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さっくり

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検証、考察、まとめなど、中の文章を読み飛ばしても内容把握に差し支えないもの。 また、小説は掌編以下が目安。
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記事一覧

再新星

「このアイドル、期待の新星なんだとか」 「いつまで新星なんだ?」 「先輩風を吹かすまで?」 「先輩風吹かす星」 「そこはスターって言ってあげて」 「新星は爆発の後、しばらくしてまた新星になったりするが、人間だとな」 「異業種異分野転向か、転生するか」 「人間なら違う宇宙を選べるわけか」

言葉の生まれる場所

「君、この言葉、辞書に載ってないよ?」 「僕が作った言葉ですから。でも意味は通じますよね?」 「だとしてもだ」 「辞書から言葉は生まれるんですか?」 「言葉は生き物なんだ。とても移ろいやすい。だから受け継いだ言葉を一層大切にしなければ!」 「新語大賞大好き先生には言われたくないです」

一年生のピカピカ

「一年生ってさ、何がピカピカなの?」 「真新しさ?」 「肌艶からして違うもんね」 「未来」 「眩い! それは大人に効く」 「あとは無垢? 良くも悪くも。だから悪戯には事欠かない。コンセントにピンセット挿し込んだり」 「春雷イノセンス! そういうピカピカもあるか」 「で、雷を落とされる」

躍る小数点

「ねえこれ、何か桁がおかしいんだけど?」 「というと?」 「数の並びはたぶん合ってる、と思うんだけどね。小数点の位置が変なの」 「あー、浮動小数点のことですね?」 「え?」 「生々流点、生き生きしてるでしょう?」 「ほんとだー。リアルタイムで動いてるー。奇想点外な才能の無駄遣いだー」

ニードル・スケール

「家の屋根に穴が空いちゃってさ。拳大の穴!」 「何があったの?」 「針が刺さったの」 「そんな針。……盛り過ぎでしょ。たとえ高速で撃ち込んでもそんな穴は空かないよ。それが針だとしたら、もう棒か槍だよ」 「針だって!」 「千本飲める?」 「一本だって飲めるもんか。巨人の使う針なんだから」

ファッティ・タイトル

「こぶとりじいさんって太ってたの?」 「ああ、瘤取られじいさんなんだよ」 「瘤取り鬼に瘤取られじいさん?」 「うん」 「なら、瘤取り鬼に瘤取られじいさんと瘤付けられじいさんだよ」 「それは小太りな題名だね」 「鬼が瘤だと思って取っちゃったんだ!」 「それで小太りな作品名が増えたのか!」

あんこ大戦争

「こしあんつぶあん論争ってあるじゃん」 「どう使うかに依るね」 「小利口はいいの」 「つぶあんはつぶしあんと小倉あんの確執が」 「さてはつぶあん派を分断する気だな?」 「それぞれに美味しいのが一番だって言ってるの。別に食べてくれなくていいんだよ? 私の桜餅」 「……それとこれとは話が」

デートのハードル

「互いを値踏みする二人から熟年カップルまで、映画はデートの定番よね」 「話さずとも間が持つし、共通の話題も持てるからね。活弁の頃もそうだったのかな。芝居よりは気軽そうだし」 「なら誘いなよ。大事そうに握りしめてるの」 「それがこっちは言うほど気軽でもなくて。汗を握りしめてるところ」

シネマ・コンプレックス・コンプレックス

「やっぱ映画館と来ればこれだよな」 「何でポップコーンなのさ」 「持ち込みを禁じて客単価を上げたんだと。咀嚼音が小さいし、掃除も楽」 「ならポン菓子でもいいだろ」 「経費とアメリカ演出かな」 「拝米なのに米は蔑ろかよ」 「それ巧くないぞ」 「ポン菓子は美味いだろ」 「ポン菓子は美味いな」

とにかくフィルムは燃えやすい

「そりゃセルロイドはニトロセルロースだからな。けどもうデジタルが主流だろ」 「デジタル化は一方で大衆の声を明瞭に可視化、増幅した。スポンサーがそれを気にしないわけもなく、大作ほど無難に寄りがちに」 「デジタルの燃えやすさな。だが無反応なくらいならいっそ燃えた方が」 「やけくそかい」

映画の醍醐味

「やっぱ劇場で観客に上映してこそだよな」 「配信だけのもあるけどな。映画館だって商売だ」 「集まって時間を共にする臨場感。子供たちの反応、直向きな声援。あれこそ醍醐味だよ」 「お前が子供向けが好きな理由はそれか。そういう楽しみ方もあるんだな。俺は率先して声出すから気付かなかったよ」

魂を抜き取る機械

「そうか。元は魂を抜き取ると恐れられた発明か。それが映画となり、今や被写体の世界から物語を鑑賞するまでに」 「まあ俺らもヘッドマウントして虚空に話しかけてるんだ。傍から見れば魂抜き取られてるようなもんだよな」 「そうだけどさ」 「冗談だって。普通にログアウトできるだろ? ……あれ」

梅干し克服作戦

「最近鍛えてるんだって?」 「部位鍛錬を少々。どうにも梅干しが苦手でさ」 「効果が上がるんだっけ。まあ代替品もあるし」 「その梅干しを克服したいんだ」 「味覚って鍛錬できるの?」 「いや、ぐりぐりの方」 「拳の鍛錬かー」 「こめかみだけど?」 「食らう方かい! 素直に悪戯を止めなさいよ」

梅が披いたから宴を開こう

「新春、好天で梅が薫るなら、宴! 宴を開こう」 「え、花見なら桜なのでは。……さては飲みたいだけ」 「めでたいから祝宴で盛り上げるのよ」 「まだ外は寒いですって」 「酔いが回る頃には心地好かろ?」 「そうですね。やりますか」 「皆で梅の歌でも歌ったりしてね」 「もう、なんですかそれー」