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続・離陸の難しさ

離陸は着陸より考えることが多くて難しい。そういう話を前回しました。

今回は、その具体例としてロトルアRWY18の離陸とデパーチャーを見てみましょう。前回の記事でも登場した、デパーチャールートをもう一度。

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矢印の向き通り飛ぶのは、オートパイロットを使えばいいので簡単、だけど、文字で書かれた5.9%というクライムパフォーマンス(坂道)を達成できるかどうかは、特にシングルエンジンになったら厳しい、と言う話でしたね。

V1カット

飛行機は、離陸滑走してトラブルが起きた時に、滑走路の上で止まれるギリギリの速度を毎回算出します。これを「V1」といいます。飛行機の重さをはじめとする様々なファクターでV1は計算されますが、パイロットにとって大事なのは、V1を超えたら何があっても離陸を継続することです。

離陸し始めてV1までは、片方の手をパワーレバー(アクセル)にかけておいて、何か起こればすぐにそれを叩き切ってフルブレーキで止まる準備をし、隣のパイロットが「びーわん!」と叫んだ瞬間に熱々のやかんに触れた手を引っ込めるようにレバーから手を離すのは、このためです。

やかんから手を離した瞬間に片方のエンジンが壊れたらどうなるでしょうか。V1を超えてるので、離陸は継続するしかない一方で、飛行機はまだ1ミリも浮き上がっていません。つまり、V1でエンジンが壊れる「V1カット」は、飛行機が上記の求められた「坂道」を登るのにもっとも厳しい条件になるのです。

どんなにパワフルな飛行機でも「坂道」の要求が厳しいところでV1カットになれば、その坂道を登り続けられるかどうかが怪しくなってきます。そこで、前回も書いた通り、エスケープルートの設定が法律で義務付けられています。

2種類のTakeoff Flight Path

ちょっと専門的になりますが、説明してみます。

エアラインで運航するための飛行機はV1カットになった時、以下の赤線のような「坂道」を飛べるように造られています。

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Credit: https://www.skybrary.aero/

赤線の坂道をGross Takeoff Flight Path(GTFP)と呼び、そこから一定の安全率を差し引いたのが、緑の線のNet Takeoff Flight Path(NTFP)です。

ここがちょっとややこしいところなのですが、NTFP(緑の坂道)はGTFP(赤い坂道)から計算で求められる、いわば「影」のようなもので、飛行機の設計はあくまでリアルの数字であるGTFPで行われます。

例えば、「2」と書かれた部分では、双発飛行機でエンジンが1発壊れた時、2.4%の坂道を登れなければなりません。「final」は1.2%です。これがGTFPで、飛行機メーカーは、テスト飛行でその飛行機が、最低でも上図の赤線(GTFP)をクリアすることを証明しなければなりません。

ちなみにこれはアメリカの法律(CFR25.121)に書かれていて、ニュージランドでもこれを準用しています↓

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ここではひとまず、飛行機は製造時に赤線をクリアするように造られているんだな、と覚えておいてください。

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