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【SH考察:009】Roman作中の時系列

Sound Horizonのアルバム『Roman』は全体的にフランドル、現実でいうとフランスを舞台にしている。
ただ細部を見ると、時代はバラバラなようにも見えた。


対象曲

  • 5th Story Romanのすべて

考察

見えざる腕:1524年以降

詳細は下記記事にまとめているが、金髪のローランと赤髪のローランが戦えるタイミングが、フランドルvsブリタニアの、ブリタニア内グラスミアの戦いくらいしかない。
これがフランドル帝政化の後なので、大まかに見ても1524年以降になる。

緋色の風車:1524年以降???(かなり仮置き)

正直特定のヒントはかなり少ない。
ただ、英語版とフランス語版がある=ブリタニアでもフランドルでも起きた可能性がある事象、と考えると、ブリタニアとフランドルが直接戦っていた時期なのかな、と。
そのため、とりあえず1524年以降で仮置き。

星屑の革紐:1530年代以降???

これまたヒントが少ないので、ものすごく仮置き。
エトワールの父親の腕が不自由であるという描写から、もしこの父親が『見えざる腕』で片腕を落とされた金髪のローランだった場合、1524年以降、かつエトワールがある程度成長しているので、大まかに1530年代以降と仮定できる。
ただ、存在する腕が満足に動かない場合は「腕が不自由」と表現すると思うが、そもそも腕がない場合の表現としては少々不自然な気もする。
そのため、同一人物でない可能性も十分にあり、そのため時代も特定がしにくい。

焔:1792年?

これは『焔』よりも、その改変版であるNeinの『涙では消せない焔』のほうが時代背景がわかりやすい。
以下の情報でかなり絞り込める。1から6にかけて、大まかなものから具体的な時期が推定できるものになるよう並べた。

  1. 帝国軍がある(=フランドルが帝政化している)。

  2. 旧体制アンシャン・レジームを薙ぎ倒そうとしている。

  3. 神聖フランドル帝国による帝政を否定する革命が起きている。

  4. 断頭台ギロチンの存在が認知されている。

  5. 列強(大国)である他国が、帝政の伝播を恐れてフランドルに介入している。

  6. 「見晴らしのいい丘」で戦っている。

まず、1.帝国軍がある(=フランドルが帝政化している)。
これは言葉のままで、フランドルは王国だったが聖キルデベルト6世が神聖フランドル帝国に改め帝政化した。
詳細はこれまた下記記事にまとめているが、この帝政化は西暦1524年以降、わりと直後と考えている。
後にアルヴァレスを暗殺するゲーフェンバウアー、もしくはその父親が、1524年のドイツ農民戦争を彷彿とさせる、ドイツ南部のオッフェンブルグでの戦いに参戦しているためだ。

次に2,.旧体制アンシャン・レジームを薙ぎ倒そうとしていることと、3.神聖フランドル帝国による帝政を否定する革命が起きていること。
現実でいうと、アンシャンレジーム(Ancien régime)とは、フランス語でフランス革命以前の旧体制のこと、特に1500~1800年頃までを指す。1789~1795年のフランス革命によっていったん崩壊した。(その後短期間復活するが)
この「アンシャンレジームを薙ぎ倒す」「革命が起きている」という点が、前述のとおりフランス革命を強く想起させる。
よって、現実に即すのであれば、1789~1795年のフランス革命最中である可能性が高い。

さらに4.断頭台ギロチンの存在が認知されていること。
ギロチンもまたフランス革命下、1792年4月5日から採用された処刑道具だ。
このギロチンの存在を民衆が認知しているので、1792年4月5日以降の話である可能性が高い。

そして最後に、5.列強(大国)である他国が、帝政の伝播を恐れてフランドルに介入していることと、6.「見晴らしのいい丘」で戦っていること。
現実の史実では、フランス革命を見ていた周辺諸国は、自国民が影響されて同じように革命が起きてしまうこと、革命が波及することを懸念していた。
そのためフランスに軍事介入する国があったのだ。

その軍事介入が影響して起きた戦いのひとつが、1792年9月20日のヴァルミーの戦いである。
これはフランスvsプロイセン・オーストリアの戦い。
この時のフランスは革命で王家が倒されており、軍もそれまでの貴族将校の軍ではなく、愛国心のある義勇兵で組織されており、この義勇兵(いわばボランティア)と、介入してきたプロイセン・オーストリアとの戦いだった。

