無人航空機操縦士国家資格の教則第2版と第3版は何が違うの?
無人航空機操縦士国家資格の学科試験は、2024年4月14日より、一等・二等ともに、教則第3版に基づいて学科試験が行われています。これから受験しようと思っている方で、第2版に対応した問題集を購入してしまったけど、第3版に対応した問題集をまた購入しなければならないのかと感じる方もいるかと思います。
しかし、この試験のために第3版に対応した問題集をわざわざ購入し直す必要はないと思います。なぜなら、改訂箇所は、ほとんどが表現の見直しで、大きな改訂がある部分もほとんどが一等範囲だからです。そのため、特に二等の学科試験を受験される方にはほとんど改訂の影響はないと思ってよいです。改訂された一等範囲も内容自体はそこまで大きな改訂とは言えないので、教則の改訂箇所だけ読めばよいと思います。
詳細は教則第3版をダウンロードしてみてください。
https://www.mlit.go.jp/common/001602108.pdf
1.いつ改訂されたか?
無人航空機の飛行の安全に関する教則の第2版は令和 4 年 11 月 2 日発行、第3版は令和5年4月13日発行なので、もう1年半近く前です。
2.主な改訂箇所
改訂箇所のほとんどが表現の見直しです。例えば、日中→昼間、携帯する→携行する、運航→飛行、などです。表現の見直し以外で大きな変更があった箇所は6.1.6カテゴリーIII飛行におけるリスク評価です。
以下に主な改訂箇所だけ引用しました。追加や訂正された主な部分だけ太字にしてあります。
・3.1.2 (4) カテゴリーIIIを行う場合のリスク管理〔一等〕
カテゴリーIII飛行を行う場合に、その飛行の管理が適切に行われることについては、運航飛行形態に応じたリスクの分析及び評価を行い、その結果に基づくリスク軽減策を講じることによって行う。なお、リスク評価については、「安全確保措置検討のための無人航空機の運航リスク評価ガイドライン」(公益財団法人福島イノベーション・ コースト構想推進機構 福島ロボットテストフィールド発行)を活用することが推奨されている。
・5.1.3 (2) カテゴリーIIIの飛行申請〔一等〕
カテゴリーIII飛行を行う場合には、一等無人航空操縦士の技能証明を受けた者が第一種機体認証を受けた無人航空機を飛行させることに加えて、その運航の管理が適切に行われることについて、国土交通大臣から許可又は承認を取得する必要がある。具体的には、無人航空機を飛行させる者は、飛行の形態に応じてリスクの分析と評価を行い、その結果に基づく非常時の対処方針や緊急着陸場所の設定などのリスク軽減策の内容を記載した飛行マニュアルの提出を含めて、運航の管理が適切に行われることについて申請しなければならない。また、飛行の許可・承認の審査において、無人航空機を飛行させる者が適切な保険に加入するなど賠償能力を有することの確認を行うこととしている。
カテゴリーIII飛行については、通達「無人航空機の飛行に関する許可・承認審査要領(カテゴリーIII飛行)」に従って、当該申請に係る飛行開始予定日の 20 開庁日前までに申請書を国土交通省航空局に提出しなければならない。
・5.2.2 (5) カテゴリーIII飛行において追加となる自動操縦の注意点〔一等〕
カテゴリーIII飛行は立入管理措置を講ずることなく行うものであるため、その飛行形態に応じたリスク評価において、自動操縦に関して考慮するべき注意点の例としては以下のとおり。
可能な限り第三者の立入りが少ない、飛行経路及び送電線や構造物が障害とならない飛行範囲を事前に確認し設定すること。
飛行経路付近に地上の第三者を考慮した緊急着陸地点や不時着エリアを予め設定すること。
鳥などの野生動物からの妨害を想定し防御や手動操縦での切り替えを速やかに行える体制を整えておくこと。
・5.2.3 (3) カテゴリーIII飛行において追加となる緊急時対応手順〔一等〕
カテゴリーIII飛行は立入管理措置を講ずることなく行うものであるため、その飛行形態に応じてリスクの分析及び評価を行い、その結果に基づくリスク軽減策を講じる必要がある。例えば、カテゴリーIII飛行の際に緊急対応が求められた場合に備えて、予め対応手順を設定するとともに、速やかに当該対応が実施できるよう訓練を実施することが考えられるが、その際に考慮すべき項目の例は以下のとおり。
・GNSS による位置の安定機能を用いない飛行訓練
・機体寸法に応じた緊急着陸地点の確保
・フェールセーフ機能が動作しない飛行距離等の把握
・墜落時の安全優先順位の明確化
・機体が発火した際の消火方法
・緊急連絡網の作成
・6.1.1 (2) カテゴリーIII飛行において追加となる重要事項について〔一等〕
全て削除(想定飛行空間と想定外飛行空間や、安全確保措置に必要とされる安全性の水準、保証の水準について書かれていた部分です。)
・6.1.2 (2) 事故・インシデントへの対応
無人航空機の運航中に万が一事故やインシデントが発生した場合を想定し、事前に緊急連絡先を定義しておく。負傷者や第三者物件への物損が発生した場合は、直ちに当該無人航空機の飛行を中止するとともに、人命救助を最優先に行動し、消防署や警察に連絡するなど危険を防止するための 必要な措置を講じなければならない。また、「無人航空機の事故及び重大インシデントの報告要領」に従って、速やかに国土交通大臣に事故等の報告をしなければならない。
