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創作活動における「執着」について

 私事だが、最近小説を「書き直し」始めた。
 元々既に五分の四ほどが書き終わっていた小説だった。中学生のときの設定をもとに、幾度か練り返しを重ね手を付けたもので、かれこれ既に一年ほど書いていた。
 既に文字数も十万文字を越していて、個人的には相当量書いた小説。わたしは、モチベーションの維持やスケジュール管理、ひいてはプロット通りの執筆が著しく下手であり、長編を完結させたのは人生で二回しかない。大帝が一万文字も書けば上々、飽きるか設定の曖昧さに気が付いて放り投げることが多い。
 そんな中、三作目の完成作に成ろうとしていた其の小説をあきらめ、もう一度書き直し始めたのだった。

 わたしは、そこまで書いた作品を放棄することを決して良しとするタイプではなかった。
 それで尚書き直しを決め、嫌いなプロット練りを再び遂行し執筆を始めたのか、未来の自分への訓戒もかねて少しだけ書こうと思う。


筆を置いていた期間

 まず、今書いている長編(この記事を書いている間、どの小説を書いていたか忘れるであろう未来の自分のために「作品A」としておこう)を書き直すに至った理由を軽く示そう。
 理由はただひとつで、後にも先にも引けない状態でプロットが破綻し、進行が不可能になってしまったからだった。

 簡単な話、もとよりこちら側の想像の解像度の低いプロットであったこと、普段書いているものとテイストの異なる淡々としたシーンを延々書き続けねばならないこと、そもそも物語自体の中でも大きく舞台と時代背景が変わる章だったこと、などがプロットの破綻を呼んだものだと思われる。
 もとより無理筋だったプロットを補完するために生まれた設定が、そしてその設定により生まれた矛盾を解消するためのプロットの大筋の変更が、そしてまたそれに伴う設定が──と、嘘に嘘を塗りたくりはったりをかましにかました結果、今回の作品Aはにっちもさっちも動かないところまで来てしまった。小説も結局現実と同じ、嘘は突き通すのが難しいということだ。
 いくつもの設定を、既に後半クライマックスに差し掛かった場所で後出しにはできない。目を引きたい情報が霞み、読者から見てもご都合主義に見えてしまう恐れがあるからだ。きっとそう言った思いもあったと思う。
 プロットの破綻を呼んだ章だけを書き直すこともできたのだろうが、結局、わたしはその章の破綻がきっかけでいったん筆を置くことになってしまった。にっちもさっちも進まない現状に嫌気がさし、それのストレスでほかの小説にも手が付かず、ゲームばかりして遊ぶ日々がしばらく続いていた。
 わたしは、これ以上書けないと分かった後も、しばらくは筆を執っていた。プロット自体がそもそも無理筋であった、ということや、失敗だった、ということを認めるのに、だいたい二か月は必要としただろうか。

 わたしは、その二か月の間に、もっと書きやすく、問題点や矛盾を分かりやすく解決できるプロットを頭の中にいくつか想起していた。わたしが現在書いている作品Aに拘ってさえいなければ、事態はもっと早く進んだろうと、一か月前のわたしに叱咤激励してやりたい。そうはいっても、わたしが今の小説をあきらめるに至るまでには、これだけの時間が必要だったというだけなのだろうけれど。


創作に対する「愛着=執着」

 さて、やけに長くなった状況の説明は置いておいて、ようやく表題のことについて書いていこうと思う。

 先ほども記した通り、わたしがここしばらく小説に触れていなかったのは、「現在の作品A」に拘っているからだった。一年かけてこつこつと書いた長編、様々な意味で挑戦的、そして完結済み二作を踏まえて得た改善点をきちんと適用した自分の作品の中では現在トップクラスにクオリティの高い作品。そう思っているものを手放すのはどうしても惜しい。そもそも、破綻している時点でクオリティが高いとは言えないのだけれど。
 それは作品への愛着であり、執着であると思うのだ。それをいち早く取っ払って捨てないことには、わたしは作品で詰まるたびに逐一1、2か月を無為に過ごさなければならなくなる。単に、無駄でしかない。これはその訓戒だ。
 一ヵ月待っても進まずプロットも治らず、クールダウンしてからの見直しをいくつか重ねてもクオリティの低さが目立ち、筆を投げてしまうような作品は続く見込みがない。とっとと先に進もう。未来の私へ。


 それから、わたしの作品への「執着」はまだある。
 書き直すにあたっての修正ポイントは、書き直しのプロットを書き始める前には既にいくつも上がっていた。そもそも無理筋と成り得る原因になった設定や、中学三年生のときにお気に入りだと思って作った設定や名称、たしかに取捨選択はして厳選はしたものであったが、その大抵が結局は執筆時に壁となっていた。
 小説を書くにあたって、ストーリーにいらないと思った設定は省き、あるいは差し替え、ご都合主義という意味ではないがピタッと嵌まるところまで厳選に厳選を重ねるべきだと思う。すべての物事には理由があり、行動の指標となる意思があり、歴史があるのだ。そこの破綻をできるだけなくすのが執筆までにする準備だった。当然、計画性がなく計画を立てるのが苦手な私はそこまですべて深く細かく出来ているわけではないが、少なくともノート一冊が埋まる程度にはストーリーのメモや人物の設定、伏線の取りこぼし帽子チェックシートや町の図解などくらいは書いている。

