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衛星データ利活用事例File.08:人工衛星で河川の状況モニタリング

衛星データ解析実験室!sorano me×豊橋市

豊橋市とのコラボレーション企画!豊橋市で集めたアイデアの中で、サービスとして可能性のあるアイデアを実験的に検証していきます。2022年7月スタート!
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本件に取り組む理由

愛知県には一級河川「豊川」があります。
豊川は清浄な水質河川でありながら、多くの水害の歴史があります。
治水対策として、江戸時代に設けられた洪水被害を低減させる「霞堤」は今も残っており、昭和40年度に完成した「豊川放水路」も運用されています。
参考:https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/39647.pdf

※霞堤とは、堤防を低めに作り、洪水時に洪水の一部を河川の流れから少し外して貯留させ、河川下流側の被害を低減させるために設けられた治水対策です。

credit: Tech Note

霞堤は江戸時代に作られ、豊川下流域に位置する吉田城下町の洪水被害を低減させるための治水対策と言われています。それらは各地域に存在し、東上、金沢、賀茂、下条、牛川、二葉、三上、当古、大村の地域が該当していました。

Credit: 国土交通省 資料

Google Mapを使うと衛星データで見ることができます。

Google Earth Proを使うと、過去(1985年)に遡って画像を見ることができます。
分解能も年代によって異なり、必ずしも狙った年代・時期で思い通りの衛星データを見ることはできないかもしれません。しかし、撮影時期や年代をさまざまな場所で見比べてみると予想外の変化などがわかり面白いと思います。時系列で画像をみてみたい方にはおすすめです。

そして衛星データプラットフォームとして例えばEO Browserを使うこともできます。
EO Browserは欧州で運用されている衛星画像データのプラットフォームになりますが、地形はもちろん、洪水や水質など河川にまつわる環境指標を簡単に分析することができます。
今回はEO Browserの中で閲覧できるSentinel-2という人工衛星を使用します。プラットフォーム内に簡単な画像データ解析ができる機能があります。

浸水被害の分析などについてはこちらの記事を参考にしてください。

次に河川の水質を衛星データから確認して見たいと思います。
以下のHPで、解析のサンプルスクリプトが公開されているのでアクセスします。

スクリプトをコピーします。

credit: ©︎2023 GitHub, Inc. / Sentinel Hub services by Sinergise

スクリプトを確認すると難しそうなコードが記載されていますが、Chl_a(クロロフィルa), Cya(シアノバクテリア), Turb(濁度), CDOM(着色された溶存有機物), DOC(溶存有機炭素), Color(水の色)について、それぞれ解析することができます。
デフォルトは”Color”が設定されていますが、スクリプト内の1つの変数(var FLAGparam)を変更すると上記の各指標を視覚化することができます。

例えば下記のスクリプトに示すように、”Color”の場合は”B03”と”B04”の波長帯を使用していて計算結果に応じた色で表示されます。
 Color = 25366 * Math.exp(-4.53*B03/B04);
※Math.expは e^(-4.53 x B03/B01)

credit: ©︎2023 GitHub, Inc. / Sentinel Hub services by Sinergise

EO BrowserのSentinel-2で表示させたい画像データの場所と日時を選択、そして”Visualize”タブをクリックします。
下方にある”Custom”>”Custom script”に先ほどコピーしたスクリプトを貼り付けます。(元々あったスクリプトは削除します)
最初にChl_aを表示したいと思いますので”var FLAGparam”を”0”に設定し、”Refresh Evalscript”を押します。

credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors.©︎Sentinel Hub

今回は豊川周辺の2022年9月12日(01:47:48:UTC)時点でデータを取得してみます。
すると以下のような画像を取得することができ、河川部が着色されたデータが表示されます。

各指標において濃度または値が低いと青色、濃度が高いまたは大きくなるにつれ緑、黄、赤と変化し、最大のところではピンクになるようです。

※注意事項として、水質評価指標は様々にあります。ここで着色されたから必ず汚れているとは言い切れません。

credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors.©︎Sentinel Hub

そして、同様に2022年9月27日(01:47:38:UTC)では以下の画像を確認することができました。
何が違うでしょうか!?

credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors.©︎Sentinel Hub

実はこの9月22-24日の期間内に台風15号が到来しました。

推定すると台風前はChl_aが河川で比較的多く滞留していて、台風時に流されて濃度が低くなったのかもしれません。

水質評価の一つであるTurb(濁度)も見てみたいと思います。
期間は同様に2022年9月12日(01:47:48:UTC)と2022年9月27日(01:47:38:UTC)で比較してみます。

下記が2022年9月12日(01:47:48:UTC)です。

credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors.©︎Sentinel Hub

下記が2022年9月27日(01:47:38:UTC)です。

credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors.©︎Sentinel Hub

濁度も同様に、台風の前後で河川の中にあった泥などが洗い流されているのかもしれません。
2022年9月12日の方が河川の一部で濃度が高く、2022年9月27日の方が濃度が低くなっています。

昭和40年(1965年)に豊川放水路が完成すると、洪水時に経路が変化するためいくつかの霞堤が締め切られました。二葉、三上、当古、大村の地域、そして平成9年(1997年)に東上が締め切られました。

既に締め切られている霞堤と残存する霞堤の区別は画像データから判断することは難しいですが、記事序盤にある霞堤の場所と下記画像を見比べてみると、霞堤である、あったエリアは住宅がまばらな様子が伺えます。

credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors.©︎Sentinel Hub

今でこそたくさんの建物が建っていますが、江戸・明治・大正時代に遡って文献をみれば霞堤が設けられていた地域は、浸水する可能性があったわけですあからほとんど住宅がなかったかもしれません。
衛星データで遡れる時代には限界がありますが、今と過去のデータを照らし合わせることで新しい発見があるかもしれません。

まとめ

今回は愛知県の豊川を例に取ってGoogle MapやSentinel-2の画像データを見てみました。
豊川では江戸時代から現代に至るまで様々な治水対策が取られ、それは今なお現存しています。人工衛星のメリットの一つは、今回のように過去の画像データを取得して分析にかけ考察できることです。
既に多くの人工衛星は打ち上げられ、また運用されています。週1回の頻度で撮影して無料でデータを公開しているSentinel-2のような人工衛星もあります。
人工衛星の画像データを利用して新しい発見にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

JAXAが公開しているこちらの記事も参照ください。

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