見出し画像

メイド喫茶は「made喫茶」でもある

去年の秋ごろ、なんとなくメイド喫茶に行ってみたいなと思ったので、一人で秋葉原に行ってきた。

メイド喫茶の中でも、なんとなく敷居の低そうなところをチョイスした。コンセプトは「かつてご主人様に助けてもらった猫が、人間の姿となって恩返しをする」ということらしい。

意外にも、大きな通りの交差点に面したビルの一階に店舗が構えられていたので、大変入りやすいなと感じた。

入店する勇気が出るのを待つために、ガラスドア越しにチラッと店内を伺ってみては、交差点を一周するという変態ムーブを3回ほど繰り返し、ついに堂々の入店。いや、帰宅か。

「おかえりなさいませ、ご主人様」って本当に言ってもらえるんだ~~と感動しつつ、カウンターが満席だったのでテーブル席に案内された。

メニューや店舗の紹介を受けたところ、メイドさんを呼ぶには「にゃんにゃん」と言わなければならないらしい。こいつは困った。

それと、おすすめのケーキには上に女の子のイラストが描かれたプレートとホイップクリームが乗っており(ホイップクリームがドレスのスカート部分になっている)、「ホイップクリームを食べると女の子の絶対領域が見えてしまいますので……// 」とのことだった。

そんな説明を受けた後で、このケーキを注文することなどできない。

まずいな、どんどん向こうのペースに乗せられてしまっている……。

結局、「にゃんにゃん」と発することはできず、なんとか目線を合わせることでメイドさんを呼び、定番のオムライスを注文。

ケチャップで三日月とウサギと「みつきくんへ♡」という文字を書いてもらった。ちなみに、わたしの本名は「みつき」ではない。

少し気持ちを整えるため、オムライスをゆっくりと食べながら店内を見回す。

店内はパステルカラーで飾られており、「猫」というコンセプトに沿ったフィギュアやインテリアがいくつもあった。

当然、メイドさんは猫耳をつけており、なぜか初来店者のわたしも猫耳をつけねばならなかった。また、トイレは「砂場」と呼ぶ。

テーブルには猫の顔の形をしたプレート、「飲むと猫ちゃんになってしまう水」が注がれたカップ。

客層も豊かだ。

カウンター席はおそらく常連と思われる数人の客で埋まっており、積極的に「にゃんにゃん」とメイドさんを呼んでいる。カウンター席のほうがメイドさんと話せる機会が多そうだなー、1人でテーブル席はちょっと運が悪かったなー。

そのほかのテーブル席には、高校古典の古文単語帳を眺めている者、メイドさんの足や臀部を執拗にのぞき込もうとする者、メイドさんが「砂場」を使い終わると同時にすぐ「砂場」へ入る者。なかなか、百鬼夜行である。

そうこうしているうちに、客の誰かが「ライブ」をオーダーしたらしく、店内が暗くなり1人のメイドさんがステージに上がった。

大変快活で、かわいいダンスだった。これは店内の誰かが、やや高額な「ライブ」をオーダーしないと見れないものらしい。

カウンターの常連客は熱心にコールをしている。古文単語帳を眺めていた客は、相変わらず古文単語帳を眺めている。ページはあまり進んでいない。

1時間ほど滞在し、会計を申し出た。

なんというか……メイドさんのサービスは素晴らしく献身的なものだと思ったし、「メイド喫茶」という施設やコンセプトの面白さが分かりかけてきた一方で、いまいち入り込めなかった自分がいる。

最後にメイドさん方から退店時の挨拶を受け、メイド喫茶を後にした。

交差点を歩く途中、店内に自然に溶け込んでいたカウンターの常連客と、わたしの差は何だろう?とずっと考えていたが、ある結論にたどり着いた。

そもそも、わたしの「メイド喫茶」の認識は正しくなかったのだ。

メイド喫茶ではメイドさんから「ご主人様」と呼んでもらえることもあり、客として受動的な姿勢をとるべきだと考えていた。

しかし、カウンターの常連客は積極的に「にゃんにゃん」とメイドさんを呼び、コンセプトに合った会話を投げかけ、ライブでは熱心にコールしていた。

彼らは能動的だった。

つまり、「かつて助けた猫に、人間の姿となって恩返しをしてもらう」ことを期待して来店したのがわたし。「かつてご主人様に助けてもらった猫が、人間の姿となって恩返しをする」というストーリーをメイドさんとともに作り上げる姿勢で来店したのが彼ら。

なるほど、これは大きな差があるわ。

メイド喫茶とは、メイドさんに奉仕してもらうだけの場所ではない。メイドさんと一緒に、店のコンセプトに沿ったストーリーや世界観を作り上げていく場所だったのだ。

そして、退店後に「メイドさんと一緒に『かつてご主人様に助けてもらった猫が、人間の姿となって恩返しをする』という世界観をMadeできたな!!」と思えた時、その人間は真にメイド喫茶を楽しむことができたといえるのだろう。

同じ系列で違うコンセプトの店舗もあるらしいので、近々ぜひリベンジしたい。


雑談系Podcastもやってます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?