ことばのないはなし7

 彼らも豊かなほうが、色々と上向くと思うのですけれど。
 優しい支援者、温かい家族、負担にならない仕事、それが彼らの幸せでしょうか?慎ましくあること、われわれの見積もった『身の丈』に合ったこと、それが彼ららしさでしょうか?
 そうです、それで思い出したのですが、彼らにももちろん家族がいるのです。
 最初にタクトさんという利用者さんの話をしましたね、彼の話でもしましょうか。
タクトさんは長男としてお生まれになりました。
 家は大工さんで、お父さんはタクトさんを後継ぎにとお喜びになったのですが、三歳児健診のころから言葉の遅れ、周囲への無関心さ、目を合わせないなどことが続き、自閉症が見つかりました。
 家族は戸惑いました。
 それでも、今はそういった当事者のご両親がなさっているブログ、当事者を描いた漫画や保護者会もありますから、けして彼を連れてわたしもということがよぎらなかったかどうかは少し存じあげませんが、大きな騒動は無かったように思えます。だって彼らは生きているのです、どうしてそれを勝手に絶望しなくてはいけないのでしょう?障害を持つことは不幸でしかないと?どうしてそのようなことが言えるのでしょう?
 とにかく、とまどいや拒絶、もしかしたら「治る」のではないという微かな希望を抱いて怪しい話に耳を傾けてしまうこともございましたね。でも自閉症が治るなどありえませんから、わたし達にできることは不便さを少しでも取り除いてあげることぐらいです。
 もちろんおわかりの通り、障害を持つことはけして不幸ではありません、それならば何故あなたは眼鏡を掛けているのですか?不便だからではないですか、障害を持つことも同じことです。ただ不便さとどう付き合おうかというだけの話です。
 そうは言いましてもやはり思うのです、親亡き後、彼らがどう生きていくのか。タクトさんの父親はタクトさんに釘打ちとカンナを教えようとしました、わたしどもは止めましたが、そういったことが出来ればなんとかやっていけるかもしれない……という親心によるものですので、あまり強くも出られず困りました。
 釘打ちはともかく、タクトさんはお父さんをとても尊敬していていつも現場にくっついて行きました、見れば覚えるのですね、ある時、タクトさんが精密なお家の絵を仕上げました。
 お父さんはとてもお喜びになって、いつかその家を建てると言っております、タクトさんを建築士にするとも言いました、勿論儚い夢です、もし真似事でも釘打ちやカンナがけが出来たとして、障害者枠で雇ってくれるところや親の手伝いが出来たとしましょう、それは「最低賃金の減額特例」の範囲になります。雇用を得るためには、最低賃金を下回ってもそれは「障害により著しく労働能力の低い」彼らですので雇っていただくためには呑まねばならないのでしょう。

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