【ショート舞台脚本】告白

〇高崎未央…26歳 婚約を控えている。
〇西木圭太…26歳 未央と別れてから彼女はできない。
 2年前まで付き合っていた。

〇20時過ぎ。2人は駅前のコメダで待ち合わせをしている。
 先に圭太が着いてアメリカンを飲んでおり、時折腕時計を確認している。
 そこに未央が遅れてやってくる。

未央「ごめんごめん、お待たせ。え、てか久しぶり」
圭太「久しぶり。別れてからだから2年振りとか…だよね?」
未央「そっかあ。もうそんなに経つんだ」
圭太「そうだよ。てかそんな久しぶりなのに遅れてくるか、普通?」
未央「ごめんごめん。残業抜けられなくって」
未央、鞄からスマホと充電器を取り出してテーブルに備え付けのコンセントに挿す。
圭太「忙しいんだ」
未央「…まあね、ちょっとバタバタしてて。圭太は?まだデザイナーやってんの?」
圭太「まあまあまあまあそうだね、色々とうん、まあ今は落ち着いてるけどちょっと」
未央、すみませーんと手を上げて少し遠くにいる店員を呼ぶ。
未央「なに飲んでるの?」
圭太「あ、これアメリカン」
未央「ブラック好きだったっけ?」
圭太「なんかさ、大人になってから乳製品飲むとお腹壊すようになっちゃって」
未央「(笑いながら)なにそれ」

店員がくる。
未央「クリームソーダください」
店員「かしこまりました」
圭太「めっちゃ子供じゃん」
未央「うるさいな。夕飯も兼ねてるの」
圭太「あんまクリームソーダを夕飯代わりにしない方がいいよ。…で、今日はどうしたの?」
未央「あー…圭太ってさ、今彼女いる?」
圭太「え…いないけど」
未央「あー…そうなんだ。そっか」
圭太「え、なになにどうしたの?」
未央「あ、いやなんでもない」
沈黙が流れる。
圭太、アメリカンを啜る。
未央「…じゃあ仕事がけっこう充実してるんだ?」
圭太「あーまあまあまあそうだねそんな感じ」

店員が靴の形のグラスに入ったクリームソーダを運んでくる。店員「お待たせしました。クリームソーダです」
未央「ありがとうございます」
店員、去る。
圭太「なにそれ、コメダのクリームソーダってこんなポップなの?」
未央「そうだよ。メニューにも載ってるよ」
圭太「マジか。ちゃんと見てなかった」
未央「そういうとこ変わらないね」
圭太「そういうとこって?」
未央「自分の興味のあることにしか目に入らないとこ」
圭太「そうかな」
未央「そうだよ」
圭太「…たしかに、未央と付き合ってるときは未央のことしか見てなかったし考えてなかったかも。重かったよね、俺」
未央「そんなこと」
圭太「俺、未央と別れてから誰とも付き合ってないんだよね」
未央「そうなの?」
圭太「そうだよ」
未央「そっか、そうなんだ」
沈黙が流れる。

未央、クリームソーダのアイスをスプーンでつつきながら口に運ぶ。
一口食べてスプーンを置く。
未央「私、結婚するの」
圭太「え」
未央「来月籍入れて、式は半年後」
圭太「…そっか。そうなんだ、おめでとう」
未央「ありがとう」
圭太「なに?俺に式来てくれってこと?それで今日呼ばれたの、俺?」
未央「あ、ちがうちがう」
圭太「ウェルカムボード描いてくれとか?」
未央「あー、いや」
圭太「…じゃあなに?」
未央「…私、圭太と付き合ってたとき浮気してた」
圭太「え?」
未央「ごめん。浮気してたの。半年くらい」
圭太「半年?いやいやいやちょっと待って、俺たち付き合ってたの2年半だよね?」
未央「よく覚えてるね」
圭太「そりゃ未央のこと好きだも…好きだったもん」
未央「…ごめんね」
圭太「どこ?」
未央「…え?」
圭太「だから、2年半のうちのどこの半年かって聞いてんの」
未央「後半の半年」
圭太「まあそうだよね…え、ってことは5月~1月ってことだよね」
未央「よく覚えてるね」
圭太「そりゃ好きだも…好きだったから」
未央「ごめんね」
圭太「…じゃあ2年目のクリスマスの日に風邪引いて会えないって言ってたの嘘?」
未央「嘘」
圭太「マジか。俺あの日サプライズでミラコスタとってたんだよ」
未央「知ってた」
圭太「知ってたってなに?」
未央「…携帯の予約画面見えちゃった」
圭太「え、じゃあなにその上で断ったってこと?」
未央「その上で断った」
圭太「マジかよ」
未央「だって涼介もミラコスタ取っててくれたから」
圭太「あんまさらっと浮気相手の名前言わないでほしい。じゃあ完全に人で負けてんじゃん」
未央「え?」
圭太「同じミラコスタ取ってたのに俺が断られたってことは涼介って人のほうが好きだったってことじゃん」
未央「あ…そうなるね」
圭太「普通に認めちゃうんだ」
未央「まあ、そうじゃなきゃ浮気相手から婚約者にまで昇格しないでしょ」
圭太「嘘だろおい婚約者涼介なのかよ」
未央「そう。だから、今日は全部言いに来た」
圭太「え、なになになに」
未央「クリスマスの日は今言った通りなんだけど、お正月も圭太に誘われた近所の初詣断って、涼介と明治神宮行った」
圭太「え、ちょっとなになになに」
未央「もう少し遡るね。GWの旅行も風邪ひいたって断って涼介と浅草行った。夏休みは有給とれなかったって嘘ついて涼介と韓国行った、2泊3日で。シルバーウィークは圭太のLINE無視して涼介の家に毎日いた」
圭太「待って涼介との思い出めっちゃ覚えてるじゃん」
未央「全部カレンダーにピンクの文字で入れてるから」
圭太「俺との予定は何色?」
未央「黒」
圭太「俺の予定なんの工夫もなされてないじゃん。モチベーションの表れだよ、それは。あと涼介との旅行がなんかテンプレすぎてなんかヤダ」
未央「そこ?」
圭太「だって俺めちゃくちゃ考えて計画してたもん」
未央「たとえば?」
圭太「たとえば、GWは岐阜とか」
未央「なんで岐阜?なにがあるの?岐阜に」
圭太「城とか見たかったんだよ」
未央「お城なんて岐阜じゃなくても見れるよ」
圭太「(頭を搔きむしりながら)もうもうもうちがうよ、俺は未央となら別に場所なんてどこでもいいんだって」
未央「ミラコスタだって涼介のほうがランク高い部屋だったし」
圭太「もういいよ新事実は」
未央「涼介はいちばん高い部屋とってくれてた」
圭太「だって俺まだ新卒だったし、貯金もなかったし」
未央「涼介大学生だったけどね、そのとき」
圭太「年下かよ。大学生に彼女とられたんだ、俺」
未央「今はちゃんと働いてるよ」
圭太「うるさいよ」
沈黙が流れる。

