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パンですけど食べ(られ)ません!1

第1話

 私は未来みらい、LGBTフレンドリーなIT企業「もんすたぁ」でSEとして働いて二年目。

 私がここで働いている理由は国籍、ジェンダー、障碍、セクシャルティを問わず働きやすい企業への貢献、エンジニアとしてのキャリア、そしてもう一つ。

 私がパンセクシャル(性は問わず恋愛対象になる人)であることです。

 と、言っても別にとって食べないし、気になる人とは男女共友達で、セクシャルティは違えど、会社はチームです!

 朝来てタイムカード押したらみんなに「おはよう」をいう、広くて綺麗で風通しがいいオフィスは性別も年代もセクシュアリティも様々な人がいる。

 パッと見ただけでもライトさんっていう60代の男性スタッフは、ゲイであることに悩んだころ日本文学に惹かれて来日した生粋の現役エンジニアだし、この人のセクシャリティのこと誰も何も知らないけどみんなが慕ってるパートの40代女性の紗和さんとか、女装好きな黒崎さんとか、バリバリの女好きでSEの待遇いいうちに来てくれた同僚の伊馬くんとか、自閉症の鈴木くんとか、色々な人がいるのが当たり前の社会、あ、そういえば社長もFTMゲイだったっけ。

 そう、会社はチーム、そう思っていたのに……。

 お弁当の時間、お弁当を囲んで女性の思い人で親友、カコがこう言った。

「未来って恋人いないの?」

あー、はいはい。くるかー、そうかくるかー、カコにはちゃんと言ったつもりなんだけどなー、キツイなぁ、ネタだと思われたかなぁ

「いないのー、じゃああたしとー」

そうかくるかー、うん?

「あたしと!付き合ってくれない!」

はい?!!!

 

 カコの顔が赤い、本気だ。私はびっくりしてとっさに立ち上がる

「付き合うって、コンパとかショッピング付き合ってってことじゃなく?」

「うん!」

カコは両手をかわいらしく握って(本当にかわいい!はわわわ!)笑顔で屈託なく返事する、え~っ!!!こんな展開、妄想したことだってないない!!

「いつも見てたの!未来ちゃん責任感強いし!優しいし!」

あぁ、責任感は首になるのが怖いビビりなだけだし、優しいのはカコを変な男に渡したくないだけなんだけどね……。

「同性で付き合うなんてフツーじゃん!付き合っちゃおよ!」

え~っ!!!カコ異性しか興味ないもんだと思ってた、まぁ変わることもあるかもだけど。びっくりしたけど、とりあえず返事は待ってくれるって、あーあ、私の片思いこんな風に実っていいのかな、いいんだけど、あぁ。

 告白されてしまった。

 思いながら気もそぞろで午後も仕事、いまいち集中できない……(当たり前)ぼおっとしてたら異性の思い人で友人の伊馬くんが後ろから声をかけてきた。

「おい」

近い、近い、イケメン近いって意識的なのかな

「このコード間違ってる、珍しいなお前が」

だーーーー!!

 少女漫画の俺様キャラか伊馬くんぐらいだよこんな後ろから、耳元で、お前呼ばわりでときめくの!何これ何これ!今日はときめいてばっかで仕事にならないとかそんな日なんですしょうか?いやスケジュールに余裕はあるけど……。

