ことばのないはなし8
彼らはきらきらした健常者の世界をわくわくして見ています。
こないだはヒメさんがビーズで一生懸命新聞広告に乗っていたブランドブローチを作っていました。そしてとても似ては似つかないそれを大事そうにつけています。
それが彼ららしさだというのでしょうか?
イミテーションのブローチが手に入ってよかったねと、本物はまぁ、仕方ないねと言うことなのでしょうか。
いえ、だからと言って特にわたしに何ができるということは……。
そうですねこういう話はやめにしましょう、だって生活保護を叩くような風潮ですもの、福祉で生かしてあげているだけありがたく思え、同じものが欲しいなんて贅沢を言うなと言われそうです。
そう言っている人はいつまでそのままでいられるのでしょうね。
障害者は不幸ではない、わざわざそんなことを言うのにはわけがあります。
ほら、ご存じでしょう、神奈川の施設で働いていた方がたくさんの障害者を害した事件を。
彼らが不幸しか作れないなんてとんでもない。
彼らはただ存在するだけで回りを幸せにするのです、穢れのない、とは比喩であり、実はきちんと彼らにも欲望などはあるのでしょうけれど、それはそれとして彼らの笑顔に優しさ、あるいはただ存在そのものが、わたし達に元気をくれます。
一体何のつもりでそのようなことを容疑者が言ったのか、それはわかりたくもないですし、共感の声が多いというに至っては上等な人間じゃないという感想しか沸かないですけれど、とにかくそのニュースは震災の時のように利用者を戸惑わせました。
ここは安全だ、支援者は優しいと思っていたのです。安全でないと言われた時の彼らの動揺がわかりますか。
生きる価値がない、死ねと言われた気持ちが。
それでとにかく児童の施設では保護者に送り迎えをしてもらって、利用者さんには何度も何度もここに犯人は来ませんと説明をして、それでも皆さんはパニックになりました。
ただわたし達はここにいます。何も悪いことはしていません。
そうです、わたし達はここにいます。
さっきから話を遮るようなことをして申し訳ございません。
でもこちらの話を聞きたいと来て下さったあなたにはどうしてもこれだけはわかって欲しくて。
いえ、わたし達はこうして勿論わかって下さるからこそこうしてさっきからずっとわたしの長話に付き合って下さるのでしょう?
えぇもう、静かに暮らしているだけで何も面白いことがないものですから、取材をお断りしようかとも随分悩んだものです。けれどもそれで少しでも知的障害のある自閉症者への理解が進むなら、利用者さんのためにと覚悟を決めました。
そのようにわかってほしいことはですね、もちろんこうしてただ存在するだけでもし誰かのお邪魔だと言うのでしたら、少し考えて下さいということです。
あなたは今のところ健康で、特に障害もない。
しかしある日脳に腫瘍が見つかって、取り除くことになった。
そしてすんでのところで脳に障害が残ったら?
脳はわかりにくいと言いますからね、いえ、驚かすつもりはありません。
すいません取り乱しました。
それでもわかってほしいのです。
明日はあなたも障害者になるかもしれないのです。
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