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衛星データで干ばつ被害を観測する

2022年7月にスタートした豊橋市とのコラボレーション企画の続編!
豊橋市で集めたアイデアの中で、サービスとして可能性のあるアイデアを実験的に検証していきます。
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2023年は地球温暖化や異常気象の影響により、豊橋市のみならず日本全体で記録的な猛暑となり、世界中でも例年と比べて異常ともいえる状況になりました。そのひとつに、ブラジルの北部一帯で観測史上で最悪といわれる干ばつの被害が挙げられます。エルニーニョ現象によって乾季(8~10月)の雨量が例年と比べて非常に少ないことが原因といわれています。今回は、衛星データを活用して、干ばつの被害状況を確認してみます。

干ばつの被害エリアはどこか?

まず、干ばつの被害箇所を推定するため、JAXAが公開している世界の雨分布統計を確認します。「世界の雨分布統計」は、日・月単位の平均降水量をはじめ、統計値や異常降水(干ばつ・豪雨)に関する指標などの、あらゆる衛星の観測データを利用して作られた生成されたデータを可視化できるウェブサイトです。

干ばつは、標準化降水指数 (SPI) とよばれる指標を用いて判定しています。SPIは降水量を統計処理することで、干ばつの発生頻度に対応する情報に変換したものです。

図1:SPIの指標と干ばつの深刻さの対応表(credit:JAXA)

長期的に干ばつの被害が起きているエリアを把握するため、3-month SPIを表示します。3-month SPIは、特定の3か月機関の降水量と過去のすべての年の同期間の降水量との比較をした結果です。図2に3-month SPIを表示しました。”例外的な干ばつ”(赤色部分)を示す領域が広範囲に分布していることがわかります。

図2:北ブラジル付近の3 month SPI分布(credit:JAXA)

SARで川の干上がりを見てみる

前章の図2黄緑色の枠で例外的な干ばつの地域では、川が干上がっているという報告がされています。今回は、Copernicus BrowserでSentinel-1のSARデータを用います。

詳細は後述しますが、SARデータを用いることで、任意の場所の水が前年と比べて干上がっているか否かを確認することができます。

まず、Copernicus Browserで2023年10月と2022年10月に撮影されたSAR画像を検索します。今回は「Level-1 GRD COG」にチェックを入れます。

図3:Copernicus Browser検索条件
EO Browser, https://apps.sentinel-hub.com/eo-browser/, Sinergise Ltd.

検索結果の一つを選び、「VISUALIZE」を押すと、SAR画像が表示されます。干上がり状況がよく見える「VV decibel gamma0」を選択した結果を以下に示します。VVとは地面に対して垂直の向き(偏波)で発した電波の後方散乱を同じ垂直偏波で観測した結果を表します。

図4:2023年10月17日のネグロ川(緯度:-0.8384、経度:-63.1463)
EO Browser, https://apps.sentinel-hub.com/eo-browser/, Sinergise Ltd.
図5:2022年10月10日のネグロ川(緯度:-0.8384、経度:-63.1463)
EO Browser, https://apps.sentinel-hub.com/eo-browser/, Sinergise Ltd.

SARの特徴として、なめらかな水面は衛星から放射された電波を跳ね返さないため、画像では黒く表示されます。二つのSAR画像を比較すると、2023年の方では川に中州のような灰色部分が至る所に存在していることがわかります。干ばつによって水位が低下し、地面が顔を出した様子がわかります。

図6:SARの電波の跳ね返り(credit:宙畑)

ちなみに、干ばつの調べ方と同様のことが洪水被害状況の把握でも活用できます。以下では、Sentinel-1のSARデータを活用して、洪水の状況把握をした例になります。

まとめ

今回はJAXAが公開している世界の雨分布統計で干ばつ被害が起きそうな場所を調査し、Sentinel-1のSAR画像で干ばつ被害を可視化しました。

近年、世界中でSAR衛星が打ちあがり、災害状況を広範囲かつ迅速に把握することができるようになってきました。SAR画像の処理と判読は難易度が高く、初学者にはハードルが高いです。今回のように大まかに状況を理解することができるので、機会があればまず表示してみると色んな発見があると思います。


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