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食の風景

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「食の風景」とは、食に纏わる美味しいお話から、料理のあれこれを、時に脱線しながら、思うままに腕を揮っては語っております。レシピは無いけれど、今日も美味しいご飯を一緒に食べませんか。
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#エッセイ

「御先祖様の御蔭さま」

「もう止そうかと思いましたがお盆の話をします」 「ええー今更ー?」 「はじめます」                 *  おそらく、この夏はまだ多くのご家庭が直前まで悩まれたのだろうと推測致します。御多分に漏れずわが家と、そして数年帰省を見送った妹家族も、互いにぎりぎりまで、それはもう前日まで悩みに悩み抜いて、それでも互いに元気で、対策を万全にする事で帰省は可能だと判断して、今年、やっとお盆の帰省を迎えることができました。  これはそんなわが家の、育ち盛りの甥姪たちを全

「一枚のポテトチップスが私の口に入る迄」

 私事で恐縮だが、ポテチと云えばカルビーのポテトチップスを贔屓にしている。今では滅多に食べなくなったけれど、あのパリッとした食感と絶妙な塩味、或いはコンソメ味が無性に食べたくなる時がある。因みに子ども時代に誕生したピザポテトは贅沢品だった。大人になってから存在を知った堅あげポテトブラックペッパーの虜になった。私はきょうだいが多く、お菓子は器へ分けて入れるのが当たり前であったから、スナックの袋菓子をばりっと開けて、袋へ直接手を入れ、一人で抱えて食べても良いと知ったのは、かなり大

「踊るラフランスと身と心」

果物を食べている。 今朝も季節の果物を食べている。 人へ御歳暮で送ったのと同じ果物を食べてみる。 寒さで足踏みしたけれど無事追熟できた果物を食べている。 この季節だからみかんとりんご、そうしてラフランスを食べている。 サンふじとの触れ込みであったけれど届いたのはふじだったから一層喜んで食べている。 美味しい。季節の果物ってどうしてこんなに美味しいのだろう。 朝だけじゃなくて昼も、夜までついつい食べていたら、御歳暮に果物が届けられた。 そうして別の方面からも、みかんが職場とわ

「食の風景・お台所から立つ湯気の匂い」ー番外編ー

 家の中に於ける、あなたの生活の中心地は何処でしょうか。きっと人により、様々な答えが返ってくると思いますが、中でも自分の部屋とお答えになられる方は、多いのではないでしょうか。わたしも屹度「自室」と答えると思います。ですが、そう云う家の中にあって、台所・キッチンと云う場所は、特別な空間の様な気が致します。  近頃の家づくりでは、キッチンとダイニングを一つの場所として設計された家も少なくありませんから、全員が同じ想像をする事は難しいかも知れませんけれど、人が生きる上で欠かすこと

「食の風景・きんぴらごぼうと茹でもろこし」

今週の作り置きおかず。金平が食べたい。となると、牛蒡か蓮根を買いに行く。その時美味しそうな方を選ぶ。新ごぼうがあったので、今日はごぼうに決定。大根、人参は皮も全部細切りにして。エリンギ、きくらげ、糸こんにゃくも大きさ揃える様に切る。ささがきごぼうでも良かったけど、これは斜め切り。火の入りにくい物からどんどん炒めて、最後にきくらげ入れて、調味料入れて、完成。妹がお弁当のおかずにもしたいと云うので、自分にしては少し濃いめに味付け。醤油辛いと食べられないのでだしの素入れて調節。あと

「小豆がぐつぐつ、ことこと、あんこに姿を変える迄、静かに筆を執っている」

 天気予報は外れて、朝から太陽の照り付ける。朝と夜とが半分ずつではない今日と云う日に、久し振りであんこを作ろうと思い立つ。打ち明けるなら、執筆の隙間。  台所に執筆の相棒を持ち込んで、鍋で小豆をじっくり炊きながら、このあんこの文を書いている。台所にはベランダへ出るようなガラス扉が二枚ある。外の風を入れるに丁度良いその扉の、網戸の在る方を開けている。レースが微かに揺らめいては、風の通りを知らせてくれる。送れて足元に涼が漂う。ドイツ菖蒲に気圧されて大きくなり損ねた今年の紫陽花が

「初物を買うと頭の中が大家族に戻ると云うお話」

 買い物へ出かけてとうもろこしに出会った。初物だ。今年も初物を追い掛けては食卓を賑わし、食いしん坊のお腹を満たして来たと思ったら、もうとうもろこしときた。先日から西瓜も見かけるし、全く、季節の流れゆく速さときたら、光よりも矢よりも速いのではなかろうか。  とは云え、出先で初物を見掛けると、妙に心がはしゃぐもので、目が合った瞬間の、と自分の方ではそう思っているのだけれど、「あ!」となった時のはにかむような喜びは、一年中いつでも棚に並んでいる市指定のごみ袋を手に取るのとは大違い