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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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2022年12月の記事一覧

「どなた様もご乗車になってお待ち下さい」

 令和四年、年の瀬。今年も、遂に、ここまで辿り着きました。  年越しそばです。  数日前から黙々仕込んできたおせち料理を全て作り終え、最後に仕上げるのがこの年越しそばです。牛肉と長ネギを前日からことことさせて作った醬油ベースのお出汁が家族の集まる居間いっぱいに広がりました。さてさて、それでは、 「いただきます」  おっと、その前に。  今年もnoteで創作を続けながら、多くの御方とお会いし、温かいコメントの数々や励まし、サポート、更には長編小説をお手に取って頂きました

「silent night, holy night&heart」

こんにちは 黄色いくまと白いくまです。12月、僕らはこうしていちさんの部屋の片隅で、少しはしゃいだ気分で聖夜を待っていました。世界でもきっと、あなたからあなたに届けたい気持ちや贈り物が、優しさと、そして祈りに包まれて、運び続けられているんだなあって思いながら、可愛いサンタさんの袋の中で待っていました。 「あなたを想う」 その形はみんなそれぞれ違って、ケーキだったり花束だったり言葉だったりするのかな。けれどどれも全部、温もりに満ちていると思うんです。 僕らは願います 愛と

「終末のノートパソコン」

それは11月の終わりでした。帰宅が日を跨ぎ、常の自分なら大人しく眠るところ、腹ごしらえすればもうひと頑張りできそうだと何故だかポジティブに思ってしまったのです。その時点で尋常でないことに気が付かなければいけなかったんです。腹ごしらえの後、自らの犯した重大な過失により、「物書きいち」の生命線であるノートパソコンが壊れました。 一瞬にして落ちました。それから相棒は二度と目を覚ましませんでした。とんでもない馬鹿をしたんです。時間が経つ程に情けなくて泣きました。 当時推敲していた

「あらまほしきことなり」

 誕生月は長編執筆で自分を追い込みながら始まった。十月末に一旦書き上げる予定であったものがずれ込んで、然し山形までに一度書き上げねば呑気に旅なぞ行かせんぞと脅されるものだから、誰にって、自分にだけど、そう云う訳だから必死で書き上げた。だから旅前の一週間くらいは非常に浮かれ気分で暮らした。今がチャンスと短編や掌編を書いて楽しく暮らした。荷造りで浮かれ、切符で浮かれ、想像巡らしては浮足立って暮らした。過日お話した通り晩秋の山寺を堪能して、他にも語り切れていない山形を存分に吸い込ん

「牛の代わりにちょっといいですか」

 ちょっといいですか。  牛乳って子どもの頃からさも当然の様に学校給食にも出てきますし、何だかどこの家の冷蔵庫にも常備されてる風で、いつの間にか我々の生活圏に浸透して久しいですけど、ちょっといいですか。横槍入れるようで、好きな方には異論反論さまざまある事は凡そ察しも付きます。けれど、ちょっといいですか。  牛乳って牛の乳ですよ。つまりですね、母牛が子牛を育てるために生み出したと思うんです。子牛のために。ですから、幾ら栄養価が高いからとか言い募ってもですね、我々人間の飲み物

「山寺に晩秋を訪ねて」

 山形新幹線へ乗って我が愛しの山形県を訪ねた。東北の秋はもう終わりに近付いて、そろそろ冬支度の気配がうかがえる、さる十一月の事だ。  休暇の都合で一泊二日の短い旅ではあるけれど、的を絞れば十分に楽しめると思い、今回は不図思いついて山寺を訪問する事に決めた。調べてみると紅葉が楽しめる良い季節だとあって、なんていいタイミングだろうと出発前から巡り合わせに感謝した。私にとって山形は憧れの土地なのだ。なにしろ紅花がある。果物王国でもある。知る程に魅力の詰まった場所のようで、そこへ降