生徒会超だより

某地方賞で二次落ちだったのでここで。

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 急ごう。
 生徒会長として学校の廊下は走っちゃだめだな、早く歩かないと。
 そういうときに限って、英語の市原先生が「おっ、白浜、図書館に頼まれた本入ったらしいから、張り紙しとけ」
とか言うし、あぁもう。
 ここ、白浜中学は田舎の小さな中学校で、私こと渚はこの海沿いの中学で女子の二年生にして生徒会と図書委員を掛け持ちしている、小学校の時からそう、何か委員を頼まれたり時には自分からやるタイプだった。
 こういうのってやりたがらない人もいるし、やりたがるやつがいたっていいじゃん?
 いいよ出たがりとかいわれても。出たがりだし。
 それにみんなにたよりにされるってけっこういいんだぞ、内申点もよくなって推薦でいい高校いけるし。部活もやんなくていい。
 おっと、生徒会室、ってか音楽室だけど。
 放課後、この音楽室は生徒会が使うことになっている、うちに吹奏部はないし、防音効いてていいんじゃね?
 じゃ、生徒会はじめまーす!

 今日の議題はこれ
「春の新入生歓迎会について」
あー、はいはい。
 だいたいね、うちけっこう小さい中学校なんだ、本当、一学年90人とか……ま、この辺は確かに田んぼが多い田舎だけど、幸い人が減ってるって話も聞かないから、廃校とかはないだろ。
 だから新入生とかは超貴重!うちにきてくれてありがとう!
 うちってなまじ生徒少ないから生徒会役員以外運動部入るの強制で、それだけめんどくさいけど、今の私みたくジャージ着てても誰も怒らないし、近場に雑貨屋ぐらいしかなくって一日に数本しかない三十分かかるバスで駅前に行かないとろくな店もないけど、その代わりもめごとも少ない(と思う)から。
 で、新入生歓迎会ねぇ。
「なぁ、毎年やってんのって、なんだっけ?」
なんかやってたけど寝てたなー。
「去年やったのは、学校行事の紹介、クラブ活動の紹介をビデオにして、あと生徒会役員と先生の自己紹介」
副会長の秀才、あんがと。
「ねー、めんどくさいだるいー、去年と同じでよくね?」
ギャル書記が手を挙げると、我も我もと手を挙げる。
「あ!半数行った!じゃ多数決ってことで!」
ギャル書記はピンクのマスコットがついた鞄をそそくさと片付けにかかる。
 顧問の青山先生も時計を見て、帰ろうとした。
「じゃあ決定か?早いなぁ」
ギャル書記が日報をまとめようと書類に手を伸ばす。
「ちょっと待って下さい」
私は引っ掛かっていたことを言った。
「去年、私、新入生歓迎会はほとんど寝てたんです、同じことしたら、多分寝る人出ると思うんですけど」
「ほぉ、じゃあ白浜は、何か案があるのか?」
やば、青山先生楽しそう。
「会計の範囲内でできるならいいよー」
ノブ夫、そんな甘そうなジュースよく飲めるな……えぇいもう!こうなりゃやけだ!
 私の公約は「楽しい学校生活」!
 寝ちゃう新入生歓迎会、なんとかしましょう!

