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わたしのためだけのあの部屋

2014年6月。わたしは一人暮しを始めた。そのとき26歳。

当時同棲をしていたけれど、塵も積もれば的な感じの思いが些細なきっかけで爆発してしまい、引越しを思い立ち3週間後には物件を決めた。

はじめて「わたしだけのわたしのための部屋」を手に入れたのだ。
わたしはあの部屋がとてもだいすきだった。

トータル20件くらい内見した中で1番陽当たりがよくて明るくてわかりやすい間取りの部屋。1Kで20平米くらい。入った時からベッドや家具の配置をすぐに想像できた。新しくはないけれど汚くもなく、ユニットバスのトイレは狭いけどキッチンの上に備え付けの戸棚があるところがすきだった。

夏場は陽当たりが良いから暑いけど、窓を開ければ風が通って気持ち良かったし、冬は暖かかった。ベランダから流星群を観たこともあった。住宅街ではあったけれど、3階建の3階にあるあの部屋は見晴らしも良かった。空がよく見えた。すごく住みやすくてすきな部屋だったけど、思い返せば、塵を積み上げるが如く溜め込んだ思いを爆発させる前に住んでいた家と似たような雰囲気だったから、あのときあの部屋を選んだのかもしれないなぁと。

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しかし引越しをして3ヶ月経った頃、失恋をした。関係を見つめ直し、前向きに考えていたわたしにはあまりにショッキングな結末で、その後1ヶ月ほど毎日泣きながらあの部屋で過ごした。見兼ねた友達が何人も遊びに来てくれた。駅まで友達を迎えに行くのも楽しかった。誰かを家に呼ぶのははじめてだったけど、楽しかった。その年の年越しには友達を招いて鍋パーティーもした。アパートの下の自販機で時々ジュースを買うのもなんだか憧れの都会の雰囲気で最高だった。

それから数ヶ月して、わたしは今の夫となる人と出会った。
告白をした日、良い返事をもらえた場合に備えて家を片付けてから出掛けていたことは秘密。

当てつけのように引越しを決めたけれど、あの部屋はわたしにいろんなずるい考えや、1人故に許されるだらしなさをたくさん生みだしながらも、初めての「わたしだけ」の場所で、あの部屋にはわたしのすきしかなかった。

それから数年して結婚のため、あの部屋を引っ越すことになった時は、新生活を楽しみにしながらも、あの部屋を出ることがすごくすごく寂しかった。家具や家電を処分するときには、わたしの選んだわたしだけのための部屋だったことを改めて感じた。こだわりのないわたしの、こだわらなかったけど思い入れのある部屋だった。

結婚して新生活をスタートした後も、しばらくは住宅情報アプリであの部屋のその後を追っていたけれど、わたしが引っ越した数ヶ月後には掲載終了していたから、もちろん今は別の誰かが住んでいるのだろう。

今はどんな人がどんな事情であの部屋を選んで住んでいるのかわからないけど、きっとあの日当たりの良い暖かい部屋で、幸せに過ごしていますように。



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