戦いの地となったのはヴァルミー、地形は丘。
大砲の威力があったことで、フランスの勝利で終結した戦いだった。

このように、丘で軍事介入してきた他国と戦っている点から、ヴァルミーの戦いをモチーフにした可能性が高いと考えている。
ここまでの点から、『焔』は1792年の話と仮定した。

ちなみに、現実のフランスはこの時点では王政で、帝政ではない。
帝政になるのはナポレオン台頭後なので1802年以降。
ただそれを言うと、そもそもフランドルは現実のフランスと全然違う歴史をたどっているので、このあたりの際は目をつぶるしかないのでは……。

美しきもの:1824年以降

曲中たびたび登場するのが口風琴、ハーモニカだ。これの普及が1824年以降である。
ハーモニカがヨーロッパで商業的、実用的に販売されたのが1824年。ロラン・モニカが入手できたのはそれ以降だろう。

天使の彫像:1800年代後半~1900年代初頭???(かなり仮置き)

この曲は本当に時代特定のヒントがない。
オーギュスト ロランのモデルがオーギュスト ロダンでは?という考察を見たことはある。フランス人で、彫刻作品があり、子を認知してない、というある程度近い要素はある。
もしそうなら、ロダンが活動していた1800年代後半から1900年代初頭になるが、正直言いきるのは難しい。

歓びと哀しみの葡萄酒:1903年前後?

貴族社会が色濃く残っているため、そこまで新しい時代ではなさそう。
かつ、継母が「殺戮の女王」と思われる宝石の首飾りを身につけている。そのため、後述の「殺戮の女王」が存在する可能性が高い1903年前後と仮定。
ただ、『歓びと哀しみの葡萄酒』の中で把握までの赤い宝石として扱われ、「殺戮の女王」としては呼ばれないため、ミシェルが死ぬより前の可能性もある。

呪われし宝石:1903年以降???

この宝石は「殺戮の女王レーヌ ミシェル」と呼ばれている。
レーヌreineはフランス語で「女王」の意味だが、「殺戮の」の部分を「ミシェル」と呼んでいるのは、ミシェル マールブランシェが殺戮の舞台女優と呼ばれていることにちなんでいると思われる。

ミシェル マールブランシェは、犯罪史の表"舞台"に三度登場し、その三度目で死亡している。その三度目が1903年2月4日だった。
そのため、それ以降にミシェルにあやかって、この宝石が「殺戮の女王」と呼ばれるようになったとすると、1903年以降と考えられる。
(そもそも原石が掘り当てられたときや、所有者を渡り歩いたのはもっと前かもしれないが、「殺戮の女王」と呼ばれるようになったのは1903年以降という仮定)

ただ明らかに貴族権力の話なので、ちょっと時代が新しすぎる気もしている。

黄昏の賢者:2003年前後

曲中で「賢者サヴァン」と呼ばれる男、クリストフ。
彼は『檻の中の花』に登場するクリストフ ジャン=ジャック サンローランのことだろう。
彼は『檻の中の花』の中で、ミシェル マールブランシェについて以下のように述べている。

...そして、死後一世紀を経過した今でも、
彼女はその檻の中にいる…

Sound Horizon. (2003). 檻の中の花 [Song]. On Pico Magic Reloaded.

ここから、クリストフ存命中の「今」が、ミシェルの死後一世紀、つまり100年経過していることがわかる。
ミシェルが死んだのは1903年2月4日。その100年後なので、「今」は2003年。(ちなみに『檻の中の花』を含むPico Magic Reloadedが発売されたのが2003年)

『黄昏の賢者』時点でのクリストフが、『檻の中の花』時点から大幅に若かったり老いたりしている明確な描写もない。
大まかにとらえても『黄昏の賢者』は2003年前後とは言えるだろう。


以上が、比較的時代特定ができた曲たちである。
残りは正直特定が難しい。

11文字の伝言:不明

この母親が誰なのかによる。
例えば、『黄昏の賢者』に出てくるクロエが母親ならば、かなり現代。
『天使の彫像』のオーギュストの妻、孤児院に入れられた子の母親だったらもう少し古い時代。
そのどちらでもない、他の曲に出てこない母親であれば、もうヒントがない。

結論

ここまで(やや無理矢理・仮置きなものも含めて)検討した順序を整理すると、以下のようになる。

表:むりやりまとめた(筆者作成)

―――

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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。

更新履歴

2023/04/15
 初稿
2023/04/19
 ふりがな追加
2023/05/02
 歌詞引用元表記修正

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