 わたしにはその執筆方法があっていた。過去の反省を踏まえ、作品Aに関してはほか二作に比べればより深く、矛盾がないよう無理筋にならぬよう、思いついた設定やストーリーの進行を組み合わせたはずだった。
 そこまでやって無理筋になるとは正直予想していなかったのだ。過去はもっともっとゆるゆるの設定で、文章力に差はあれどどちらも最後まで大きな矛盾も抵抗もなく走り切ったのだから、今回もある程度の修正は当然必要だろうが上手くいくだろうと。
 それなのに今回ばかり、なぜうまくいかなかったのか。それは、作品の設定への「執着」だ。
 今回は、過去二作と違い「クオリティ」を念頭において執筆していたのもあり、力づくで斬り捨てて解決するには繊細過ぎる問題がテーマだったのもあり、設定の矛盾がそのまま失敗と相成ったのだ。

 それこそ中学の時に決めた瞳の色をどうしても大きく変えたくなくて、瞳の色とリンクさせなければならない宝玉の色を変更した。それが理由で、一般的に認識されている概念の色と宝玉の色がズレた。
 かつて人間らしくない髪色をしていた彼らを人間らしく統一するのにも正直抵抗があったけれど、当然小説の世界観を邪魔するような髪色はいらないので変更した。
 昔はこんなストーリーの進行だった、という大筋をそのまま受け取り、もっといい方法はないのかと精査する間もなくまあこれで書けるべと胡坐をかいた。

 これらがすべからく問題点だった。当然、わたし自身の勉強不足や過去の反省を生かし切れていなかった部分、一年かけて書いたことによる文体の変化等様々な要因はほかにもあるが、大きく考えればこれが一番の問題点だった。
 さらに問題だったのは、わたしは振り返ったら穴だらけもいいところな設定を完全に「精査した結果」と思っていたことだ。過去の自分の「お気に入りの設定」を踏襲し、私の中の彼らのイメージを崩さないように慎重に「精査した結果」。だから、これが最善のプロットなのだと。

 一年前の自分に伝えられるならば是非に言いたい。すべからく間違っているとは言わないが、基本的にその手法は不味いのだということを。
 同人ならそれで構わないのかもしれないが、あくまでわたしはプロを目指してちまちまと文字を書く人間だ。壮大な妄想に過ぎないが、あるいは私がデビューして作品Aが本になったとして、その「読者」はわたしがかつて、中学生の小さなおつむで必死に練り返した設定を知る由もないのだ。過去を踏襲? 過去作品の踏襲、ならまだしも、その小説自体の過去設定の踏襲などいらない。
 わたしは公平な目で設定の精査をしなければならなかったのである。
 もしもそれが「過去からずっとあった設定」ではなく、「自分が今思いついた設定」だったらどうだろうか。このプロットに取り入れただろうか、将又複雑に搔き乱すだけでいらぬ混乱を呼ぶものだとボツ案にしただろうか? そうした冷静な判断力を、「作品への執着」がわたしから奪っていたのだ。それを認め、あらためて設定を精査することで、作品Aはようやく「現在の最高クオリティのプロット」で執筆することができるだろう。その先の執筆ではまた別に気を付けるべきことがあるが、今回執筆が止まった主な矛盾のすべてが、「執着」が無意識に取り入れた過去の設定たちだったのである。反省し、改めるべきだ。
 いずれ執着に乱されることなく、自然に公平な目で設定を組むことができるようになるまで、わたしはそれを常に念頭に置いておかねばならない。


そんな感じの、「作品への執着」の話だった。
ついでにもう一つ大きな反省があるとすれば、執筆はまとめてしようと思った。長編、長い期間書いてこそ長編といった感じはするけれど、完結させられた二作がどちらも一ヵ月以内に書き上げている辺りを見ても、筆の乗り方を見ても、おそらくそのスピード感が正解なので、六月は執筆強化月間にでもしようかと思う。ちなみに、設定の精査を終え再び執筆を始めた作品Aは、想像の十倍は書きやすくて驚いているところだ。
 まあ、執筆以上にしなければいけないのはAO入試の準備なのだが。

 ここまで付き合ってくれた人はありがとう。いつかまたお目見えする日があればいいなと思う。


20200531 深瀬空乃


P.S. わたしへ
作り方を忘れる前に、自家製トマトスパゲッティのソース部分の作り方をメモしておいてください。この前わたしは自分が書いたオムライスメモに救われました。


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