 いよいよその日が来た。
 新入生歓迎会奥義その一。
「校長の話を面白く」
ほら、校長の話って長いってあるだろ?で、私は思った、うちの中学の校長はなまじ小さなとこだからか、けっこうな割合で生徒の話聞いてくれてて、たしかなんか賞ももらったんじゃないかなぁ。
 だからさ、先生の話の中で、生徒のウケがいい話ってあるだろ?
 あれ、お願いしてもらった。
「あ、校長!こないだの迷い犬の話、また聞かせて下さい~」
こういうお願いはギャル書記のほうが上手なんだ、見てみろ校長、嬉しそうだから。
 別に変なことじゃないだろ、校長は生徒に頼られればそれがどんな生徒でもいつも楽しそうだし。実際あの犬の話私も好きだし。
 うんそう、犬がな、校庭に迷い込んできて、それを見つけて保護したギャル書記を、成績どうこうじゃなく、この子は優しい子だ、きっとだるいとかじゃなく、いつかその優しさを人のために使ってくれると校長先生は思った。
 皆さんもこのギャル書記のように、困った人や動物には優しく、って話。
 新入生歓迎会奥義その二。
 いっそ新入生が自己紹介。
 いやさ、うちたびたびいうけど本当に小さなとこだから、もう生徒同士みんな知り合いみたいなもんで。時間の計算何回かやったけど、一人一分も自己紹介すればみんなに回るってことがわかったんだ。
 じゃあ、軽くやってもらおうかって。
 って簡単に言うなって?でもさ、少ない生徒同士、仲良くやったほうがいいって。
 それに私が会長なんだから私が誰より最初に自己紹介するの!
 新入生はもじもじしてたけど、私が
「私が会長の白浜渚です。ここは田んぼしかない田舎ですけど、田んぼがあります。
 田植えとか稲刈りとか餅つきとかあるんで、楽しみにして下さいね」
って言った後はなんでかみんな笑って打ち解けて、ちゃんと照れながらやってくれた。
 新入生歓迎会奥義その三。
 クラブ活動をやってみよう。
 よく考えたらクラブって小学校の時なかったよな、けっこうなんていうかこう、イメージしにくい文学部とかもあるから、どんどん指名したり立候補したりでステージ上でやる実演に飛び込んでもらおう!って。
 これがまた、ビデオ見せるのと訳が違う、ノブ夫はこれに不思議な才能を発揮させてて、書いたことない絵で独特の世界観を表しては先生に「お前店継ぐんじゃなく美術やらないか?」って勧誘されてた。
 新入生歓迎会奥義その四!
 運動部は、あー、めんどくせ。
 ってことで、運動得意で好きだっていう秀才くんに丸投げだぁ!
 何やったのかなぁ。
 まず、秀才くんは部の主将をみんな呼んで並べた。
「僕はバスケ部です!県大会に今年は行けなかったですが、部員が少ないので、入ればきっと大会には出れます!
 三点シュート!気持ちいいですよ、じゃあお願いします!」
すると、やおら秀才くんが学生服の上着を脱いで、コートに立ってすっ、とボールを頭の上から放った。
 ポン、ゴールネットはわけもなくボールを受け止め、主将は
「このラインからゴールすれば三点入ります!みんな、バスケやりに来て下さい!」
と力説した。
 すげー、なんでも秀才は生徒会の傍らバスケ部にもいるみたいで、生徒会いれば運動部入んなくていいけど入っても構わないって先生には言われたとかで……。
 新入生歓迎会奥義その五!
 生徒会へようこそ!
 これは、顧問の青山先生が言ったんだけど、ここって、平和な中学だから、とくに何かたいした問題があるわけじゃなし生徒会はし得なんだよな、つくづく。
 で、生徒会はこんなにみんなのことを考えているよー!ってんのがふつうの学校ではやるみたいだけど、何せ何もないとこだから、本当、パトカーの助手席の人よく居眠りしてるぐらい。
 だから、どんどん意見言っていい、だるければだるいで構わない、だるいときは人に任せればいいし、誰もやらないことは自分もやらなくていい。その時は適任者を選べばいい。
 テキトーでいいから、どんどんやって。
 って、青山先生が言ってた。
 新入生歓迎会奥義その六!
 個性派メンツの紹介!
 いやね、人数少ないとこだと、けっこう有名人っているんだよ、例えば佐藤。
 成績とか運動では目立たないけど、彼の魅力はそれではない。
 一旦歌いだせば、彼の歌を聴くために教室へ来る先生もいるというほどの美声。
 声量もよく、声変わりを超えた低音で囁くようにやや懐かしめの歌を歌えば、そこはさながらコンサート会場。
 マイクを握る彼を誰もが見ゆる。
 気づけばそこは拍手の渦。
 もちろん、個性は申請性だから、ここぞとばかりにお調子者の矢部が斎藤と漫才やってみんなシーンとしたり、逆に文芸部ですげぇ文書く杉浦がみんなのリクエストがあったのに出たくないって泣いたりしたけど、楽しかった。
 新入生歓迎会奥義その七。
 校則そんな厳しくないからさ。
 うちはぐれる道具がどこにも売ってない、そもそも色んな店がないって理由からかわりと学校が放任主義で。
 まぁ、犯罪とかしたらめんどいだけだし、そんなダルイことじゃなく楽しくやろうよ、そうだな、私だったらこうすんだよ。
 ほい。ザリガニ。
 田んぼは荒らすし、稲切るかもって、めちゃめちゃ怒られるからな、これ。
 まぁでも本当にどうしようもない進路とかの意見相違はなぁ、あるけどな。それは自己主張っていうんじゃね?
 先生の自己紹介も終わった、まぁまぁ寝てるっぽい人もいなかったっぽい。

