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マヨネーズのように哀しい

これは別役実さんの童話集「風の研究」にはいった童話のタイトルだ。個人的には、これ以上に哀しさを表現している言葉を知らない。

許嫁を街に残し、ミミズの文章修飾法について人里離れた小屋で研究に没頭するアネノイド・ハネノイド博士。特殊な器械を発明してミミズとの対話が可能である博士は、許嫁から届いた電報をきっかけに、ミミズが高度な文章修飾法を身につけていることにも気づかずに、ミミズとの会話に没頭していく。

この会話のなかで、自身のかなしさについて問われたミミズが「マヨネーズノヨウニカナシイ」と答える。今はもう手元にないので実は話の内容はうろ覚えのところもあるのだが、全体的にそこはかとないさみしさ、かなしさ、不条理が漂う童話集で、なんだか見てはいけない、覗いてはいけない世界を見ているような、そんな雰囲気を漂わせた本だった。そのなかにおいても、この「マヨネーズノヨウニカナシイ」というミミズの言葉は、子供ごころにそれまで読んだどんなお話、小説の悲しいシーンよりも、かなしかった。劇的でもなく、泣くこともなく、ただただ深く、長く、のっぺりとして、真っ白で暖かな穴のなかを覗き込むように拠り所なく、つづいていく、哀しさ。

わたしも、いつか、そんな哀しさを感じる日が来るだろうか。


*Artwork: Anish Kappor, ”White Dark Ⅷ”, 2000, Fibra di verto e vernice, Courtesy dell"artista e Axel Vervoordt Gallery

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