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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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2020年10月の記事一覧

朝井まかて「落陽」を語ろう

 まかて先生の作品には、大好きな物が沢山あります。一番は決められません。秋なので、「御松茸騒動」と迷いましたが、今回は「落陽」を語りたいと思います。 「落陽」は、明治天皇崩御の辺り、大正時代を舞台に描かれます。私はそれまで朝井まかて作品は時代小説しか拝見したことがなかったので、此れも確かに過去の話ではありますが、近代日本の話だとは、タイトルだけを知った当時、思いもよりませんでした。  まず導入が読者を早々本にのめり込ませます。ページを捲って私もすいと呑み込まれた一人です。

「歌舞伎と私」

 いつか歌舞伎座で、生の歌舞伎を見たい。十年以上も前になるけれど、いつの間にか歌舞伎に興味を持っていた私は、そんな夢をずっと抱いている。  日曜の夜に、クラシック音楽や古典芸能を放送している枠があって、歌舞伎を放送する週もある。茶の間で観賞は、歌舞伎素人の入門には丁度良い入り口である。そこで数年前に中村勘九郎さんの「猿若」を見た。現代劇とは違う、独特の雰囲気と、所作。役者の動きには凛とした凄味と、豪快な立ち回りの迫力と両方が在って、私は画面に釘付けになる。しかし何より一番の衝