pachyderm)というところだ。音響効果抜群の素晴らしい施設で、レコーディング中はバンドが住める、建築家の夢のような快適な邸宅だ。そのため、すべてがより効率的になる。皆がそこにいるから、街中にいるよりずっと早く物事が片付き、決断が下せる。サウナやプール、暖炉、鱒の泳ぐ小川、50エーカーの広大な土地など、豪華な設備もある。そこで何枚もレコードを作ったし、いつも楽しんでいる。これだけ素晴らしい施設にしては、値段もかなり安い。

パキダムの唯一の欠点は、オーナーもマネージャーも技術者ではなく、オンコールで技術者がいないことだ。私はそこで十分働いてきたので、深刻な電子機器の故障でない限り、うまくいかないことは何でも直せるが、一緒によく働いている男(ボブ・ウェストン)が電子機器(回路設計、トラブルシューティング、その場でクソを作る)に長けているので、もしそこでやることになったら、彼は私の給料でついてくるだろう。一番近い技術者から50マイルも離れた真冬に電源が壊れたり、重大な故障が発生したときの保険として、彼は安い。彼はレコーディング・エンジニアでもあるから、私たちがレコードを作っている間、彼はもっと平凡なこと(テープのカタログを作ったり、荷物をまとめたり、備品を取ってきたり)もしてくれる。

いつかジーザス・リザードを説得して、あそこでいい時間を過ごそうと思っている。そうそう、AC/DCのアルバム『Back in Black』がレコーディング、ミックスされたのと同じ、ニーヴのコンソールだから、ロックに最適だ。

#5:お金のこと。これはカートにも説明したけれど、ここでもう一度言っておこうと思う。私が録音したレコードの印税はいらないし、もらうつもりもない。0%。以上。プロデューサーやエンジニアに印税を払うのは倫理的に許されないことだと思う。バンドは曲を書く。バンドは音楽を演奏する。レコードを買うのはバンドのファンだ。素晴らしいレコードになるか、酷いレコードになるかはバンドの責任だ。印税はバンドのものだ。

私は配管工のように報酬を受け取りたい。私は仕事をして、君たちはその対価を払うだけ。レコード会社は私が1%か、1.5%を要求すると思っているだろう。仮に300万枚売れたとすると、40万ドルかそこらになる。そんな大金を受け取るわけがない。眠れなくなってしまう。

私は君たちが支払う金額に納得するつもりだが、それは君たちのお金なのだから、君たちにも納得してもらいたい。カートは、私が満額と考える金額を私に支払うことを提案してくれて、君たちが私にもっと支払う価値があると本当に思ったら、しばらくアルバムと一緒に過ごした後に、別の金額を私に支払うことを提案していた。それはいいけれど、おそらくその価値よりも組織的なトラブルのほうが多いだろう。

ともかく。私は君たちが私に対してフェアであることを信じているし、君たちが普通の業界のチンピラが何を望むか熟知しているに違いないことも知っている。私のギャラの最終的な決定は、君たちに任せる。君たちがいくら払うことなろうが、私のレコードに対する熱意には影響しない。

私みたいな立場の者なら、君たちのバンドと関わることで仕事が増えることを期待する人間もいるだろう。しかし、私はすでに手に余るほどの仕事をかかえているし、率直に言って、そんな表層的なことに惹きつけられるような人たちは、私が一緒に仕事をしたい人間ではない。だからそのことは考えなくていいです。

以上。

不明な点があれば、電話で確認してください。

〔署名〕スティーヴ・アルビニ

レコードの制作に1週間以上かかるとしたら、
誰かがやらかしているってことだ。
オイ!

[翻訳:sosaidkay]


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