・6.1.2 (3)カテゴリーIII飛行において追加となる安全確保〔一等〕
6.1.2 (3)と(4)が合体
カテゴリーIII飛行の飛行形態に応じたリスク評価において、機体選定に関して考慮する注意点の例として、以下のとおり。
・地上の第三者への被害の可能性を低減させる対策として、必要最低限の数より多くのプロペラ及びモーターを有するなど、適切な冗長性を備えた機体を使用すること。
・地上の第三者への被害を軽減させる対策として、パラシュートを展開するなど、落下時の衝撃エネルギーを軽減できる機能を有する機体を使用すること。
・6.1.3 (2) カテゴリーIII飛行において追加となる経路設定の注意点〔一等〕
カテゴリーIII飛行においては、飛行形態に応じてリスクの分析及び評価を行い、その結果に基づくリスク軽減策を講じる必要がある。経路設定に当たっては、地上リスクと空中リスクの両方に関し、逸脱や墜落などの異常事態時におけるリスク軽減策を講じる必要があるが、具体的な対策の例は 以下のとおりである。なお、これらに必要となる機体の機能や安全対策は事前に検証が必要である。
・可能な限り第三者の立入りが少ない飛行経路を設定する。
・飛行経路付近に緊急着陸地点や不時着エリアを予め設定する。
・飛行経路からの逸脱を防止するためのジオフェンス機能を設定する。
・ジオフェンス機能の設定において、当日の他の航空機との空域調整結果が反映されていることを確認する。
・6.1.6 カテゴリーIII飛行におけるリスク評価〔一等〕
大幅に変更されています。
(1) カテゴリーIII飛行におけるリスク評価の基本的な考え方〔一等〕
1) リスク分析及び評価において考慮すべき事項
「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(カテゴリーIII飛行)」においては、国による飛行 の許可・承認を受けるための申請を行う場合には、飛行形態に応じてリスクの分析及び評価を行い、その結果を提出することを求めている。リスクの分析及び評価において考慮すべき事項は少なくとも以下 を含むこととしている。
①次の事項を含む運航計画
・飛行の日時
・飛行する空域及びその地域
・無人航空機を飛行させる者及び運航体制
・使用する無人航空機
・飛行の目的
・飛行の方法
②飛行経路における人との衝突リスク(地上リスク)及び航空機との衝突リスク(空中リスク)
③電波環境(無線通信ネットワークを利用して操縦を行う場合に限る。)
④使用条件等指定書で指定された使用の条件等、使用する無人航空機の情報
⑤無人航空機を飛行させる者の無人航空機操縦者技能証明及び訓練の内容
⑥無人航空機を飛行させる者を補助する者等を含めた運航体制
2) リスク軽減策を記載した飛行マニュアル
無人航空機を飛行させる際の適切な運航管理の体制を維持するため、リスク評価の結果に基づくリスク軽減策の内容を記載した飛行マニュアルの作成・遵守をすることが求められる。当該飛行マニュア ルに記載する事項として例えば以下のようなものがある。
①無人航空機の点検・整備 無人航空機の機能及び性能に関する基準に適合した状態を維持するため、次に掲げる事項に留意して、機体の点検・整備の方法を記載する。
・機体の点検・整備の方法
・機体の点検・整備の記録の作成方法
・整備の実施・責任体制の明確化
②無人航空機を飛行させる者の訓練 無人航空機を飛行させる者の飛行経歴、知識及び能力を確保・維持するため、次に掲げる事項に留意して、無人航空機を飛行させる者の訓練方法等を記載する。
・無人航空機を飛行させる者の資格に関する事項
・知識及び能力を習得するための訓練方法
・知識及び能力を維持させるための訓練方法
・飛行記録(訓練を含む。)の作成方法
・無人航空機を飛行させる者が遵守しなければならない事項
・訓練の実施・管理体制の明確化
③無人航空機を飛行させる際の安全を確保するために必要な体制
-次に掲げる事項に留意して、安全を確保するために必要な体制を記載する。
・飛行前の安全確認の方法
・無人航空機を飛行させる際の安全管理体制
・事故等の報告要領に定める事態への対応及び連絡体制
(2) リスク評価ガイドラインによるリスク評価手法〔一等〕
「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(カテゴリーIII飛行)」においては、リスク評価ガイドラインによるリスク評価手法を活用することが推奨されている。リスク評価ガイドラインは、JARUS (Joint Authorities for Rulemaking of Unmanned Systems)の SORA (Specific Operations Risk Assessment)を参考に作成したものである。
ここでは、リスク評価ガイドラインによるリスク評価手法の概要を記載するが、詳細についてはリスク評価ガイドラインを参照すること。
1) リスク評価のための基本的なコンセプト