「ほらエラーが出てる、何このスペル」

近い近い、俺様キャラってリアルにいたりするんだね本当、だ、だめ、心臓に悪い悪い。

「そ、そうだ伊馬くん」

私は振り返って手を合わせお願いする

「仕事終わったら飲み屋行かない?相談したいことがあるの」

伊馬くんはたらしの女好きだけど、だからこそ私には来ない(と思う)し、だから友達でいられるの

「いいよ。デートのお誘い?」

軽いなぁ、こんなこときっと誰にでも言うんでしょ。まぁでも好きなんだけど、あーあ。

 相談しよう、うん。

「ごめんね」

「いや、いいよ」

駅前のなんてことない居酒屋、安くて美味しくて私はいつもここ。

「どうしたの?ついに告白?」

座って水を飲むと早速聞いてきた、あぁ軽い軽い、私じゃなきゃ本気にしちゃうよ。

「うん……」

枝豆のお通しをつまみながら(あぁ、言っちゃおかなこれ、言っちゃお)と私は気合を入れる

「すごく、言いにくいんだけど……」

あぁ、これ、居酒屋じゃなきゃすごくロマンチックな雰囲気なのに

「うん」

ほら、伊馬くんとっても誘惑的な視線で見てる、あぁぁ。

 でも雰囲気壊しちゃえ、えいやっ

「女の子に告白された」

ぶっ、伊馬くんは飲んでたものをちょっとふいた

「言ってなかったっけ?私パンセクシャルで、好きな女の子に告白されちゃって」

友達だからこんな軽く言える、伊馬くんとは付き合いも長いしだいじょうぶ。

「パンセクシャルっていうのはねー、男も女も恋愛対象になってー。

 私はその中でもデミロマンチックでー」

違う、こういう告白は待っていない。

 伊馬くんはそう呟きながら目が点になっていた、イケメン台無しじゃない、そうしたの私だけど……。

 でもさすが私の友達、すぐ顔を本気モードにしてスマホを出す

「ちょっと調べていい?パンセクシャル……」

検索はエンジニアの基礎だもんね、じゃなくて……なんかやっちゃったかも、引かれるかな

「恋愛対象に性別を問わない、で、デミロマンチックっていうのは心理的な絆を重視する、そうだね?」

あー、エンジニアモードになってる。かっこいい。

「男でもいいんだね?ようは……」

やば、やば、やば。この流れってまさか

「僕じゃ駄目かい?」

うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!やっぱりー!!!!

「十分親しいつもりだけど、それともタイプじゃない?」

あぁぁぁ、今日はなんていう日だ。

 飛び出してしまった……。

 スマホをいじりながら電車で、二人の連絡先を見る。

 どうしよう、二人とも大好きだよ。

 あ、今私ヒロインみたい。

 二人にメール送らなきゃ。

 どっちか断るのかなぁ、やだなぁ。

 家についちゃった、寝よう。

 夢の中、選べなくて二人とも!って両手の花な私がいた。

 きゃっ、うふふ、あぁこのままで……うーん。

 あぁ、会社だ、今まで思い人二人いて楽しかったけど今日からちょっと気が重い……。

 でも遅刻できない、真面目というよりビビりな私、二人、いるよね。

「え!じゃあ伊馬くんも未来ちゃんを?」

「未来が言ってたのはお前か!」

まだ仕事始まってないからいいようなものの、あの二人が何かもめてるみたい。

「ちょっと、二人とも、もうすぐ会社始まるよ」

こういうことはちゃんとしなきゃ、でもだめ、二人はキッと強い目で私を見た

「「どういうことですか!どっちが未来にとって大切なのか、ちゃんと後で話して下さいね!」」

あーあ、さて仕事仕事、今日はサーバーも調子悪いし帰るの遅いんじゃないかな、あーあ。

 だめずっとサーバー調子悪い、原因は会社が借りている大きなサービスのエラー、私はアプリ担当だし、サーバーのことはあんまりわかんないけど、このままだとメンテしてもアップ遅れてあぁぁぁぁ!!なんでこううまくいかないんだろう、あーあ、まぁこのアプリもんすたぁ全体で作っているから担当私だけじゃないけど、サーバーも借りるんじゃなく自社サーバーあったほうがいいんじゃないかな……あぁでもサーバー回りのセキュリティできるエンジニア不足してるし難しいよね……ふう。

 そんなこんなで終電、ふう、これ以上残業しちゃ偉いとこに怒られるから!みんなに詫び石配ればいいから!って社長が駆けずり回って、とりあえず帰れる。

 帰ったら寝るだけだ、エンジニアまじつらい……。

 もっとこう女性も働きやすくしないとさ、もういい、寝よう。

 

 次の日サーバーは戻って、メンテナンスも再開、今度はアップできた、よかった!

 で……。

 お昼休み、カコと伊馬がお弁当取りに行く私にくっついて離れない、二人とも目、怖いよ……。

「「どうする、未来?」」

バチバチに火花を燃やして、喧嘩をやめて、私のために争わないで、あぁ、こんなことになるなんて

「あ、あはは」

私はお弁当の味もわからずただぱくぱく食べる、だめ、二人は本気。

「そうだ未来、こないだかわいいブティック見つけたの、未来に似合うかも、試着、一緒にいかない?」

ぽち、カコがスマホの写真で私好みなワンピースを見せる

「あ、行きたい」

しまった

「未来にはそんなプチプラじゃない、ハイブランドが似合うんじゃないかな、僕が見立ててプレゼントしようか」

伊馬がスマホで0の一つ多いブランド見てる、やば、やば

「モノでつるなんて下品」

「同性だからといって、まさか試着についていこうとしないな?そんな下品な」

ヤバいヤバいヤバいヤバい

「あら、同性が試着室に入っちゃ駄目なの?」

「彼氏からのプレゼントは、ふだん買わないのがいいと聞いた」

あ〜もう!

