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掌編、短編小説広場

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此処に集いし「物語」はジャンルの無い「掌編小説」と「短編小説」。広場の主は「いち」時々「黄色いくまと白いくま」。チケットは不要。全席自由席です。あなたに寄り添う物語をお届けしたい…
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2021年5月の記事一覧

掌編「お茶にしませんか」

 毎日お仕事、お疲れ様です。最近、あなたは本当に頑張っている。春も、あんなに懸命だったのに、今月に入って、風が気持ち良い季節だからって、あなたは嬉しそうに笑って、毎日出かけて行く。けれど、そんなに一生懸命なあなたのことが、時々、心配です。  先週のこと、あなたは一度寝坊しました。あなたが寝坊するなんて、一緒に暮らして初めてのことです。いつもの時間に起きて来ないから、少しだけ気になって、それでも今日はゆっくりで大丈夫なのかなとも思ったけれど、そんな話は夕べ聞かなかったし、これ

掌編「いっぽ、にほ、かっぱ」

 会ったのか、と問われると、いやあ、どうなんだろうと首を傾げる。ただ、居るのか、と聞かれたら、うんと頷くしかない。  はっきり出会った訳では無いと思うのだけれど、知らず自分の海馬をすり抜けて、脳の片隅に、漠然と居座っている、記憶の様な、思い出の様な、一種の懐古の様なものがある。それが河童である。序に告白すれば鬼に対しても同じ事が云える。出会っていないと云い切れないのは、どれだけ過去を遡っても曖昧だからである。突き詰めようとすると暈される。掴もうとすると躱されるのだ。  ず

「食の風景・春の刺身定食」ー掌編ー

「いらっしゃい」  暖簾を潜ると威勢の良い声が飛んで来た。早くも期待が昂る。  会社の取引先へ寄った後、ついでに昼飯を食べて帰ろうと周辺をうろついてみて、偶々見つけた一軒の食堂。かろうじて食堂とはわかるけれど、古い建物で、入ろうかどうしようかと一寸だけ躊躇した。だが案外こういう場所に旨い飯が待っているものだから、思い切って扉へ手を掛けたのだ。  かつお出汁の香りが店内に充満していて、空腹を刺激する。先程威勢の良い声をかけてくれたのはカウンターの向こう側に居る主人のようだ