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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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2022年1月の記事一覧

随筆「革靴の足運ばせて、日々」

 あれよと過ぎゆく日々だけれども、今朝も目を覚まして、抜け出したくない布団の温もりから仕方なくでも起き出して、部屋の寒さが身を痛めようとも、蛇口の水が凍っていようとも、足袋型の靴下を履き、木刀えいやと振り回して、温めたお汁に焼き餅を乗せて、黙々と、生きている。耳たぶの霜焼けがなんだ。指先悴む洗濯物がなんだ。元来の負けん気は何処だと行李の中から探し出して押し出して、今日も今日とて荒ぶる世間に我が身を窶すのである。  ほうらみろ、あすこに太陽が顔出したぞ。背筋が伸びるから不思議

「大阪土産に心掴まれた」

少し前のお話です。家族が大阪に行って来たんです。忙しいスケジュールの合間に、駅で出会って思わず「お土産に!」と買って帰ってくれました。取り出された途端ハートを掴まれました。キャラが絶妙です。それに缶。 缶、好きですねえ。生活のあらゆる場所で再利用しています。さて缶の中身ですが、外見に心奪われて見ていなかったので、開けてびっくり。 芋けんぴでした!しかも、小分けの紙袋が入っています。御丁寧に封をするシール迄。面白い拘り方と云いますか、これは貰って嬉しい、開けて楽しいお土産で

「三度思い留まって年明けにとうとう買ったお台所の素敵な道具」

売り場で見かける度、手を伸ばそうか、どうしようか、迷っていた――私は道具は使えなくなる迄使う人である。修理の仕様がなくなって、漸くお別れとする。名残惜しい時もあるけれど、「今日迄ありがとう」ときっぱり別れる事にしている。わが家のお台所には、おろし金がある。まだまだ現役で、凡そ壊れそうにない。だがらこれを買う事は、欲ではないかと、無くても困らないのではないかと、三度思い留まった。だが、私は大根はおろし金を使うけれど、生姜は半解凍のものを俎板の上でスライスや刻むなどして使う。この

「極限の命と向き合った過去を、優しく包み込もうと思う」

 好物のアーモンドフロランタンを頬張った直後、私は喉と口内に違和感を覚えた。痒くて、胸が気持ち悪くなった。まさか。とその日は思ったけれど、翌日試しに齧ってみても、また同じ事が起きた。  私は母の葬儀の一切を終えた途端、食物アレルギーを発症していたのだ。    十三年前の話である。私は当時二十五歳だった。病気が判明してから、母は六年半に渡って闘病を続け、夏の暑い最中に、逝った。私には弟妹が多い。母の闘病中に、二歳児は小学生に、小学生は中学生に、もう一人の小学生は高校生になっ

「先生、書生のいちがお邪魔します」

 愛知県犬山市にある「博物館明治村」へ行って来た。それは秋も深まる休日の、風の穏やかな日の事であった。いつか行ってみようと云いながら、長い事訪ねないまま幾年過ぎて、危うく今年も触れないままに終えてしまう処であったのだが、とあるきっかけから、半藤一利著「漱石先生がやって来た。」を読み、愈々訪問の決意固めて、足を運んだのである。  何しろ私が明治村を訪ねたかった理由と云うものはただ一つ、先生の家へ訪問する事にあった。旧夏目漱石邸を訪ねてみたい、それだけが動機であると云って間違い

「謹賀新年・寅の年」

謹んで 新年のお慶びを 申し上げます 日付変わって短編小説から幕を開けました「いち」のnoteでございます。改めまして、皆々様へ御挨拶申し上げます。 旧年中は大変お世話になりました。本年も、自分らしく、物を書き、書いて、書いて、真面目に、誠実に、実直に、悪戯に、楽しく歩んで参ろうと思います故、どうぞよろしくお願い致します。                     令和四年 元旦  いち