「二人とも!喧嘩しないで!」

私は立ち上がった

「私は二人とも大好きなの、二人とも大切なの、まだ選べないの……。

 しばらく……」

机に両手をついて震える私に二人は

「「どれくらい?」」

と聞いた、そんな、そんなこと言われても……。

「「クリスマス」」

二人は言った

「クリスマス……?」

「8月だし、クリスマスを過ごす相手を、未来は選んだ、それでいいか?」

伊馬が軽く頬杖を付く

「そうだね、急だったしね、じゃ、一旦休戦?」

カコが頷く

「あの、仕事入っちゃったら……」

私は置いてかれる

「その場合、最後に選ばれた者だ、カコも僕も、連絡先は知ってるよな?」

カコは大きく頷く。

 あーぁ、なんか二人の戦いになっちゃって、私おいてかれた感じ……。

 はっきりしないのがわるいんだけど、こんなこと、小説でだって読んだことないよ。

「で、とりあえずワンピースは……」

「あ、それはね」

さて、私は。

 次の休み、私はカコと駅前のニオンモールに来てた。

「おまたせ~」

「ぜんぜん」

ごめんね、付き合ってないのに、そんな高いものもらえない。

 私は伊馬にそういった、ションボリしてたけど、あんなハイブランド、着ていくところないもん。

「ここ久しぶりだよね、で、どこ?お店」

「8月オープンだったんだけど、まず、ここに来たら、ね」

「「クレープだよね〜」」

そう、ここのクレープ屋さん、生地もクリームも私ごのみで、果物はフレッシュで甘さしつこくなくて……。

「これこれ〜あ〜イチゴ」

「カコキャラメルにしたんだ、一口ちょうだい〜」

 女同士なにも気遣うことなく、たわいもないクレーンゲームに燃えたり中学生みたいにファンシーショップではしゃいだり本屋でファッション雑誌眺めたり、こういうのがいいの。

 フードコートでお昼食べたら、さて、目的のブランドへ!

「未来〜似合う〜」

「でしょ〜」

カコが教えてくれたのは私がずっと雑誌でかわいいかわいい言ってたブランド、値段も手頃だしナチュラルよりが私好み。

「買っちゃおかな」

「いいと思う〜すいません〜」

私は着替えようとする

「ね、未来」

カコが試着室に入ってきた

「カコ、恥ずかしいよ」

だって、告白されたってことは、カコが私をそういう目で見ていたってことじゃない?私は着替えの手を止める。

「なんで?未来、きれいだよ、もっと見せて……」

だめー!!

私はカコを試着室から慌ててややむりやり出す、あ、あはは、わけわからない笑いで回りの目(なかったけど)は誤魔化した。

「あ〜あ、もうちょっとだったのに」

「カコ、フライング……」

私はなんだかすごく疲れて、とぼとぼと歩く

「だいたい、カコ、気持ちはすごく嬉しいの、でも、女同士で付き合うって、友達ではいられないんだよ、わかってるの?」

それはずっと気になっていたこと

「うん」

夕焼けにカコの少し寂しそうな笑顔

「私ね、未来と友達以上になりたいって気づいてから、調べたの、

 未来は私が男にしか興味ないって思ってるんじゃないかとか色々悩んで悩んで……。

 あんな冗談混じりに告白して、ごめんね」

かわいい、ヤバい、抱きしめたい。

 うわ〜わかるわかる!最初同性好きになったとき、戸惑いや色々あって当たり前だもんね!カコもそうだよね!わかるわかる!

 まして親しい友達だったりすると関係壊れるかどうか不安で不安で、わかるわかるわかる。

 あ〜もう〜!

 同志よ〜!

 私は抱きしめたい気持ちを抑えて、わかる、わかると泣いていた。

「で」

伊馬が膨れ顔

「なんだこれは」

二人の机にはおそろのゆめかわいいペガサスのペン。

「私達の友情の証!伊馬くんもどうぞ!」

カコは伊馬にペンを渡す。

「使いにくそう……それに友人になったつもりは……」

伊馬はためらうけど

「え、じゃあ未来とも友達じゃないの?」

とのカコの声に、ふんっ、とゆめかわペガサスペンを受け取った。

 今日はトラブルないし、久しぶりに定時で帰ったから、料理だってしちゃおう。

 これからまた二人には振り回されるかもだけど、とりあえず今日は寝よう。

 おやすみ。

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