見出し画像

衛星データ利活用事例File.09:温室効果ガス排出量を人工衛星で観測

衛星データ解析実験室!sorano me×豊橋市

豊橋市とのコラボレーション企画!豊橋市で集めたアイデアの中で、サービスとして可能性のあるアイデアを実験的に検証していきます。2022年7月スタート!
マガジンはこちら。

本件に取り組む理由

日本は2050年にカーボンニュートラルの実現を宣言しています。
かく言う豊橋市も令和3年11月6日に開催された「530のまち環境フェスタ」にてゼロカーボンシティ宣言を行っています。

環境対策として国内外含めさまざまな対策が取られています。
そんな中で人工衛星を利用した一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO2)排出量の観測需要が高まるかもしれません。

現在、JAXAが打ち上げたGOSAT(Greenhouse gases Observing SATellite)では、CO2を含む温室効果ガス濃度の観測を行っています。CO2観測でよく知られている人工衛星でOCO-2(Orbiting Carbon Observatory-2)というNASAが打ち上げた人工衛星もあり、地球観測衛星として活躍しています。
他に温室効果ガスを観測する人工衛星でどんなものがあるのでしょうか。

オランダや欧州などの宇宙関連機関により打ち上げられた人工衛星でTROPOMI(TROPOspheric Monitoring Instrument)があります。
COの他、二酸化窒素(NO2)やメタン(CH4)といった温室効果ガスも観測していて”Sentinel-5P”として知られています。
Sentinel-5Pが観測しているのはCO2ではなくCOですが、燃料を燃やした時などCO2と共に発生するためCOとCO2には相関があります。

環境問題を可視化する衛星についてはこちらの記事もご参考ください。

解析の流れ

人工衛星利用のプラットフォームであるGoogle Earth Engine(GEE)を使って見てみましょう。
※GEE利用には登録の必要があります。

下記の画面で左上の”Script”から”Dataset”を選択します。
赤枠で囲った”COPERNICUS_S5P_OFFL_L3_CO”をクリックすると、Sentinel-5Pが使用できます。
GEEでは画面中央に表記されているコードが書けなくても利用することはできます。
今回は、観測する期間を変更して利用したいと思います。

青枠内にある観測したい期間を変更します。
”2022-12-01~2022-12-31”の期間に設定して、緑枠の”Run”を押して実行します。
そうすると、2022年の12月中に観測された重ね合わせのデータを取得することができます。
画像内黄色枠の”Layer”を調整することで、画像の透過度を調整することができます。下記画像では50%透過度くらいにしています。

Credit: Image created using Google Earth Engine. Source data obtained from Sentinel-5P Level-2 data provided by the ESA. ©︎ Google, Inc.

透過度0%にしてみると…
下記のような画像が表示されます。
既に日本列島の形があいまいになっていますが、水色や青色になっている箇所を先の画像と比較してみると山岳地帯であることがなんとなくわかりますね。

Credit: Image created using Google Earth Engine. Source data obtained from Sentinel-5P Level-2 data provided by the ESA. ©︎ Google, Inc.

色が赤に近づけば、その分CO濃度は高くなり、逆に青色に近づけばCO濃度は低くなります。
色とCO濃度の関係性の詳細はこちらを参照ください。

COは気体なので飛ばされて正確な観測はできないのでは!?
と思われる方もいるかもしれません。
確かに台風のような風の強い日は正確ではないかもしれません。
しかし、COの分子量は28(g/mol)で空気(29 g/mol)とほぼ同じくらいですので、例えば風速1m/sだとすると1時間で3.6km、24時間で86.4kmの距離を直線的にCOが進むことになります。
24時間同じ風速かつ、同じ方向になることは現実的ではありませんが、観測期間を多少長くしたり、台風の時期を考慮していれば、そこまでズレた解釈にはならないと考えられます。

今回は国内だけではなく、世界全体を見てみたいと思います。
下記画像では日本は中央に位置させておりMapがわかるようにLayerで透過度を加工しました。

Credit: Image created using Google Earth Engine. Source data obtained from Sentinel-5P Level-2 data provided by the ESA. ©︎ Google, Inc.

透過度を0%にすると以下のような画像が表示されます。
日本左側の中国・インド・東南アジア付近とアフリカが赤くなっています。
中国・インド・東南アジアは未だ石炭火力などを含む化石燃料を多く使っていることが一因で赤くなっていると考えられます。
一方、アフリカでもかなりの部分が赤くなっています。
アフリカで化石燃料をかなり使っている!?…とは想像しにくいですが、なぜでしょう!?

Credit: Image created using Google Earth Engine. Source data obtained from Sentinel-5P Level-2 data provided by the ESA. ©︎ Google, Inc.

これは森林火災による影響が要因と言われています。
アフリカでは焼畑農業が伝統的に行われており、その影響でCO(CO2含む)排出量がかなり大きいわけです。

世界の森林火災はアマゾンやオーストラリアでの報道もあって、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
特に近年のオーストラリア・ニューサウスウェールズ州の森林火災も相当な被害であることが報道されていました。
例えば、“2019-12-15~2020-01-15”までの期間で見ると、その影響が確かにわかりますので確認してみます。

Layerで透過度を変えていますが中央付近がオーストラリアで、東部に位置するニューサウスウェールズ州で赤くなっていることが確認できます。
ちなみに先の画像では期間が全く異なっているため、特段赤くなっている地域は確認できないと思います。

Credit: Image created using Google Earth Engine. Source data obtained from Sentinel-5P Level-2 data provided by the ESA. ©︎ Google, Inc.

森林火災の参考記事

このように人工衛星を使って温室効果ガスを観測し、何かしら事象が起きたことがわかる。そして過去に遡ってデータとして確認することができました。

まとめ

人工衛星を使うと、愛知県のみならず地球全体を見渡すことができます。
「なぜ!?」の疑問からその事象を調べると、何か新しい気づきがあるかもしれません。
今回はGoogle Earth Engineを使いました。コードを含めて以下で公開しているので気になる方はリンクからご確認ください。

OCO-2は一酸化炭素ではなく二酸化炭素量を直接観測しています。
OCO-2のリンクもご参考ください。

*****************************************************************************************
 sorano meメンバー田中康平・玉置慎吾執筆
 Pythonで学ぶ衛星データ解析基礎――環境変化を定量的に把握しよう
 好評発売中
 https://gihyo.jp/book/2022/978-4-297-13232-3
*****************************************************************************************





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?