未央「…ごめん、言いすぎた」
圭太「気づくの遅いよ。明治神宮あたりで心折れきってたよ」
未央「でも言わなきゃと思って」
圭太「なんで今さらそんなこと言いにきたの?わざわざ仕事終わりに」
未央「…スッキリしたくて」
圭太「え?」
未央「綺麗さっぱり清純な状態でお嫁に行きたくて、全部告白しに来た」
圭太「え、なれないよ?清純な状態にはなれないだろ、これだけの所業しといて。あとこれは告白じゃなくて懺悔だよ」
未央「…圭太、変わったね。付き合ってた頃、私が圭太のシャツにアイロンで焦げつくっちゃったときは人間誰にでも失敗はあるよって言ってくれたのに」
圭太「質と量が違いすぎるって。そんな日常のあるあるハプニングと回数重ねた浮気を一緒にしないでよ」
未央「そんなこと言われたってしょうがないじゃん」
圭太「あとあんまりこういう話するときスマホ充電するなよ」
未央「それは関係なくない?」
圭太「スマホのバッテリーとか気にしないでほしい、俺を傷つけようとしてるときに」
未央「…(クリームソーダを啜る)」
圭太「あと俺を傷つけようとしてるときにそんな飲み物頼むなよ。最低でもカフェラテとかだろ」
未央「カフェラテは毎朝飲むから」
圭太「知らないよ。俺と付き合ってたときはなかっただろそんなルーティーン」
未央「…」
圭太「あと俺今日仕事クビになったんだよ」
未央「…え?」
圭太「デザイナーの契約切られたんだよ、なんでこんな日にそんな話するんだよ」
未央「だってさっきそんな話しなかったじゃない」
圭太「まだ可能性あるのかなって思ったから!」
未央「…え?」
圭太「まだ未央とヨリ戻せるチャンスあるのかもって思ってとっさに嘘ついちゃったんだよ、分かれよそれくらい」
未央「なにそれ嘘つく人とヨリなんて戻せるわけないじゃん」
圭太「え、この状態で上に立とうとするの凄いね」
未央「それとこれとは違うでしょ」
圭太「てかさ、なんで最初に俺に彼女いるか聞いたの?普通そういう話かと思うじゃん」
未央「だって私だけ幸せになるのはちょっと引け目あったから」
圭太「え、俺彼女いないって言ったのに全部話したんだ」
未央「あした両家顔合わせだから」
未央「関係ないんじゃん、もう。俺に彼女がいようがいまいが今日話すつもりだったんじゃん。もう少し余裕持って言いに来てほしかった、せめて」
未央「ごめんね」
圭太「…もういいよ」
未央「昔のこととは言え申し訳ないとは思ってる、ほんとに」
圭太「結婚するならもうそんなこと絶対しない方がいいよ、お金とか発生するようになるから」
未央「浮気してお金とられるなんて馬鹿みたいだもんね」
未央、コンセントから充電器を取り外す。
圭太「…もう何も言わないよ俺は」
未央「あ、あとね、もう1つ言いたいことがあって」
圭太「なに?」
未央「ウェルカムボードお願いしたいんだけど。もちろん報酬は払うから」
圭太「あー、クビになってなかったら断ってやるのに」


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