天道19

 彼と別れても後悔はしなかった、今は後悔しかしていない。
 私に見つかったものは、陛下にお仕えするのにふさわしくはない、心の病だったのだ。
 私はひどく傷ついたが、長年陛下を見守り続けたお抱え医師である伊藤が間違えるわけがない。
 幸い私の病は軽く、今ならいい薬があるという。
「これを飲みながら、少し休めばいいんですよ」
落ち込む私に株価の低下が追い打ちをかけた。私は泣きながら投資信託を解約することとなり、それでもかなりの借金が残った。
 あまりにも突然の断絶。陛下のお側にいること叶わずして私の人生に何の意義などあろうか。
 伊藤は一身上の都合という実に私と陛下の間に相応しくない無味乾燥な理由で自主退職した私に花向けにと小さな話をしてくれた。
「この季節になると、気圧の関係で心身共に不定勝訴のような感じになる人は珍しくない。高木さんのは少し違いますけど、そんなような感じです。高木さんのように真面目な人が一番なりやすいのですよ、どうぞお気楽に願います」
私の退職を聞きつけ一人が私に耳打ちをした。
「そういえば、ここだけの話ですけれど、あの陛下も秋ボケというか、気圧にやられることがあるらしい。

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