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さっくり

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検証、考察、まとめなど、中の文章を読み飛ばしても内容把握に差し支えないもの。 また、小説は掌編以下が目安。
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2023年10月の記事一覧

香らせる蠱惑

「色香って結局どんな香りなの?」 「フェロモン臭?」 「何それ臭そう」 「だけど刺さるとね、癖になっちゃうそんな香り」 「刺激臭なの?」 「んー刺激臭といえば刺激臭よね」 「鼻につん、は苦手だよ」 「大丈夫。鼻じゃなくて本能にどすっと訴える抗い難い刺激だから」 「それ、大丈夫じゃないよ」

フレグラント・ドライブ

「誰にも邪魔されず、好きな匂いに浸ってたいと思ってさ」 「ほう」 「効率良く香らせ続けるには、適度な狭さと適度な気密。これを満たす環境を実現すればいい」 「押し入れとかトイレとか?」 「それも悪くない。が、俺の結論はこれだ」 「専心奔らせて車とはたまげたな。一本槍で香車に行き着くか」

アロマポリス

「その世界は香気に満ち、あらゆるものが芳しく、住人は香りで意思疎通するんだとか」 「太古の海みたいだが、嗅覚が敏感でも鈍感でも大変そうだ。家を好きな香りで満たすので十分だな」 「そういえば飼ってる犬はそれで大丈夫なん? 食べ物はもちろんだろうけど、こっちは洗剤からだろ」 「へ?!」

俺色マーキング

「あれ、匂いが違う?」 「貰ったの。彼の好きな香りなんだ」 「まあいじらしい。ああこの匂い、友達が彼氏から貰ったって香水と似てるんだ」 「へー」 「それが浮気相手にも同じ香水贈ってて別れたってまさかね」 「まさかねー」 「早まるな。まだ決まったわけじゃないし、あんたが本命かもでしょ?」

サンマサンマーメン

「サンマーメンにはサンマは入ってないんだと」 「あーメロンパンか」 「サンマを使うのはサンマラーメンなんだって」 「サンマ入りサンマーメンはサンマサンマーメン?」 「メロンメロンパン的には」 「ジャムジャムサンド!」 「もう言いたいだけで中身無いのに、無駄に身が詰まってそうなパンだな」

サンマ・アラカルト

「主人公、ヒロイン、マスコット。王道布陣の仲間を三間と謂う」 「時間、空間、仲間。遊びが生まれるトリニティ。これが三間」 「三人で卓を囲む変則。三麻と云えばこれ」 「! 楽しそうだな。俺も一ついいか? 旬の秋、刀に見紛う銀の魚体。これぞ」 「おいやめろ。食べたくなるから避けてんのに」

やっぱり目黒に限る

「じっくり蒸して脂を抜き、しっかり解して小骨を除け、きっちり毒見済みの冷めた身。調理も状況も違うから、厳選品でも目黒の感動に届くベくも」 「え? めっきり不漁ですっかり高級食材を食卓に届けるべく、養殖を実現した目黒の会社の文句だとてっきり」 「時代を感じるな」 「それ江戸が言う?」

目黒のサンマ君

「中学の時にさ、何故か二つ名が『目黒のサンマ』って奴が居て」 「それって地元のカッパとかトビウオとか云う?」 「そう。ずっと泳ぎ続けられる謎の疲れ知らずで」 「サンマだ」 「それに人一倍繊細で、傷つきやすくてさ」 「サンマだ」 「おまけにとにかくよく喋る」 「さんまだ!」 「それでか!」

MEWL《マーシャル・イングロッシング・アンド・ウォーニング・リクイドイド》警備保障

「食料安全保障は生産・流通・管理に支えられています。私共はそれらの警備が専門です。空気や床の微細な振動、匂い、暗所にも対応の各種センサで敵を検知、迅速柔軟に排除します。鼠一匹近付けさせません。より豊かで温もり溢れる安心の暮らしを――」 「今日もにゃあにゃあ元気ねえ。はいはいご飯ね」

私見、今宵の名月

「今日は雲が掛かっていなく、塵や花粉、黄砂、水蒸気量も少なく、空気が澄んでいてとにかく遮るものが少ない。それに軌道も低過ぎず高過ぎずな季節で、気候も過ごしやすくてだか――」 「ねえ」 「はい」 「違うでしょ?」 「……」 「そうじゃないよね?」 「あなたと、……居る、から」 「よろしい」

贔屓目プレイズ・ダンク

「君はさ、私なんかのどこがいいの?」 「振る舞いも身嗜みも言葉遣いも周囲への気遣いも丁寧で臨機応変に過不足が無い。それをいつも心掛けてる努力家で、寂しがりなのに甘え下手で意地っ張り。こんな僕とも話してくれて。そんな君の生き方を尊――」 「お願い待って。ちゃんと聞くよ? 聞くけどさ!」

対策組織が踊る時

『――これを喫緊の課題と判断し早急に対策を講じるべく、対策本部の設置を指示しました』 「こういう発信があるとさ、仕事してるって感じするよね」 「仕事してる感はね。それなら解決時は?」 「その解決に納得しない人も居るからさ」 「あー解決しちゃったら対策の仕事を失うからか」 「そっちかい」

夢見るラブリー・コンフリクト

「俺にしろよ」 「僕にしよ?」 「俺ならたとえお前に何があろうと優しく包み込んでやる」 「僕なら君がどこに行ってもずっと一緒に居てあげられるよ」 「腕枕、好きだよな?」 「弟たちも君と居たいって」 「なあ!」 「ねえ!」 「――ねえ、結局どっちにするの? 自分へのプレゼントのぬいぐるみ」

被造物の宿命

「この施策、もう少し融通利かないの?」 「仕様です。ご理解ください」 「待ち時間だらけの日程も?」 「仕様です。ご理解ください」 「そればっかなのも仕様?」 「……」 「はあ。電池切れると使えないのも仕様ってわけよね。……あー私が食べるのも眠るのも、余計な感情に煩わされるのも仕様かあ」