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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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2022年10月の記事一覧

「いっしょに大きくなったから」

 絵本はいつも隣にあった。物心つく前から手が届くところにあったから、破ったり鉛筆やサインペンが走ったり、汚れたり折れたり散々な目に遭わせてしまった。やった記憶はないけど、古い絵本はシミだらけのぼろぼろで、ああ、やったな。ってわかる。全部自分たちきょうだいの仕業。けれど母さんがテープ貼って直したり背表紙を手書きしていたり、落書きは消せてないけれど一応読めるから、ずっと家にある。わが家の本の後ろの見返しには、買った日付と場所が鉛筆書きで記入されてて、それも全部母さんの手蹟。  

「待ち遠しいをもらった」

 ある御方から、十一月に会えないからって誕生日プレゼントを貰った。大好物の紅茶を味わうアドベントカレンダー。妹や甥姪にプレゼントしたことはあったけれど、自分が貰うとは思わなかった。貰って知ったことがある。 十二月が物凄く楽しみになった!! 十二月になったら、クリスマスまで毎朝一つずつ箱を開けて紅茶を一杯飲んでから仕事に行くってことでしょう!想像するだけでなんて楽しい日々だろう!今からもうわくわくしている。楽しみで、たまらず写真を撮ってみた。私が誤って飲み始めない様に、自室

「すんと冷たくてぴんと張りがある」

十月に入った。巷で人が嬉しそうに話してくれるが自分はまだ金木犀を見ない。どんぐりも凶作である。冬眠の予定はないけれども残念である。 里芋へ水遣りをする為、庭でじょうろへ雨水タンクの水を溜め乍ら緑の茂みを眺めていると、物蔭に巧妙に姿隠す茗荷を見つけた。大きな花がちらっと覗いていたから気が付いた。お、と思わず収穫した。 洗って、デジカメをいそいそと持ち出して写真を撮ってみた。初秋の朝の薄い光の中で、そっと大きく育った茗荷が優しく輝いて見えた。初めて自分で収穫した茗荷だ。 今年

「いまが長月」

 初物の極早生みかんが市場へ出回る季節になりました。青々として艶やかな一つ一つ、酸味の効いた果実を想像して口の中がきゅっとなります。「今季初入荷」に居合わせた幸運に乗じて早速買って帰りました。  粒ぞろいの果実を頬張りながら、九月を振り返って参ります。 #私の作品紹介 と、先週もっともスキされた記事の一つに選ばれました。物語を書いていたくてnoteに居る自分。その一本があなたに届く度、ああ、書いていて良かった、そう思います。お年頃で活発な三姉妹の物語です。 先週もっとも

「文字で親しむ和菓子」

「事典 和菓子の世界」 中山圭子著・岩波書店 を読んでいます。 本のタイトル通り、開けばそこに奥深い和菓子の世界が広がってゆきます。著者は和菓子の造詣が大変深い御方で、その上見識の広さは和菓子のみに留まらず、この国と諸外国の歴史を見詰めながら、あらゆる角度から和菓子の成り立ちや物語が語られます。歴史を掘れば掘る程に現代に通じる和菓子の原型が詳らかにされていき、私はすっかり本書に魅了されています。 近頃巷でもあんこが流行っていると聞きます。反対に和菓子離れが目立つ為、和菓子