 そんな感じで無事新入生歓迎会は終わり、反省会っていうか、みんなで音楽出で大山んちからもらったジュース飲んで話しているだけのやつが始まった。
 これがまたな、甘いんだ。パイン味?とかでマンゴーも入ってるとかで……。
 売れ残りを生徒会に安く売ってくれるんだからまぁ贅沢は言えないよな。
 お菓子もつけてくれたりするんだ、文句は言えないよ、ジャムついたクッキーでまたずいぶん甘いけど……。
「お疲れ様」
ギャル書記は甘いものには手をつけず(痩せてんのにダイエットしているらしい)パックの紅茶を飲みながら言った。
「まぁ、よかった。新入生の顔も少し覚えたし」
「君の三点シュートもよかったよ~」
ノブ夫はクッキーをばくばく食べながら言った。
「それより、ノブ夫あんな才能あったんだな」
えへへ、ノブ夫が照れて笑う。
「そうだ、みんな色んな才能があるんだ。優しい才能、小説の才能、歌の才能、絵の才能、人を楽しませる才能、なんでもできるやつもいるだろう、なんにもできないと思っているやつもいるかもしれない。
 しかし、きっとその人は、生きているだけで回りの人を明るくしてくれるんだ」
 青山先生が力説した、先生、アツいよ。

 家に帰った。
 私の家はこの辺では珍しく農家じゃなくて、親はリモートでアプリケーションエンジニアやってる。親が農業やりながら仕事できるってここに引っ越してきたの。
 私も帰って手を洗うとまずはやることが、パソコンの電源を入れること。
 学校の勉強もそこそこに、私はサイトを見ながら、私はアプリのツールをいじる。
 ん?中学生はちょっと珍しいかな?
 でもさ、思った通り動くのって楽しいよ。それにいつかすげぇのできるかもしれないし。
 今はまぁ、サイトにあるのコピペして、どこをどういじったらどうなるっていうのがちょっとずつわかってきただけだけど。
 それにそういうのってだいたい外国のサイトだからさ、英語の勉強にもなるわけで!
 それにこんな田舎でもネットは万国共通、大学の講義とかもたまにオンラインではただとかすごくない?
 や、SNSはやってない、ネットってすごいプログラマーがたくさんいるじゃん、恥ずかしいよ。
 母が夕飯って呼んでる。
 保存して、食べたら続きやろう。
 よし再開!}で文をくくってと、実行、うまくできたかな。
 あぁ、これスペルミスか。
 これでっと、あれ?この電球マークなんだろ、黄色は無視してっと。赤、赤。
 あれ、母がもう寝なさいだってさ。もうそんな時間。
 じゃ、おやすみ。
 明日は生徒会なしだ、図書委員として図書館でプログラミングの本でも読んでよ。

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