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婿は日本人がよか

農夫だった祖父の骨は、がっしりと大きく、生前の祖父の骨太の手を思い出させた。骨は、なんとも言えないきれいな色をしていた。乾いていて、温かみのある、白味の強い、空気を孕んだようなオフホワイト。その骨を見た時、ああ、きれいな色だなあ、と思って、ああ、おじいちゃんはもういないんだなあ、と思った。

その日、火葬場で、祖母から祖父との結婚当時の話を聞いた。祖母の兄の友人だった祖父とお見合いをし、農家に嫁いで、舅・姑と小姑に囲まれて暮らしていたこと。生まれてから少しして亡くなってしまった、母のお兄さんになるはずだった一番目のこどものこと。晦日の夜に産気づいた祖母を、祖父が戸板に乗せて、リヤカーを引いて祖母の生家に運んだこと。

しんしんと冷える夜に、冷たい鉄の取っ手を握る、若かりし頃の祖母を運ぶ祖父の、筋張ったあの骨太の大きな手が容易に想像できて、少し泣けた。

「ここに棚があれば」と祖母が何気なく呟いたら、数日したら棚ができているような夫だったらしい。何も言わずになんでも自分でやってしまう父親をみて育ち、男の人はみんなそうだと思っていた母は、わたしの父と結婚したとき、そうでないことに驚いたらしい。

寡黙で、優しい目の、クリント・イーストウッドに似ているとわたしたち3姉妹は思っていた、男前なおじいちゃん。農協の帽子をかぶって、グンゼの肌着に作業ズボンで、納屋で黙々と作業をしていたおじいちゃん。若い頃に農具に挟まれて、左手のひとさし指がすこし短かったおじいちゃん。

わたしが海外に住むことになったとき、「婿は日本人がよか」とつぶやいたおじいちゃん。そんな、祖父のはなし。


*Artwork: Liliana Porter, ”Man with Axe”, 2017, instalation in "Arsenal", 57th biennale International Art Exhibition,Viva Arte Viva



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