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団栗との対話

「もう楽に生きていいよ」と どんぐりとまつぼっくりに言はれてゐたり

これは多分、前に紹介したことのある無気力短歌だが、こんなふうに短歌には、会話や台詞がそのまま短歌に採り入れられる短歌があって、例えば、俵万智の

この味がいいねと君が言ったから七月六日はサラダ記念日

などは、その典型かもしれない。


真似して、すこし遊んでみると、

男は所詮ATMってことなのさ そう団栗どんぐりに言いていたりき

みたいな・・。
何だか、台詞を変えれば無限に歌ができそうな気がしてきてしまう。

汗もかかず金を儲けるやつがいる そう団栗に言いていたりき

とか。

ウルトラマンがなぜ闘うか知ってるか?帰るとビールが待ってるからさ


とか。


ふざけるな!と叱られそうなので、会話の言葉そのものが味わいの深い「詩」として短歌の中に生きている歌を紹介してみたい。

あなたは勝つものとおもってゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ

これは土岐善麿の歌で、もちろん、戦争が歌の背景にある。妻の言葉そのものに、静かながら明確な戦争批判がこもる。


もうひとつ。

ストローでまわしてごらん透きとほるソーダの中のおまへの空を

団栗はまあるい実だよ 樫の実は帽子があるよ 大事なことだよ  

小島ゆかりという歌人の歌。子供への母としての語りかけが、愛情豊かに伝わって来てとてもいい歌だと思う。


また例えば、よく知られている、円谷幸吉の遺書。(円谷は東京オリンピックのマラソンで銅メダル。次のメキシコオリンピックでメダルが期待されるが、カミソリで頸動脈を切って自殺した。)

父上様母上様 三日とろろ美味しうございました。干し柿 もちも美味しうございました。
敏雄兄姉上様 おすし美味しうございました。
勝美兄姉上様 ブドウ酒 リンゴ美味しうございました。
巌兄姉上様 しそめし 南ばんづけ美味しうございました。
喜久造兄姉上様 ブドウ液 養命酒美味しうございました。又いつも洗濯ありがとうございました。
幸造兄姉上様 往復車に便乗さして戴き有難とうございました。モンゴいか美味しうございました。
正男兄姉上様お気を煩わして大変申し訳ありませんでした。
幸雄君、秀雄君、幹雄君、敏子ちゃん、ひで子ちゃん、
良介君、敬久君、みよ子ちゃん、ゆき江ちゃん、
光江ちゃん、彰君、芳幸君、恵子ちゃん、
幸栄君、裕ちゃん、キーちゃん、正嗣君、
立派な人になってください。
父上様母上様 幸吉は、もうすっかり疲れ切ってしまって走れません。
何卒 お許し下さい。
気が休まる事なく御苦労、御心配をお掛け致し申し訳ありません。
幸吉は父母上様の側で暮しとうございました。


作られたものではない生の言葉に、無限の「詩」が宿る・・そんなことを思う。



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