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【SH考察:073】自然の蒼、不健康な蒼、水面の碧と青春
以前の記事で、Sound Horizonの楽曲の中では赤色の表現において、緋色や朱色など一定の法則性で使い分けられている点をまとめた。
今回は青色について、どのような場合で、どのような色の表現が使われているのかを調査した。
対象
Sound Horizonの楽曲全て
考察
青色以外も含む「あお」
サンホラの楽曲では、赤ほどではないが青色もしばしば登場する。
その大半が「蒼」で、たまに「碧」「青」、さらに稀にその他の表現が使われている。
今回もまた調べるにあたり、Sound Horizonの全曲の歌詞を確認した。
(とはいえ一人で人力でやっているため、例によって漏れはあるかも)
![](https://assets.st-note.com/img/1699752233916-xkahit5juc.png?width=800)
「あお」の意味の豊富さ
漢字でどう表すかはいったんさておき、「あお」の意味そのものについて理解を深めたい。
「あお」は単なる青色以外の意味も含む。
今でも、緑色の信号を"青"信号と言ったり、緑色のりんごを青りんごと言ったり、顔色が悪くなったてくすんだり血の気が引いた様子を蒼白という際に、「あお」の意味の多様さがみられる。
![](https://assets.st-note.com/img/1699752586889-lCSP8ZsGMj.png?width=800)
色で言うならば青というよりは緑に近いが、誰もが"青"信号と言う
出典:BATACHAN, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
![](https://assets.st-note.com/img/1699753124116-amTWjLiMKw.png)
これは王林という品種。熟しても赤くなりにくい。
見た目はどう見ても緑色だが青りんごと呼ぶ。
出典:あおもりくま(Aomorikuma), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
色味を表す語は時代が経つにつれて豊富になっていく。
言い換えると古い時代、特に文字がない時代までさかのぼると、少ない色味の語彙で多くの意味をカバーしていた。
(この傾向は日本語のみの話ではなく、私の知る限りで言えば少なくともギリシャ語も同様)
例えば、明るいと感じたものに対しては総じて「赤い」と表現し、薄い・淡い・自然の草の色に近いと感じたものに対しては「青い」と表現していた。
こうした、歴史的に積み重なった意味の豊富さを残す「あお」として使われている表現が「蒼」なのだろう。
「蒼」
歌詞に目を向けると、「あお」の中で最も登場頻度が高い表現が「蒼」だ。
「蒼」は単一の色を表す語ではなく、大雑把に草木の色味や、生気のない様子を表すときに使われる。
つまり色味で言うなら青のみではなく緑や灰色も含み、自然の色味、くすんでいるさまや不透明であることを表している。
つまり、先ほど触れた昔の「あお」の意味を含んでいるのだ。
死せる蒼白き乙女 とても綺麗だった
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
見上げれば丸い夜空 揺らめく蒼い月夜
神の名を呪いながら 奈落の底で唄う・・・・・・
歌詞中では前者のような顔色の悪い・血の気がないさまを表したり、空などの自然の青みを表すときに使われいる。
「碧」
「碧」は青色のほかに緑色も表す。
宝石を表す際に使う表現でもあり、美しいあおという意味合いがある。
歌詞中では主に海(などの広い水面)を表す表現として使われる。
瞳に映した蒼い空 涙を溶かした碧い海
午後の田畑を渡る 翠の波に
碧い湖を溶かした 涙さえ乾いてゆく
また、エリーザベトの瞳の色を表すのにも使われた。
初めての友達は 碧い瞳の可愛い女の子 お別れさ
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
これは青い瞳のことを表す碧眼という語があるため、碧を使ったのかもしれない。
![](https://assets.st-note.com/img/1699754723340-calM9NQdmK.png?width=800)
青い虹彩のこと。主にヨーロッパの白人で見られる。
出典:8thstar, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
右図:緑色の瞳
碧に緑の意味もあることをふまえると、このような瞳である可能性もあり得る。こちらもヨーロッパで見られる。
出典:Laurinemily at English WikipediaLater versions were uploaded by Lilallisun, AED at en.wikipedia., Public domain, via Wikimedia Commons
「青」
「青」について、サンホラの歌詞中では、絵馬に願ひを!より前では使用を1回しか確認できなかった。
伯爵は何時からか 青髭と呼ばれていた
そして絵馬に願ひを!で急に使用例が増加した。といっても、使われ方としては大まかに2種類のみで、青春か津波の表現だ。
青い春の咎
朱い夏を経て
白い秋を焼べる
玄い冬の夢
それは——
青い日の記憶
大地が揺れ 揺れ揺れ揺れ 揺れた
その他の「あお」
上記で挙げた以外の「あお」は、確認できた限りで3種類だ。
一つ目が『澪音の世界』で登場した「薄氷色」。
薄氷色に煌く瞳が鮮やかに朽ちる世界と
堕ちてゆく狂夢に唇を重ねて...残酷な死神になる・・・
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
アイスブルーは、大雑把に言うと薄い青色を表す言葉だ。
ここでは澪音の瞳の色として使われている。
2つ目が『焔』で登場した「水色」。
歓びに揺れたのは《紫色の花》
哀しみに濡れたのは《水色の花》
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
オルタンス、つまりアジサイという意味の名をつけられた双子人形のうちひとり。
アジサイには様々な色があるが、中でも青色の花のイメージなのだろう。
(アジサイは漢字では紫陽花で、紫のヴィオレットとごっちゃになりややこしいので、ここではあえてカタカナ表記している)
![](https://assets.st-note.com/img/1699756060927-dSwZIwDiCG.png?width=800)
出典:No machine-readable author provided. Shmoopy~commonswiki assumed (based on copyright claims)., Public domain, via Wikimedia Commons
3つ目が『死せる乙女その手には水月』に登場した「瑠璃色」。
揺れる瑠璃色の月 とても綺麗なのに
悲しまないで 過ぎ去りし灯も 運命の贈り物
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
瑠璃色は鮮やかで濃い青色。
月そのものであれば、むしろ自然の色味や淡い色を表す「蒼」の方が合っていそうだが、ここでの月は水面(それもおそらく夜の水面)に映りこんだものだ。
夜の水の色味を加味すると、瑠璃色くらい濃い青色の表現のほうが確かに合っていそうだ。
結論
赤色同様に、青色についても一定の法則にしたがった使い分けがみられる。
ただ赤色に比べるとまだそこまで法則がハッキリしていない。これは単に使用頻度の問題だと思われる。
青色は空や海、草木などの自然を表す時に使用される場合が多く、またその際に使われる表現が「蒼」であるため、「蒼」の使用例が極端に多かった。
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
更新履歴
2024/01/07
初稿
2024/04/24
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記
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