マガジンのカバー画像

箸休め

137
連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
運営しているクリエイター

2023年1月の記事一覧

「暮らしと喜び」

 昨年後半、小さな綻びから傷が広がるように、上を向いても上を向いてもどん底に突き落とされる思いがして、挙句自分のミスも重なり出費は嵩むしで、一体何の試練がやって来たのかと思っていた。これはよっぽど大きな、例えば宝くじの一等に当選するような、どかんと大きな幸福でもやってくるんだなとか、そうでもなければ割に合わないものなと鬱屈した精神で考えていた。私に宝くじを買う習慣はない。  だが年の終わりに待ち設けた食事会があって、私は随分はしゃいでいたのだけど、そこで仕事関連の話をし

「今日とて霜」

 池の端にロープで小舟が繋がれて、それが波紋に押されるようにしては行きつ戻りつ浅瀬を揺蕩っている。池の淵の草は冬模様で枯れ草が目立つ。ただ侘しさはない。植物が順当に一度枯れ、また来る芽吹きの季節を待って静かに休んでいるだけに見える。  自然界の色にはおためごかしがないから好い。無理に出来上がった発色もなく、水に打たれれば水に打たれたように、日差しに晒されれば日差しに晒されたように、抜けたり息を吹き返したりとありのままに世界となじんでいるのがわが心に好ましい。霜柱を踏む。

「青い鳥」

 勤め先でデザートとマリアージュした紅茶をお出しする機会が年に数回ある。新年早々にそれが二日続いて、年の初めに相応しく、皆様に幸せを運んでくれますようにと願いを込めて“ブルーバード”と名の付く紅茶をお出しした。  ホワイトチョコの濃厚な甘みに引けを取らない高貴な香りと豊かな味わいを持った紅茶は好評を得た。 「幸運の青い鳥」は、いつだって幸せを運んでくれる。  一方で私は、自分の青い鳥を一旦手放した。Twitterの話だ。あちらの140字の短文世界でお世話になった方々のこと

「師走の鐘は聞こえない」

新しい年が明けて二日のこと、脳の奥の方で薄ぼんやりとして思い出せない初夢に見切りをつけて、霧がかる山の中を走ってきました。走り初めです。思いのほか調子よく走れましたから、安心してお雑煮とおせちをもりもり食べました。それでは先月noteから頂戴したお祝いで12月を振り返ります。 #やってみた で頂きました。整理整頓をやってみた、のです。本文と関係ありませんがこのスヌーピーのおせんべいは美味しかったです。 #私の作品紹介 で頂きました。長編小説ですね。もうすぐ最終回を迎えます

「この星の点と点と卯」

うきよの香り立つ朝に さだめし命ほのかに蕾綻ばせ ぎりと人情心ゆくまで握りしめ どうぞどうぞと慎ましくも躊躇わん しらず咲く此方の花かな                          令和五年・いち  謹んで 新年のお慶びを申し上げます  令和五年卯の年が穏やかに幕を開けました。 去る2022年11月半ば、世界の総人口は80億人に達したそうです。国連の見立てによりますと、2080年代に約104億人でピークを迎え、その後は横ばいになるのだとかいう話です。80億だろうと1