a. セマンティックモデル(想定飛行空間と想定外飛行空間)
「想定飛行空間」は、無人航空機の飛行の目的や、機体やシステムの性能、環境に応じて設定される飛行範囲である。機体や外部システムの異常・外乱の影響で想定飛行空間を外れて飛行してしまうことに備える空間として「想定外飛行空間」を設定する。
無人航空機の運航が正常に制御できている正常運航時は、標準運航手順に従って飛行を行う。機体や外部システムの異常・外乱の影響で想定飛行空間から外れてしまうおそれ、又は外れてしまった異常事態では、直ちに「異常対応手順」へと移る。異常対応手順により想定飛行空間へと復旧するのに必要 な飛行空間を想定外飛行空間として確保する。
想定飛行空間と想定外飛行空間を合わせたものが「オペレーション空間」であり、その空間から万一外れてしまった緊急事態では、直ちに「緊急時対応手順」と「緊急時対応計画」を実行する。
飛行の地上リスクを検討する際には、オペレーション空間からさらに安全マージンとしての「地上リスク緩衝地域」を合わせた範囲を検討し、そのリスクを一定の範囲まで低減するように計画する。飛行の空中リスクを検討する際には、オペレーション空間からさらに任意で「空中リスク緩衝空域」を合わせた範囲を検討し、そのリスクを一定の範囲まで低減するように計画する。
「隣接エリア」は、オペレーション空間並びに地上リスク緩衝地域及び空中リスク緩衝空域に隣接する 区域であり、無人航空機が制御不能な形で進入してしまった場合に高いリスクが想定される場合には、 隣接エリアに進入しないための対策を検討する。
b. ロバスト性(安全確保に必要とされる安全性の水準及び保証の水準)
安全確保措置を計画するに当たって、ロバスト性は重要な概念であり、安全確保措置により得られる 「安全性の水準」(安全性の増加)と、計画されている安全性の確保が確実に実施されることを示す「保証の水準」(証明の方法)の双方を勘案して評価される。
安全確保措置に必要とされるロバスト性の水準は、運航形態のリスクに応じて検討し、低、中、高の3 つの異なる水準があり、安全性の水準と保証の水準の低い方に準じて評価する。例えば、中レベルの安全性の措置が、低レベルの水準で保証された場合には、その安全確保措置は低レベルと評価される。
c. 総合リスクモデル
リスク評価における「総合リスクモデル」とは、無人航空機の運航に伴うリスク、ハザード、脅威、安全確保措置の一般的な枠組みである。
2) リスク評価手法
リスク評価ガイドラインによるリスク評価手法は、次に掲げる6ステップにより構成される。ここでは、当 該手法の概要を記載するが、詳細についてはリスク評価ガイドラインを参照すること。
a. Step 1:運航計画(CONOPS)の説明
リスク評価の最初のステップとして「運航計画(CONOPS)」を明確にする。なお、リスク評価の結果 要求される対策や安全確保措置のロバスト性の要求により修正が必要な場合がある。
b. Step 2:地上リスクの把握
無人航空機の最大寸法及び運動エネルギーと、想定する運航形態に基づき、判定表を用いて地上リスククラスを判定し、地上リスクの軽減策とロバスト性により調整し、調整後の地上リスククラスを決定 する。
c. Step 3:空中リスクの把握
想定する飛行空域において航空機と遭遇する確率について定性的に「空中リスククラス」として判定し、必要により戦略的対策を講じることにより低減し、残留する空中リスククラス(ARC-a/ARC-b/ ARC-c/ARC-d)を決定する。
「戦略的対策」とは、飛行前に航空機との遭遇確率やリスクにさらされている時間を低減するための任意の対策であり、特定の時間帯や特定の境界内での飛行などが挙げられる。一方で、「戦術的対策」 とは、飛行中に航空機との衝突を回避するための対策であり、残留する空中リスククラスに応じて対策 の要求レベルとロバスト性のレベルが割り当てられる。
d. Step 4:運航に関わる安全目標の確認
これまでのステップで特定された地上リスククラスと空中リスククラスを用いて「安全性と保証のレベ ル(SAIL)」を決定する。
その SAIL に基づき、「運航に関わる安全目標(OSO)」とその安全目標に対するロバスト性が決定さ れる。運航者は、安全確保措置の安全性の水準と保証の水準により、運航に関わる安全目標(OSO)に対するロバスト性を満たしていることを確認する。
e. Step 5:隣接エリアの考慮
オペレーション空間に隣接するエリアについても評価し、そのリスクが高い場合には、逸脱を防止するための対策を講じる。
f. Step 6:評価結果に対する対応
これまでのステップで評価されたリスクに対する要求事項を十分満足することを確認し、各対策や安全目標を達成するため、リスク評価結果に基づき飛行マニュアルを作成する。
なお、リスク評価の結果必要とされる対策や安全目標を達成することができない場合は、運航計画 (CONOPS)を修正する。
以上が主な改訂箇所です。詳細は教則第3版をダウンロードしてみてください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?